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さんじゅーごー
しおりを挟む今でも鮮明に思い出す父の顔。父は父である前に国王だった。故にリゼに厳しかったが、それでも父であることを忘れる人ではなかった。
「…リゼ」
「リオン、もう、嫌だ」
もう王なんて、したくない。けれどしたくないなんて理由で放り出せるほど、簡単な問題じゃない。
「今この時だって命を狙われるかもしれない、だって俺は所詮、平民の子だから、だから、側室なんて、要らない、欲しくもない」
「リゼ、大丈夫だから、分かってるから」
抱き締めて背中を撫でてくれるリオンに少しだけ安心するけれど、それでも震えは止まらない。
「今でも思い出すんだ、ラースの、顔」
「リゼ。大丈夫、もういない。大丈夫、アイツはーーもう、死んだ」
「違う、死んでない。きっとどこかで生きて、俺の命を狙ってる…ッ!」
ラースは、リゼの弟ーーそして先代の王と王妃の間に産まれた王子だった。リゼは所詮側室の、しかも平民の女の子供であり、ラースとの仲は悪かった。
誰もが王位をラースが継ぐものだと考えた。けれどある日突然リゼが王位を継ぐことを明らかにした途端、誰もがラースから目を背けた。ラースが王位に就けるはずだったのはリゼがその権利を放棄していたからだ。つまりリゼが権利を維持することを明確にした瞬間から、ラースが王位に就くことはまずなかった。
そしてそれを恨んだラースは計画を立てた。それこそがリゼを殺すための、暗殺計画だったのたが。
計算が狂ったのか、リゼに盛られるはずの毒は、父である先代の国王の口に入ったのだ。
子が親を殺すなど、しかも王家の歴史にそんなことを刻むわけにはいかない。重臣と話し合いを重ねた末に、国王の最後の遺言で、ラースを殺すことに決定した。そしてその母である前王妃は自分の息子の仕出かした事へのショックで衰弱死。
なんともお粗末な結末。
に、なるはずだった。
「…なんと申した?」
「で、ですから、その…」
「なんと申した、と余が聞いているのだ」
さっきよりも低くなったリゼの声に、通達の男は肩を震わせた。
地下牢に幽閉していたラースを、何者かが手引きをして逃がしたという。何とも言えない、あり得ない失態。
けれども対応にも問題があったのは確かだ。公にしないため、必要最低限の見張りしかつけなかったことも理由のひとつになるだろう。
「それで、見つかったのか」
「っ…既に国外に逃亡したものと思われます…!」
「クソがッ!お前たちは何をやっていた!!!」
「ヒッ…も、申し訳ございませんっ…」
父を殺し、それでも罪を償うよりも先に逃げ出す。国外へ。
リゼは直感で分かった。あの男は必ず戻ってくるだろう。今度こそ、リゼを殺すべく。
「…父上…」
血を吐き、床を紅に染め、最後まで自分の名前を呼んだ、自分の代わりに死んだ父。
国王でありながら、父親だった。
国王である前に、父親だった。
だから自分は強くあらねばならないのだ。自分を守った父のために、自分に期待を寄せる国民のために、自分を信じている者たちのために。休むことなど許されない。弱音を吐くことも許されない。
だって、自分の背負うものは大きすぎるから。
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