37 / 41
さんじゅーなな
しおりを挟む「…リゼ。皇太子の為の宴に出席する準備を」
「勝手にすればいい。俺は忙しい」
ほれ、と腕を差し出したリゼに、リオンはため息をつきながら上着のボタンに手をかける。
「侍女はどうしたんだ」
「俺に色目を使うやつは駄目だな、鬱陶しい」
「…俺の告白忘れ去られてるよね」
「何か言ったか」
「いいえ何でも」
陛下、とリオンが呟く。
未だ慣れないのは、自分の中での国王陛下はやはり父上だからだろうか。それともーー自分の代わりに王になるはずだった、あの男だろうか。
「…リゼ」
「なんだ」
「熱あるだろう」
「ない」
即答して、すぐに後悔する。
嘘を吐くときに限って即答するという癖を発見したのは他でもないこの男だ。
「…だから言っただろう、ちゃんと布団で寝ろと。三十分の仮眠で過ごせるなら、人間苦労しないだろう」
「あぁ、今日から十五分にする」
「……休め」
「馬鹿なのか。宴を休むなんて出来るわけないだろ、う…?」
立ち上がったものの目の前が真っ白になる。
「リゼ」
「…俺は大丈夫だと言った。しつこいぞ、オーブル」
「……申し訳ございません」
「……まぁ、薬くらいなら飲もうか」
「っ…すぐに用意させる…!」
多少の熱なら我慢できる。こんなことで休んでいては国を司ることなど出来ない。見くびられては困る、反乱を起こされても困る。
けれどリオンに心配をかけたいわけではない。
けれど俺は国民の求める、完璧な王であらねばならない。
「…キャロル」
もう既に会場に来ていたキャロルに声をかけたが、ふんっとそっぽを向かれた。面倒なので放置する。府と目を横にやれば、ファリムがにやりと笑った。
「国王夫妻は仲が宜しく無いようで」
いつもならそんな言葉にも腹を立てていた。それは自分が未熟だったからだ。
「ははは。皇太子殿は中々面白いことを仰られる…。この時代、お互いを気遣うことはあれど、想い合って結婚する王貴族などまず無い。…あぁ、夢見る皇太子殿にはお分かりになりませんか」
「な、なんだと…!」
「人の夫婦事情に首を突っ込まれるのは野次馬がする事かと。まさか皇太子ともあろう方が人どころか馬に成り下がるなど…有り得ませんよねぇ」
クスクスと馬鹿にした笑いを浮かべるリゼに、流石にリオンが口を出した。
「陛下。あまり宜しくない冗談は…」
「あぁそうだな、宰相。…世の中には冗談というものが通じない能無しがいるものだ」
「陛下!」
「あぁ、間違えた。能無しではない、馬鹿だな」
口をパクパクさせるリオンとキャロルを横目で見ながら、ふと視線の感じる方へ目をやる。
(…そういえば会うのも久しぶりか)
ジッとこちらを見るユリスから興味が無いように、リゼは目を逸らした。
「…私を馬鹿にしているのですか?」
ファリムが裾の暗器を指に挟むのを見て、流石に馬鹿にしすぎたと反省するーーが、それでも口は止まらない。
「ここでそれを出したところで周りが刺すことを許しはしませんよ、皇太子殿。もう少し自分の立場というものをお考えになっては?」
お前が言うか、という二人の視線はこの際気にしないことにした。
「…あぁ、このまま貴方を幽閉して交渉に使うのもいいかもしれませんね」
「なっ、に、を…!」
「貴方が国の命運を変えるということですよ。呉々も言動にはお気を付けを」
「っ……!」
悔しそうにギリッと歯を喰い縛るファリムに、ファリムの護衛がこちらを鋭い眼差しで刺す。
(そんなものが効くとでも思っているのか)
恨みは買い慣れている。今更睨まれようが怖くはないし、辛くもない。しんどいなんていう感情は、消えてしまった。
「…では戴こうか」
久しぶりの食事が豪華すぎる気がするが、まぁ困ることではない。ファリムの悔しそうな顔を最高の調味料に、食前酒を口にする。
そして、その時だ。
吐き気が込み上げてきて、口から出たのは嘔ではなく…血だった。蘇る、父の最後の姿。
人々の悲鳴と、掠れ行く景色。
最後に見えたのは、何故か遠くにいたはずのユリスの顔だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる