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夜食を作ります

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なんとか、シェナはギルドは脱退せずに済み、謹慎中のフリーになる事で話が纏まった。フリーになるための説明と簡単な手続きをしてようやく一息つけた。

「はぁ、なんか緊張した」

 話が纏まり一息つき少し脱力するシェナ。

「まさか、パーティー抜けただけでこんな事になるなんて、厄日か」
「大丈夫ですよ。ギルドマスターが戻られ、正式な調査が入れば今回の脱退の件は無効になるでしょう」
「ありがとうございます。ロベルトさん」
「いいえ。当然の対処をしたまでです。それに、今回の件は些か腑に落ちない点もあるみたいですし」
「え?」
「いえ、こちらの事です。それにしても、もう、こんな時間になってしまいましたね」
「あら、本当に」

 壁にかけてある時計をみるともう既に22時半を過ぎていた。ギルド職員も殆ど帰っている時間だ。

「アーシアさんもすみません。なり行きとは言え、こんな時間まで付き合わせしまって」

 申し訳なく感じるシェナ。

「いいのよ。私も気になったし、シェナ、フリーになっても何か困った事があったらいつでも頼ってね」

 姐御肌のアーシアに頼もしく感じる。

「お礼は、お助け一回シェナのご飯ね」

 物凄くいい笑顔のアーシア。
フサフサの尻尾をブンブン振っている。嬉しい時など感情が溢れている。

「じゃあ、今日の分のお礼に何か作って来ますね」
「本当に!?いいの?」

満面の笑みを浮かべるアーシア。

「はい。ロベルトさん。キッチン借りていいですか?」

 ギルドの中には職員やギルドメンバーが使用できる簡易キッチンが備わっている。

「ええ、大丈夫ですよ。私も御相伴に預かりましょう」
「分かりました。ちょっと待ってて下さい。キッチン借ります」

 そう言って、シェナは部屋を出てギルドのキッチンに向かう。
 部屋から出て行ったシェナを見送るアーシアとロベルト。

「・・・・・あれから、もう12年かぁ」

ポツリと呟くアーシア。

「そうですね。早いものですね」

ロベルトもしみじみ思うように呟く。
 アーシアは少し思い出を思い起こしていた。

12年前、ギルド『龍の宿り木』創立間もない時、ギルドの扉を叩いた1人の女性がいた。黒茶の髪と瞳をした、太陽のような明るい笑顔で「此処で働かせて下さい」と言ったその女性は右腕にまだ幼い女の子を抱えていた。
それが、ルリコ・ミツキとの出会いだった。

一方、ギルドのキッチンのシェナ。
勝手知ったるなんとやら。シェナは荷物を部屋の隅に置く。
一通り揃った調理器具確認。食料などを保存する魔法で冷気に満ちた小部屋、冷魔庫で食材のチェック。だが、冷魔庫の中には今すぐ食べるには不向きな食材が多々ある。

「うーん、あんまりないな。卵は、あった。油揚げ残ってた。これも使える。そう言えば、アレがまだあった筈」

 ゴソゴソと冷魔庫をあさり目当ての食材を探していく。

「あら、シェナ?」
「ん?あ、エマさん」

 声をかけられ、振り向くと出入り口にエマさんが立っていた。

「ロベルトさんとの話は終わったの?」
「はい。しばらく謹慎の身になります」
「そう、なの。これから大変ね」
「まぁ、いきなりではありますけど、あのまま脱退の書類が通ってギルドからも追い出されたら、それこそシャレになりませんから」

 選んだ食材を抱えて、冷魔庫から出てくる。

「エマさん、今日は夜勤ですか?」

 ギルドでは緊急時に備えて当直する職員がいる。

「うんん。残業」
「あ・・・・・」

 顔は笑ってるのに目が死んだ魚の目のようなエマに何かを察するシェナ。

「本当に、使えない部下は困ったものね。フッ」

自虐気味にほくそ笑むエマさん。
 シェナの脳裏にエマの言う使えない部下がピンポイントで思い当たる人物が浮かびあがる。

「あー、心中お察しします」
「ありがとう」
「これから夜食作くるんで、エマさんもどうですか?」
「うふふ。もちろん、いただきくわ。実はシェナがキッチンにいるのを見て、何か作るかなって思っていたの」

 さっきの笑ってない笑顔とは違い嬉しそうに笑うエマ。

「よかった。あ、エマさん、『ブシ』まだ残ってますか?」
「ええ、残ってるは、ちょっと待ってて」

 そう言ってエマは戸棚から濃い茶色の木片の様な物を取り出す。

「ありがとうございます。これこれ。これが無いと」
「懐かしいわね。シェナがまだギルドで働いていた時はよくそれを使ってたものね」
「これで、美味しい物が出来ます」
「何か手伝いましょうか?」
「いえ、大丈夫です。前にエマさんに包丁握らせて大惨事になりましたから」
「あ、あはは、覚えてた?」

 キッパリと言い切るシェナに笑って誤魔化すエマ。
 以前に好意でエマに手伝って貰った過去があるが、その時危うく命の危機に晒されるところだった。
 申し訳なさそうな顔をするエマにルドルフとアーシアが待っている部屋には先に行ってもらう。

「さてと」

 テーブルの上に食材をおき、上着を脱ぐ。ターバンを巻き直す。下に着ていたシャツを肘まで腕まくり。流し場で手を洗う。綺麗な布巾で手を拭いて、準備完了。

「よし、作るか」

 鍋にたっぷりの水を入れ火にかける。
その間に『ブシ』を少し厚めに削り出す。小さ目のボールの中に小山盛りになるまで削っていく。沸騰した鍋の中に削った『ブシ』を投入。辺りに『ブシ』の芳醇な香りが広がる。少し煮る。その間今度は大き目のボールに綺麗な布巾を被せておく。そして、ボールに鍋の中身を移す。

「あつ、っ、あちち」

熱い『ブシ』が溜まった布巾を絞ると、下のボールの中に黄金色のスープが出来た。

「さてと、次は・・・。めんどいから魔法使うか」

シェナはそう言うと右手と左手に意識を集中させる。

「水よ」

右手に水が溢れて徐々に手のひらサイズの球体になる。

「火よ」

左手に火の粉が集まり小さな火の玉がうまれる。火が生まれた左手をゆっくり右手にの水の球体に近づける。すると、水の球体の中に小さな気泡が生まれそれは徐々に増え大きくなっていく。水の球体が火の玉で温められ沸騰して来た。

「よし」

 シェナは球体が充分に沸騰しお湯になったら左手の火を消す。テーブルの上から正方形の形をした黄金色の油揚げを手にとる。そして、そのまま沸騰したお湯の中に油揚げを入れる。
 シェナ式の油抜きだった。
片手鍋にさっき作ったスープを少し入れ、その中に砂糖や酒などの調味料を入れ魔法で油抜きした油揚げをいれ、弱火でしばらく煮る。
油抜き使った球体は流し場に流す。
次にシェナ調理台の上に小麦粉をぶち撒け、その上に手のひらサイズの白い生地を置く。

「風よ」

今度は両手に意識を集中し風を手のひらに集める。風をまとった手で生地に触れると風の力で生地はドンドン薄く広がっていく。上下左右にと手を動かしなるべく均等な厚さになるように集中して生地を伸ばしていく。
均等に広がったらその上に小麦粉をふり生地同士がくっ付かないようにし、そのまま三つ折りに折る。
平べったい棒のようになった生地を今度は均等な細さになるように包丁で切っていく。手のひらサイズの白い生地は麺へと変わった。
それを四等分にして一旦麺は放置。
『ブシ』のスープを鍋に移し調味料を加え火にかける。
たま、魔法で今度は大き目に水の球体を作り出し、火で沸騰させる。

「よし」

シェナは柄の長いスプーンを手に取り、球に突き刺す。球は破れること無くそのまま球体を保っている。

「渦巻き」

シェナは突き刺したスプーンをぐるぐる回し始め、熱湯の球の中で小さな渦巻きを作る。スプーンを引き抜いても渦巻きはきえない。シェナはこの工程を三回繰り返す。
球の中には4つの渦が出来あがり、シェナはその4つの渦の中に先程出来た麺を入れ、熱湯の渦の中で茹でる。

「うん。こんなものかな?もう一品は欲しいよね」

冷魔庫から深緑色の葉物野菜を取り出し、魔法でさっと茹で、一口大に切る。そして、さっき布巾で絞った『ブシ』の残りを茹でた葉物野菜に和える。そこにほんの少し調味料を加え、和えたら完成。小皿に盛る。
そろそろか、と球から麺を取り出し、お湯を切る。
ここからはもう盛り付けだ。
茹で麺を器に盛り、甘めに煮た油揚げを添え、卵を割って入れる。『ブシ』のスープを注いで最後に細かく切った香草を散らして完成。

「うん。出来上がり」

 シェナは出来上がった料理を見て満足気にうなずく。

「おや?グットタイミングでしたかな?」 

 振り向くと、ロベルトが調理室に入ってきた。

「ロベルトさん」
「そろそろ、出来上がる頃かと思って、運ぶのを手伝いに」
「ロベルトさんって本当に紳士ですね」
「それほどでも」

  正直、調理室からロベルトさん達がいる部屋まで運ぶのを考えていたところだった。
シェナとロベルトは料理が乗ったお盆を持って2人が待つ部屋に向かう。
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