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骨肉
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いつの間にか眠ってしまって、あたりは暗くなっていた。
「おなかすいた」
裸のままくっついている利休が呟いたのでその額にキスしてから藤堂は起き上がった。
「着替えてくるからここで待っててくれる?」
「部屋で?レストランでおちあえばいいじゃないか」
脱ぎ捨てたジャケットを着直しながら利休は意地悪そうな笑顔を向ける。
「ここは法のない海の上やで。僕と一緒にいないと危ない」
恋人と裏社会の人間の顔を交互に使い分ける利休に呆然としているうちに彼は部屋を出ていった。
叔父はふたつも部屋を取っていない。
最初から自分と一緒、そう決めつけて広くて豪華な部屋を選んでいる。
このフロアは全部狼が貸し切っている。黒スーツ姿の構成員たちをすり抜けて利休は廊下を進んで部屋の前まで来た。
「入るよ」
鍵のかかっていない部屋をのドアを開けてから挨拶して中に入ると、着替え中の祐樹がネクタイを締めながら振り向く。
「どう?楽しんできた?」
「どうって…。藤堂さんの事?いいじゃんそんなの」
自分のキャリーケースを見つけて中に入っている服を何着かベッドに並べてしばらく眺める。
腕を組んで考えている背後から祐樹はするりと腕を回してきた。
「女用のドレス持ってきてるぞ」
「みんなが品定めするような目で見てくるからやだよ」
「品定めさ。商品としてのお前を」
「…はい?」
「お前の価値はその顔くらいだ。女みたいな顔の男。金持ちの変態に売れるだろう」
「僕をオークションに出すつもり?」
祐樹はジャケットのポケットからパケを取り出して器用に中の錠剤を取り出すと利休の口に近づけた。
「ちょっと…マジか」
絡みつく腕から逃れようと利休は暴れるが、力の差で振りほどけず無理やり口に錠剤を放り込まれて吐き出させないように大きな手で抑えられる。
沈黙の後、利休の体が力なくベッドに崩れた。
「俺の愛人でいればよかったのにあんな男と浮気しやがって」
祐樹は蔑んだ表情で利休の服を乱暴に脱がしていき、自分はズボンだけ脱いで半裸姿になる。
「漬けて何もわからないようにしといてやる。これが最後の愛情だ」
「意味わからん」
その時利休の瞳に光が戻り、上にのしかかっている祐樹に視線を送って腕を動かした。
「う…っ」
気がつくと利休の指が祐樹の肛門に深く入り込んでいる。
祐樹の顔に動揺が走って利休から離れようとしたが思うように体が動かずベッドの上で痙攣していた。
「たとえ家族でも信用すんなって教えたの祐樹だろ」
「悠人っ…お前…なにした…」
「目には目を。クスリには毒を。あはは!」
苦悶の表情を浮かべて祐樹は手を伸ばすが、飲まされたクスリのせいでハイになって笑っている利休に届かないまま力尽きてシーツに腕が落ちる。
「何で僕が何軒もはしごして飲んでたか、ちょっと考えればわかる事だろ。話はついてるんだよ」
利休は時計を見て急いで立ち上がった。
時間になっても音沙汰がない事に嫌な予感がして今井の足は早くなる。
「おい、ボスを見なかったか」
近くの部下たちに聞いてもはかばかしい返事が返ってこない。
目をこらして奥を見据えると、グレーのマオカラー姿の集団が近づいてくるのが見えた。
予感が当たった。とっさの判断で今井は祐樹の部屋に飛び込んで鍵をかける。
「やっほ」
銃を自分に向けている利休の隣に、背の高いマオカラー姿の男がひとり立っていた。
オールバックの黒髪に祐樹と同じ年くらいの、組織の名前を言えば自分たちならすぐわかる人物。
「新義和会…」
トップの人間が中国と韓国のハーフと伝え聞く以外に情報がない。端正な顔をした男は、利休の腰に手を廻して片方の手にサイレンサー付きの銃を腰の位置に構えて今井に向けている。
「ややこしい所と手を組んだな悠人」
「気がつかなかったポンコツが悪い」
「恋人ごっこは陽動か」
「無駄口たたいてないであの死体を魚の餌にして」
銃を向けられている今井に選択肢はない。
「ここから投げるのは現実的じゃない。甲板に落ちるだけで海には届かん」
「避難経路。そこなら海はすぐや。外はもうパパの兵隊が抑えとるやろうから自由に出入りして」
「これが最後の奉公だな」
「話し合いの余地はあるよ?」
「馬鹿なお前には理解できんだろうが俺はボスに殉じて死出の旅の供をするつもりだ」
「いいからさっさと運べっつってんだろ!」
発砲しそうな勢いの利休を隣の男が止める。
「僕も体張ってんだよ!何かドラッグ飲まされたからテンション高いの!!」
マオカラーの男は銃口を今井に向けたまま、利休の耳元でなにか囁いている。
男がそっと隣から離れて、半裸の祐樹を担いで窓を開けた。
「まさか…」
絶対無理だと思った時、男は思い切り腕をふって外に死体を放り投げる。
銃口を向けられているのも忘れて窓まで走り下をのぞくと、暗い夜の海に飛んでいく祐樹の姿が見えた。
そして今井も同じ運命をたどることになり、祐樹に続いて海に投げ捨てられて暗闇に消える。
「無傷で投げたら泳ぎ切るかもしれへんのに」
「この海流では無理だ。半島の小島を伝っていくとかなら可能かもしれないがここは東シナ海だぞ」
「今井ならやるかもしれん。ミスった」
美しい顔を歪めて利休は作戦が完璧にならなかったことに苛立っている。
「誰かと約束があるんじゃなかったか?後始末はしておく」
「ちょっとしんどいな…、パパの所に行ってもいい?」
男は利休の頭を撫でてから、部屋のドアに耳を当てて様子を確認してからゆっくり開いた。
黒服連中はマオカラー組に銃を突きつけられて手を頭の後ろに組みひざまずいている。
「狼は解散や」
怯える部下たちに威厳をもって言い放ち、「パパ」と呼ぶ男とその場を後にする。
見えない所まで離れると、利休は隣にいる男によりかかって、男はそれを優しく支えた。
「おなかすいた」
裸のままくっついている利休が呟いたのでその額にキスしてから藤堂は起き上がった。
「着替えてくるからここで待っててくれる?」
「部屋で?レストランでおちあえばいいじゃないか」
脱ぎ捨てたジャケットを着直しながら利休は意地悪そうな笑顔を向ける。
「ここは法のない海の上やで。僕と一緒にいないと危ない」
恋人と裏社会の人間の顔を交互に使い分ける利休に呆然としているうちに彼は部屋を出ていった。
叔父はふたつも部屋を取っていない。
最初から自分と一緒、そう決めつけて広くて豪華な部屋を選んでいる。
このフロアは全部狼が貸し切っている。黒スーツ姿の構成員たちをすり抜けて利休は廊下を進んで部屋の前まで来た。
「入るよ」
鍵のかかっていない部屋をのドアを開けてから挨拶して中に入ると、着替え中の祐樹がネクタイを締めながら振り向く。
「どう?楽しんできた?」
「どうって…。藤堂さんの事?いいじゃんそんなの」
自分のキャリーケースを見つけて中に入っている服を何着かベッドに並べてしばらく眺める。
腕を組んで考えている背後から祐樹はするりと腕を回してきた。
「女用のドレス持ってきてるぞ」
「みんなが品定めするような目で見てくるからやだよ」
「品定めさ。商品としてのお前を」
「…はい?」
「お前の価値はその顔くらいだ。女みたいな顔の男。金持ちの変態に売れるだろう」
「僕をオークションに出すつもり?」
祐樹はジャケットのポケットからパケを取り出して器用に中の錠剤を取り出すと利休の口に近づけた。
「ちょっと…マジか」
絡みつく腕から逃れようと利休は暴れるが、力の差で振りほどけず無理やり口に錠剤を放り込まれて吐き出させないように大きな手で抑えられる。
沈黙の後、利休の体が力なくベッドに崩れた。
「俺の愛人でいればよかったのにあんな男と浮気しやがって」
祐樹は蔑んだ表情で利休の服を乱暴に脱がしていき、自分はズボンだけ脱いで半裸姿になる。
「漬けて何もわからないようにしといてやる。これが最後の愛情だ」
「意味わからん」
その時利休の瞳に光が戻り、上にのしかかっている祐樹に視線を送って腕を動かした。
「う…っ」
気がつくと利休の指が祐樹の肛門に深く入り込んでいる。
祐樹の顔に動揺が走って利休から離れようとしたが思うように体が動かずベッドの上で痙攣していた。
「たとえ家族でも信用すんなって教えたの祐樹だろ」
「悠人っ…お前…なにした…」
「目には目を。クスリには毒を。あはは!」
苦悶の表情を浮かべて祐樹は手を伸ばすが、飲まされたクスリのせいでハイになって笑っている利休に届かないまま力尽きてシーツに腕が落ちる。
「何で僕が何軒もはしごして飲んでたか、ちょっと考えればわかる事だろ。話はついてるんだよ」
利休は時計を見て急いで立ち上がった。
時間になっても音沙汰がない事に嫌な予感がして今井の足は早くなる。
「おい、ボスを見なかったか」
近くの部下たちに聞いてもはかばかしい返事が返ってこない。
目をこらして奥を見据えると、グレーのマオカラー姿の集団が近づいてくるのが見えた。
予感が当たった。とっさの判断で今井は祐樹の部屋に飛び込んで鍵をかける。
「やっほ」
銃を自分に向けている利休の隣に、背の高いマオカラー姿の男がひとり立っていた。
オールバックの黒髪に祐樹と同じ年くらいの、組織の名前を言えば自分たちならすぐわかる人物。
「新義和会…」
トップの人間が中国と韓国のハーフと伝え聞く以外に情報がない。端正な顔をした男は、利休の腰に手を廻して片方の手にサイレンサー付きの銃を腰の位置に構えて今井に向けている。
「ややこしい所と手を組んだな悠人」
「気がつかなかったポンコツが悪い」
「恋人ごっこは陽動か」
「無駄口たたいてないであの死体を魚の餌にして」
銃を向けられている今井に選択肢はない。
「ここから投げるのは現実的じゃない。甲板に落ちるだけで海には届かん」
「避難経路。そこなら海はすぐや。外はもうパパの兵隊が抑えとるやろうから自由に出入りして」
「これが最後の奉公だな」
「話し合いの余地はあるよ?」
「馬鹿なお前には理解できんだろうが俺はボスに殉じて死出の旅の供をするつもりだ」
「いいからさっさと運べっつってんだろ!」
発砲しそうな勢いの利休を隣の男が止める。
「僕も体張ってんだよ!何かドラッグ飲まされたからテンション高いの!!」
マオカラーの男は銃口を今井に向けたまま、利休の耳元でなにか囁いている。
男がそっと隣から離れて、半裸の祐樹を担いで窓を開けた。
「まさか…」
絶対無理だと思った時、男は思い切り腕をふって外に死体を放り投げる。
銃口を向けられているのも忘れて窓まで走り下をのぞくと、暗い夜の海に飛んでいく祐樹の姿が見えた。
そして今井も同じ運命をたどることになり、祐樹に続いて海に投げ捨てられて暗闇に消える。
「無傷で投げたら泳ぎ切るかもしれへんのに」
「この海流では無理だ。半島の小島を伝っていくとかなら可能かもしれないがここは東シナ海だぞ」
「今井ならやるかもしれん。ミスった」
美しい顔を歪めて利休は作戦が完璧にならなかったことに苛立っている。
「誰かと約束があるんじゃなかったか?後始末はしておく」
「ちょっとしんどいな…、パパの所に行ってもいい?」
男は利休の頭を撫でてから、部屋のドアに耳を当てて様子を確認してからゆっくり開いた。
黒服連中はマオカラー組に銃を突きつけられて手を頭の後ろに組みひざまずいている。
「狼は解散や」
怯える部下たちに威厳をもって言い放ち、「パパ」と呼ぶ男とその場を後にする。
見えない所まで離れると、利休は隣にいる男によりかかって、男はそれを優しく支えた。
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