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04.距離を置きたい
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一年後。
「なぜだ……」
「申し訳ございません」
ルシアンの腕の中でロザリンデはすまなさそうに呟く。
この一年、抱き締められたり壁ドンされたり耳に息を吹きかけられたりした結果、ロザリンデはルシアンに何も感じなくなった。
当然、予知もできない。
「俺の努力不足か……? ちゃんと風呂にも入っているし着替えているし髭だって剃っている」
ロザリンデを解放して唸るルシアン。
そうなのだ、ロザリンデの記憶のふたを開くトリガーは「ドキドキ」なのだが、実験の結果、恐怖ではいけないことが明らかになっている。
ロザリンデがルシアンにときめかないといけないと気付いた彼は、ロザリンデから「ときめき男子に必要なもの」を聞き出して実践していた。
そんなことを聞かれたところでロザリンデもよくわからないので、とりあえずタナカ・リナ時代によく言われていた「男は清潔感が大事」を伝えたため、ルシアンは(元から身なりに関しては侍従が気を付けていたのだが)身だしなみに気を付ける男子に成長した。
清潔感のある美形男子。
しかも本物の王子様。
ときめかないほうがおかしいのだが、これが一年も続くと、正直にいって飽きる。
いや、ちゃんと理由はある。
ルシアンとの関係に未来がないためだ。
ときめきとは、恋の予感にほかならない。
ルシアンはロザリンデをときめかそうと必死だが、ルシアンの運命の人は自分ではないことがわかっているからときめくことができなくなった。
そもそもロザリンデの持つ未来の情報を手に入れたいのも、テオドールのたくらみに先手を打ちたいからである。
ロザリンデの闇落ちは聖女の召喚がきっかけになるのだから、テオドールの聖女召喚を阻止すればロザリンデの闇落ちは防げるわけだが、ルシアンの主目的はテオドール対策であってロザリンデの闇落ち回避はあくまでも副産物的なものだ。
別に、それでいいのに。そのはずなのに、なんだか嬉しくないのはなぜだろう。
――聖女が召喚されず、私が闇落ちしなかったら、ルシアン殿下は私と結婚することになるのだけど、それでいいのかしら。
ロザリンデは彼の運命の人ではない。
けれど、ルシアンのやりたいこと……この国の王になること……のために、ロザリンデは必要だ。正確にはロザリンデの父、ブラントシュタイン公爵が。
利用価値があると判断されているだけなのだ。
それは大事にされているというのとは少し違う気がする。嬉しくないと感じた理由はこれだ。
時間がたつほど自分の立ち位置を痛感するばかりで、むなしさが増した。
聖女が現れていない現時点ではまだ疎ましく思われていないが、聖女が現れたらどうだろう?
そう思うようになってから再び、「ここにこのままいてもいいの?」という気持ちがムクムクと湧き起こるようになった。
この世界において聖女は特別な存在だ。
彼女こそこの世界のヒロイン。
まわりの出来事をどんなにいじっても、聖女の召喚は決して避けられないものなのではないか?
そしてルシアンとアデルの恋もまた、避けられないものでは……?
二人が恋に落ちるのはかまわない。
二人の近くに自分がいるのがこわい。
白聖女でのロザリンデは嫉妬に狂ってテオドールの甘言にあっさりと乗ってしまう、見苦しいキャラだった。
彼女の苦しみはわからなくもない。けれどタナカ・リナは愚かなロザリンデが好きではなかった。
――私だって、そんな役回りは絶対にイヤよ。
前世は若くして死んでいるのに、生まれ変わってまで不幸になったらあまりにも自分がかわいそうだ。
何のためにこの世界に生まれ変わったのかと思ってしまう。
生まれ変わりの意味なんてひとつしかないのに。
だとしたら闇落ちからの悪役化は絶対に避けたい。
――やっぱり退場しかない!
「少し距離を置きましょう、ルシアン殿下」
気が付くとロザリンデはそう口走っていた。
ルシアンが驚いたようにロザリンデを見つめる。
口から出た言葉を取り消すことはできない。
「どうしたんだ、ロザリー。距離を置いたらドキドキするようになるのか?」
「わかりません。でも今は距離が近すぎるのだと思います。物語の開始まではまだ時間があります。それに」
「それに?」
言おうかためらって言葉を区切ったら、ルシアンに先を促された。
「……それに、物語ではルシアン殿下は私の情報提供なしに聖女召喚の情報をつかんでいました。私がいようがいまいが、ルシアン殿下はうまくやります。あなたには心強い仲間がたくさんいるもの」
だから、あなたに私は不要なのです。
この物語が、この世界が、そうできているから……。
とは、言えなかったが、言いたいことは伝わったらしい。
ルシアンが何か言おうとして口を開きかけ、口を閉じる。
それを何度か繰り返したのち、ルシアンは大きく深呼吸をしてからようやく話し出した。
「ロザリーの言う通りだな。情報を集めることに躍起になって、ロザリーの気持ちにまで考えが及ばなかった俺が悪かった。少し、距離を置こう」
その時、ルシアンが寂しそうに見えたことを不思議に思ったが、ロザリンデはすぐに忘れてしまった。
それからしばらくして、ルシアンは見識を広めるために外国へ留学していった。
一年後。
「なぜだ……」
「申し訳ございません」
ルシアンの腕の中でロザリンデはすまなさそうに呟く。
この一年、抱き締められたり壁ドンされたり耳に息を吹きかけられたりした結果、ロザリンデはルシアンに何も感じなくなった。
当然、予知もできない。
「俺の努力不足か……? ちゃんと風呂にも入っているし着替えているし髭だって剃っている」
ロザリンデを解放して唸るルシアン。
そうなのだ、ロザリンデの記憶のふたを開くトリガーは「ドキドキ」なのだが、実験の結果、恐怖ではいけないことが明らかになっている。
ロザリンデがルシアンにときめかないといけないと気付いた彼は、ロザリンデから「ときめき男子に必要なもの」を聞き出して実践していた。
そんなことを聞かれたところでロザリンデもよくわからないので、とりあえずタナカ・リナ時代によく言われていた「男は清潔感が大事」を伝えたため、ルシアンは(元から身なりに関しては侍従が気を付けていたのだが)身だしなみに気を付ける男子に成長した。
清潔感のある美形男子。
しかも本物の王子様。
ときめかないほうがおかしいのだが、これが一年も続くと、正直にいって飽きる。
いや、ちゃんと理由はある。
ルシアンとの関係に未来がないためだ。
ときめきとは、恋の予感にほかならない。
ルシアンはロザリンデをときめかそうと必死だが、ルシアンの運命の人は自分ではないことがわかっているからときめくことができなくなった。
そもそもロザリンデの持つ未来の情報を手に入れたいのも、テオドールのたくらみに先手を打ちたいからである。
ロザリンデの闇落ちは聖女の召喚がきっかけになるのだから、テオドールの聖女召喚を阻止すればロザリンデの闇落ちは防げるわけだが、ルシアンの主目的はテオドール対策であってロザリンデの闇落ち回避はあくまでも副産物的なものだ。
別に、それでいいのに。そのはずなのに、なんだか嬉しくないのはなぜだろう。
――聖女が召喚されず、私が闇落ちしなかったら、ルシアン殿下は私と結婚することになるのだけど、それでいいのかしら。
ロザリンデは彼の運命の人ではない。
けれど、ルシアンのやりたいこと……この国の王になること……のために、ロザリンデは必要だ。正確にはロザリンデの父、ブラントシュタイン公爵が。
利用価値があると判断されているだけなのだ。
それは大事にされているというのとは少し違う気がする。嬉しくないと感じた理由はこれだ。
時間がたつほど自分の立ち位置を痛感するばかりで、むなしさが増した。
聖女が現れていない現時点ではまだ疎ましく思われていないが、聖女が現れたらどうだろう?
そう思うようになってから再び、「ここにこのままいてもいいの?」という気持ちがムクムクと湧き起こるようになった。
この世界において聖女は特別な存在だ。
彼女こそこの世界のヒロイン。
まわりの出来事をどんなにいじっても、聖女の召喚は決して避けられないものなのではないか?
そしてルシアンとアデルの恋もまた、避けられないものでは……?
二人が恋に落ちるのはかまわない。
二人の近くに自分がいるのがこわい。
白聖女でのロザリンデは嫉妬に狂ってテオドールの甘言にあっさりと乗ってしまう、見苦しいキャラだった。
彼女の苦しみはわからなくもない。けれどタナカ・リナは愚かなロザリンデが好きではなかった。
――私だって、そんな役回りは絶対にイヤよ。
前世は若くして死んでいるのに、生まれ変わってまで不幸になったらあまりにも自分がかわいそうだ。
何のためにこの世界に生まれ変わったのかと思ってしまう。
生まれ変わりの意味なんてひとつしかないのに。
だとしたら闇落ちからの悪役化は絶対に避けたい。
――やっぱり退場しかない!
「少し距離を置きましょう、ルシアン殿下」
気が付くとロザリンデはそう口走っていた。
ルシアンが驚いたようにロザリンデを見つめる。
口から出た言葉を取り消すことはできない。
「どうしたんだ、ロザリー。距離を置いたらドキドキするようになるのか?」
「わかりません。でも今は距離が近すぎるのだと思います。物語の開始まではまだ時間があります。それに」
「それに?」
言おうかためらって言葉を区切ったら、ルシアンに先を促された。
「……それに、物語ではルシアン殿下は私の情報提供なしに聖女召喚の情報をつかんでいました。私がいようがいまいが、ルシアン殿下はうまくやります。あなたには心強い仲間がたくさんいるもの」
だから、あなたに私は不要なのです。
この物語が、この世界が、そうできているから……。
とは、言えなかったが、言いたいことは伝わったらしい。
ルシアンが何か言おうとして口を開きかけ、口を閉じる。
それを何度か繰り返したのち、ルシアンは大きく深呼吸をしてからようやく話し出した。
「ロザリーの言う通りだな。情報を集めることに躍起になって、ロザリーの気持ちにまで考えが及ばなかった俺が悪かった。少し、距離を置こう」
その時、ルシアンが寂しそうに見えたことを不思議に思ったが、ロザリンデはすぐに忘れてしまった。
それからしばらくして、ルシアンは見識を広めるために外国へ留学していった。
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