夏の魔物

たんぽぽ。

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夏の宴

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 7月に入ったある日。

 出勤すると、休憩室でミサキちゃんに声を掛けられた。彼女は私とは別の大学の同い年で、学生バイトのリーダー的存在だ。
「佐々木さんの送別会、人が集まんないんだけど葉月ちゃん来られない?」

 社員のツーブロック佐々木は転勤が決まって7月末までの出勤なのだけれど、ほとんどのバイトは彼が居なくなるのを喜んでいる。ミサキちゃんは幹事をするのが好きみたいで、いつも飲み会を仕切っている。でもツーブロック佐々木は皆に嫌われているから参加者が少なくて、今回は困っているようだ。

 出席するつもりは無かったけれど、一応聞いてみる。
「誰が来るの?」
「今決まってるのは、社員さんは副店長以外の3人と、私と、本多さんと、吉岡君」

 副店長は所帯持ちの女性だからかいつも飲み会に出席しない。と言っても彼女にとってツーブロックは天敵だから、暇でも行かないだろう。他の社員は義務感から出席するのだろうし、パンダ本多さんはミサキちゃんと仲が良くてしかもツーブロックの嫌味を受け流す程の寛容さを持っているから行くのだろう。

 それにしてもこの店には20人以上が働いているのに、参加者がたったそれだけとは。どんだけ人望が無いんだ。

「ふうん。吉岡君も来るんだ」
心が揺れた。
「うん。吉岡君の歓迎会もついでにやっちゃおうと思って。ツーブロックの被害にもまだあってないみたいだしちょっと強引に誘ってみた」
「私も行こうかな」
「ホント? 助かる!」

 日時をスマホにメモしながら、私は柄にもなくワクワクしていた。チャンス到来。アルコールに援護してもらえば何とかなりそうだ。
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