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第三章 アレキサンドライト領にて
74、到着!アレキサンドライト公爵邸2
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つい今まで穏やかだったリアムの声と表情が、焦りと狼狽に変わる。それを見たアンドレがふっと息を漏らして笑い、彼はそのまま何も言わずに屋敷までオリビアたちを誘導し、ゲストルームへ案内した。
歩いてついていきながら、オリビアもまた先ほどのアンドレの言葉を頭の中で反すうしていて、その度に疑問が浮かび、直後に気恥ずかしくなるのを繰り返していた。
(は、初恋って、初恋って……)
ゲストルームに案内され、オリビアがリアム、リタと一緒に入室すると、アンドレは入り口で深々と一礼した。
「それでは私はこれで失礼いたします。皆様、ごゆっくりお過ごしください。昼食の用意が整いましたら呼びに参ります」
「ありがとう、アンドレ」
オリビアはアンドレに礼をすると、彼は優しく微笑みもう一度礼をしてその場を後にした。
「オリビア嬢」
「はい!」
アンドレが去った後、オリビアは背後から声をかけられた。返事をして振り向くとリアムが立っていた。
人ひとり分くらいのスペースが空いているはずの位置だが、彼の体が大きくずいぶん至近距離に感じる。
そして、彼は頬を赤らめオリビアと視線は合わせず、何か言いたそうに体をわずかに揺らしていた。緊張しているようだ。
「その、先ほどアンドレが言ったことは……」
「は、はい。初恋というのは……」
リアムの緊張が伝わり、オリビアも顔が熱くなった。それでも話の続きが気になり問いかけてみると、彼はゆっくりと口を開いた。
「実は……」
リアムが話し始めたところで、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
部屋の入り口に視線を移すと、そこにはおそらくオリビアと同じ年頃の少年が立っていた。
「失礼します。オリビア・クリスタル伯爵家令嬢?」
「は、はい!」
急に名前を呼ばれ、オリビアは背筋を伸ばし返事をした。少年は艶のある赤い髪の毛に茶色い瞳をしていた。そして顔立ちが整っており、オリビアの婚約者に似ていた。
「サイラス!」
リアムが少年——サイラスを呼ぶと、彼は笑顔を見せ右手を上げてから部屋の中に入ってきた。そして、オリビアの前に立ち挨拶をする。
「初めまして。サイラス・アレキサンドライトと申します。兄のリアムがお世話になっています。僕のことは気軽に、サイラスと呼んでください」
「初めまして。オリビア・クリスタルと申します。いつもお兄様にはお世話になっております。どうかよろしくお願いいたします、サイラス様」
オリビアも軽く頭を下げて挨拶をする。頭を上げてサイラスと視線を合わせると、彼はにっこりと微笑んだ。
顔立ちが似ていてリアムの少年時代を思い出すが、サイラスは彼に比べて少し砕けた性格のようだ。
「サイラス、後で挨拶すると言っておいただろう」
「だって、早くリアム兄様の初恋の人に会いたかったんだもの。こんなに美人だとはね」
「こら! サイラス!」
「ははっ。こんなに取り乱す兄様なんてなかなか見られないよ。また後でね、未来のお義姉様《ねえさま》」
嗜めようとしたリアムをからかって、サイラスは笑いながら手を振って部屋を後にした。ほんのわずかな時間、彼の行動はまるで風が通り抜けるように素早く、軽やかだった。
>>続く
歩いてついていきながら、オリビアもまた先ほどのアンドレの言葉を頭の中で反すうしていて、その度に疑問が浮かび、直後に気恥ずかしくなるのを繰り返していた。
(は、初恋って、初恋って……)
ゲストルームに案内され、オリビアがリアム、リタと一緒に入室すると、アンドレは入り口で深々と一礼した。
「それでは私はこれで失礼いたします。皆様、ごゆっくりお過ごしください。昼食の用意が整いましたら呼びに参ります」
「ありがとう、アンドレ」
オリビアはアンドレに礼をすると、彼は優しく微笑みもう一度礼をしてその場を後にした。
「オリビア嬢」
「はい!」
アンドレが去った後、オリビアは背後から声をかけられた。返事をして振り向くとリアムが立っていた。
人ひとり分くらいのスペースが空いているはずの位置だが、彼の体が大きくずいぶん至近距離に感じる。
そして、彼は頬を赤らめオリビアと視線は合わせず、何か言いたそうに体をわずかに揺らしていた。緊張しているようだ。
「その、先ほどアンドレが言ったことは……」
「は、はい。初恋というのは……」
リアムの緊張が伝わり、オリビアも顔が熱くなった。それでも話の続きが気になり問いかけてみると、彼はゆっくりと口を開いた。
「実は……」
リアムが話し始めたところで、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
部屋の入り口に視線を移すと、そこにはおそらくオリビアと同じ年頃の少年が立っていた。
「失礼します。オリビア・クリスタル伯爵家令嬢?」
「は、はい!」
急に名前を呼ばれ、オリビアは背筋を伸ばし返事をした。少年は艶のある赤い髪の毛に茶色い瞳をしていた。そして顔立ちが整っており、オリビアの婚約者に似ていた。
「サイラス!」
リアムが少年——サイラスを呼ぶと、彼は笑顔を見せ右手を上げてから部屋の中に入ってきた。そして、オリビアの前に立ち挨拶をする。
「初めまして。サイラス・アレキサンドライトと申します。兄のリアムがお世話になっています。僕のことは気軽に、サイラスと呼んでください」
「初めまして。オリビア・クリスタルと申します。いつもお兄様にはお世話になっております。どうかよろしくお願いいたします、サイラス様」
オリビアも軽く頭を下げて挨拶をする。頭を上げてサイラスと視線を合わせると、彼はにっこりと微笑んだ。
顔立ちが似ていてリアムの少年時代を思い出すが、サイラスは彼に比べて少し砕けた性格のようだ。
「サイラス、後で挨拶すると言っておいただろう」
「だって、早くリアム兄様の初恋の人に会いたかったんだもの。こんなに美人だとはね」
「こら! サイラス!」
「ははっ。こんなに取り乱す兄様なんてなかなか見られないよ。また後でね、未来のお義姉様《ねえさま》」
嗜めようとしたリアムをからかって、サイラスは笑いながら手を振って部屋を後にした。ほんのわずかな時間、彼の行動はまるで風が通り抜けるように素早く、軽やかだった。
>>続く
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