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第四章 ふたりは恋人! オリビア&リアム
116、恋人はマッチョ騎士(中編)3
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「アンナ! やめろ!」
「ありゃ、言っちゃった。ごめ~ん」
アンナは舌の先を唇から出して笑っている。全く悪いとは思っていなさそうだ。オリビアは首を軽く傾げた。
「下見……ですか?」
「その……同僚たちに流行りの店を聞いていたら、この店の名が出てきたんだ。君の趣味に合うかわからなくて、下見をと思って……。聞かなかったことにしてくれないか?」
オリビアがリアムを見上げると、彼は目が合わないよう横に視線を逸らした。頬と耳が真っ赤になっている。
仕事帰りにわざわざこの可愛らしい店にたったひとりで訪れたのか。自分とのデートのために。そう思うと、嬉しくてたまらない。思わず笑い混じりの息が漏れる。
「ふふっ。だめです。だって私のためにそこまでしてくれたなんて、とても嬉しいんですもの。忘れられませんわ」
「オリビア嬢……」
オリビアがリアムと見つめ合っていると、パチンっと手を合わせる音が聞こえた。アンナだ。
「はい! そういうのはお買い物が終わってからにしてね~」
彼女はそう言ってガラスケースを指し買い物を促したので、オリビアはリアムと同じタイミングでガラスケースに視線を移した。
「オリビア嬢、本当にこの首飾りが気に入ったかい?」
「はい。気に入りました」
「アンナ、その首飾りを売ってくれ」
「やった! ありがとうございま~す」
リアムの言葉に、間髪入れずに返事をしたアンナは急いでガラスケースから首飾りを取り出し、会計を始めた。口元が緩みっぱなしの彼女を見ながら、きっとそこそこに値が張るものなのだろうとオリビアは思った。
「そ、れ、で、は……アンティークの首飾りがおひとつで……三十万エールです!」
「ひい……! 三十万エール?」
「お、おい! ぼったくりか?」
デザインにもよるが、ジュエリトスでは金の首飾り一本が三万エールほどで買える。
オリビアは通常の十倍という予想外の金額に驚愕した。リアムは一瞬の沈黙の後に勢いよく突っ込んでいるので、きっとまさかの金額に反応が遅れたのだろう。それほどに高額だ。
「いやいや、おふたりさん。これ本当にアンティークなのよ? しかもこの赤みの入ったゴールドなんて手に入らないよ。貴重だから付加価値がつくってわけ」
確かにそうだ。この赤みの入ったゴールドはジュエリトスでは見たことがない。肌馴染みの良さそうな色合いや凝ったデザインのチェーンが気に入ったが、さすがに初めてのプレゼントには高額すぎる。
三十万エールはオリビアの経営するカフェ「バルク」でマッチョ店員二名の基本給に匹敵する。後ろ髪を引かれつつ、オリビアはリアムに申し出た。
「リアム様、私やっぱり別なものにしますわ」
「いや、気に入っているのだろう? 驚きはしたが払えない額じゃないから遠慮することはない。ぜひプレゼントさせて。アンナ、紙幣が足りないからこっちでいいか?」
リアムがオリビアに優しい笑顔を向けた後、懐のポケットから金色の板を出してアンナに渡した。彼女はそれを見てにんまりと笑い、重さをはかる。
「はいは~い! 金でのお支払いね。もちろん構わないよ。純金のプレートが二枚……三十二万エールお預かり! な、の、で……二万エールお返しね! あ、これ飾りはついてなくて別売りなんだけどどうする? 何か買う?」
「あ、それはこれを使ってほしくて……」
オリビアは薬指につけていた婚約指輪を外し、差し出した。
「この指輪を?」
「はい。指にはつけられませんが、首飾りに通せばいつでも身につけていられますので」
「なるほど、婚約発表まではお忍びってことね! いいね~。あ、今つけていく?」
「はい、ぜひ」
「じゃあアレキくん、これどうぞ」
「ああ、ありがとう。オリビア嬢、髪の毛を少し上げてくれないか?」
「はい」
オリビアは首にかからないよう結われた髪の毛先を上げた。
そこに、リアムが指輪を通した首飾りをそっとかける。少し首元がくすぐったい。その後、すぐに首の後ろで金具を留めてもらう。指輪が重みで前に下がり、服の中にちょうど隠れた。学校でも問題なさそうだ。
「さあ、できたよ」
「ありがとうございます、リアム様」
「うんうん、いいね。似合ってる!」
オリビアとリアムはアンナに見送られ店を後にした。
>>続く
「ありゃ、言っちゃった。ごめ~ん」
アンナは舌の先を唇から出して笑っている。全く悪いとは思っていなさそうだ。オリビアは首を軽く傾げた。
「下見……ですか?」
「その……同僚たちに流行りの店を聞いていたら、この店の名が出てきたんだ。君の趣味に合うかわからなくて、下見をと思って……。聞かなかったことにしてくれないか?」
オリビアがリアムを見上げると、彼は目が合わないよう横に視線を逸らした。頬と耳が真っ赤になっている。
仕事帰りにわざわざこの可愛らしい店にたったひとりで訪れたのか。自分とのデートのために。そう思うと、嬉しくてたまらない。思わず笑い混じりの息が漏れる。
「ふふっ。だめです。だって私のためにそこまでしてくれたなんて、とても嬉しいんですもの。忘れられませんわ」
「オリビア嬢……」
オリビアがリアムと見つめ合っていると、パチンっと手を合わせる音が聞こえた。アンナだ。
「はい! そういうのはお買い物が終わってからにしてね~」
彼女はそう言ってガラスケースを指し買い物を促したので、オリビアはリアムと同じタイミングでガラスケースに視線を移した。
「オリビア嬢、本当にこの首飾りが気に入ったかい?」
「はい。気に入りました」
「アンナ、その首飾りを売ってくれ」
「やった! ありがとうございま~す」
リアムの言葉に、間髪入れずに返事をしたアンナは急いでガラスケースから首飾りを取り出し、会計を始めた。口元が緩みっぱなしの彼女を見ながら、きっとそこそこに値が張るものなのだろうとオリビアは思った。
「そ、れ、で、は……アンティークの首飾りがおひとつで……三十万エールです!」
「ひい……! 三十万エール?」
「お、おい! ぼったくりか?」
デザインにもよるが、ジュエリトスでは金の首飾り一本が三万エールほどで買える。
オリビアは通常の十倍という予想外の金額に驚愕した。リアムは一瞬の沈黙の後に勢いよく突っ込んでいるので、きっとまさかの金額に反応が遅れたのだろう。それほどに高額だ。
「いやいや、おふたりさん。これ本当にアンティークなのよ? しかもこの赤みの入ったゴールドなんて手に入らないよ。貴重だから付加価値がつくってわけ」
確かにそうだ。この赤みの入ったゴールドはジュエリトスでは見たことがない。肌馴染みの良さそうな色合いや凝ったデザインのチェーンが気に入ったが、さすがに初めてのプレゼントには高額すぎる。
三十万エールはオリビアの経営するカフェ「バルク」でマッチョ店員二名の基本給に匹敵する。後ろ髪を引かれつつ、オリビアはリアムに申し出た。
「リアム様、私やっぱり別なものにしますわ」
「いや、気に入っているのだろう? 驚きはしたが払えない額じゃないから遠慮することはない。ぜひプレゼントさせて。アンナ、紙幣が足りないからこっちでいいか?」
リアムがオリビアに優しい笑顔を向けた後、懐のポケットから金色の板を出してアンナに渡した。彼女はそれを見てにんまりと笑い、重さをはかる。
「はいは~い! 金でのお支払いね。もちろん構わないよ。純金のプレートが二枚……三十二万エールお預かり! な、の、で……二万エールお返しね! あ、これ飾りはついてなくて別売りなんだけどどうする? 何か買う?」
「あ、それはこれを使ってほしくて……」
オリビアは薬指につけていた婚約指輪を外し、差し出した。
「この指輪を?」
「はい。指にはつけられませんが、首飾りに通せばいつでも身につけていられますので」
「なるほど、婚約発表まではお忍びってことね! いいね~。あ、今つけていく?」
「はい、ぜひ」
「じゃあアレキくん、これどうぞ」
「ああ、ありがとう。オリビア嬢、髪の毛を少し上げてくれないか?」
「はい」
オリビアは首にかからないよう結われた髪の毛先を上げた。
そこに、リアムが指輪を通した首飾りをそっとかける。少し首元がくすぐったい。その後、すぐに首の後ろで金具を留めてもらう。指輪が重みで前に下がり、服の中にちょうど隠れた。学校でも問題なさそうだ。
「さあ、できたよ」
「ありがとうございます、リアム様」
「うんうん、いいね。似合ってる!」
オリビアとリアムはアンナに見送られ店を後にした。
>>続く
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