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第八章 決戦!ペリドット領
201、木曜日の旅立ち
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食事を終えゲストルームにリアムを案内後、オリビアはリタ、ジョージ、セオと自室で外出の準備を始めていた。身元を知られないよう目立ちすぎないドレスに着替え、髪をまとめ、顔をなるべく隠せるようにつばが広い帽子を用意した。
「あまり大荷物になってはおかしいから、小旅行で通りがかったような感じでいきましょう。ルートも考えなくちゃ」
ペリドット領の地図を取り出し、机の上に広げる。怪しまれずに必要なことを調べるには、まず市街地で観光客向けの店から攻めていこうか。オリビアが地図と睨めっこをしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ。リタ、ドアを開けてちょうだい」
「かしこまりました」
リタがドアを開ける。彼女に案内され入室してきたのはリアムだった。オリビアは一文字に引き締めていた口元を緩ませ、彼に笑顔を向けた。
「リアム様、お休みになっていなくて平気ですか? 昨日からの長旅でお疲れでしょう?」
「いいや。パール領で一泊しているから平気さ。それに騎士団の演習や訓練に比べたら移動は楽なものだよ」
「そうなのですね?」
「ああ。そうだよな、セオ?」
リアムがセオに含み笑いを浮かべながら同意を求めた。元騎士団員で彼のかつての部下は、苦笑混じりに「そうです」と答えている。よほど騎士団の訓練は厳しいようだ。
「で、それはペリドット領の地図かな。いつ出発? 私はいつでも出られるよ」
「ルートを決めて打ち合わせ次第、出ようと思っています。ですがリアム様……」
「どうした、オリビア嬢?」
オリビアは一緒に出かける気満々のリアムに、眉尻を下げ、気まずいながらも話を切り出した。
「今日は視察のみですし、リアム様には我が家でお待ちいただきたいのです」
「そんな! 君を敵地に乗り込ませて、待っているなんてできるはずがないだろう」
リアムがオリビアの両肩を掴む。彼が反対するのはわかっていた。だがオリビアもここは譲れなかった。もちろん確かな理由がある。恋人の真剣な眼差しに、オリビアはかなり言いにくかったがゆっくりと話しはじめた。
「その、とても言いにくいのですが、今回はお忍びでの視察ですので……」
「ああ、私もこの通り身分を隠して服装も気を遣ったつもりだ」
「ですよね、とっても素敵ですわ。けれど、その、どうしても髪の色と体格は隠しきれませんわよね。すぐにアレキサンドライト家のリアム様と知られてしまいます」
オリビアは懇願するように自分を見ているリアムから目を逸らす。身分を隠して視察をするのに、彼がいては不可能だ。特にペリドット領は騎士団の演習場もあったため、リアムを見たらすぐに彼だとわかってしまうだろう。
「なるほど。反論できないのが残念だよ。かなり気は進まないが、私はここで待つしかないようだな」
「申し訳ございません。けれど今回は調査のみです。危ないことはせず夕方には帰りますから、どうか行かせてください」
リアムが大きく息を吐いたのち「わかった」と諦めるように頷いた。
オリビアは彼に「ありがとうございます」と礼を言って、再び視察のルートを決め、出発の準備を進めた。そして昼前には従者たちと一緒に馬車に乗り込んだ。
「オリビア嬢、気をつけて。みんな、オリビア嬢を頼む」
「「はい!」」
屋敷の門の前でリアムが馬車に向かって力強い口調で声をかけた。全員で彼に目を合わせ、しっかりと頷く。
「リアム様、必ずあなたの元へ戻ります!」
「ああ、必ず戻っておいで。待っているよ!」
オリビアはリアムと笑顔を交わす。馬車のドアが閉じ、ゆっくりと動き出した。調査を済ませて必ず彼の元へ戻る。そう心に誓って。オリビアは従者たちとともにペリドット領を目指した。
>>続く
「あまり大荷物になってはおかしいから、小旅行で通りがかったような感じでいきましょう。ルートも考えなくちゃ」
ペリドット領の地図を取り出し、机の上に広げる。怪しまれずに必要なことを調べるには、まず市街地で観光客向けの店から攻めていこうか。オリビアが地図と睨めっこをしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ。リタ、ドアを開けてちょうだい」
「かしこまりました」
リタがドアを開ける。彼女に案内され入室してきたのはリアムだった。オリビアは一文字に引き締めていた口元を緩ませ、彼に笑顔を向けた。
「リアム様、お休みになっていなくて平気ですか? 昨日からの長旅でお疲れでしょう?」
「いいや。パール領で一泊しているから平気さ。それに騎士団の演習や訓練に比べたら移動は楽なものだよ」
「そうなのですね?」
「ああ。そうだよな、セオ?」
リアムがセオに含み笑いを浮かべながら同意を求めた。元騎士団員で彼のかつての部下は、苦笑混じりに「そうです」と答えている。よほど騎士団の訓練は厳しいようだ。
「で、それはペリドット領の地図かな。いつ出発? 私はいつでも出られるよ」
「ルートを決めて打ち合わせ次第、出ようと思っています。ですがリアム様……」
「どうした、オリビア嬢?」
オリビアは一緒に出かける気満々のリアムに、眉尻を下げ、気まずいながらも話を切り出した。
「今日は視察のみですし、リアム様には我が家でお待ちいただきたいのです」
「そんな! 君を敵地に乗り込ませて、待っているなんてできるはずがないだろう」
リアムがオリビアの両肩を掴む。彼が反対するのはわかっていた。だがオリビアもここは譲れなかった。もちろん確かな理由がある。恋人の真剣な眼差しに、オリビアはかなり言いにくかったがゆっくりと話しはじめた。
「その、とても言いにくいのですが、今回はお忍びでの視察ですので……」
「ああ、私もこの通り身分を隠して服装も気を遣ったつもりだ」
「ですよね、とっても素敵ですわ。けれど、その、どうしても髪の色と体格は隠しきれませんわよね。すぐにアレキサンドライト家のリアム様と知られてしまいます」
オリビアは懇願するように自分を見ているリアムから目を逸らす。身分を隠して視察をするのに、彼がいては不可能だ。特にペリドット領は騎士団の演習場もあったため、リアムを見たらすぐに彼だとわかってしまうだろう。
「なるほど。反論できないのが残念だよ。かなり気は進まないが、私はここで待つしかないようだな」
「申し訳ございません。けれど今回は調査のみです。危ないことはせず夕方には帰りますから、どうか行かせてください」
リアムが大きく息を吐いたのち「わかった」と諦めるように頷いた。
オリビアは彼に「ありがとうございます」と礼を言って、再び視察のルートを決め、出発の準備を進めた。そして昼前には従者たちと一緒に馬車に乗り込んだ。
「オリビア嬢、気をつけて。みんな、オリビア嬢を頼む」
「「はい!」」
屋敷の門の前でリアムが馬車に向かって力強い口調で声をかけた。全員で彼に目を合わせ、しっかりと頷く。
「リアム様、必ずあなたの元へ戻ります!」
「ああ、必ず戻っておいで。待っているよ!」
オリビアはリアムと笑顔を交わす。馬車のドアが閉じ、ゆっくりと動き出した。調査を済ませて必ず彼の元へ戻る。そう心に誓って。オリビアは従者たちとともにペリドット領を目指した。
>>続く
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