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第八章 決戦!ペリドット領

202、調査開始

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 オリビアが窓の外を眺めると、少し先に市街地が見えた。クリスタル領を出発し一時間ほど経ち、すでに馬車はペリドット領を走っている。

「もうすぐ最初の目的地到着ね。みんな、準備はいい?」

「「はい!」」

 まずは市街地で旅行客を装って昼食をとることにしていた。それぞれの役割も決まっており、各々その役柄をすり合わせる。数分後、馬車がペリドット領の市街地にたどり着いた。はじめにジョージが馬車を降り、セオ、リタの順で続く。

「リビー、お手をどうぞ」

「ありがとうございます、ジョージさん」

 最後にオリビアが馬車を降りるとき、ジョージの手が差し出される。彼にしてはさわやかな笑顔も向けられる。オリビアは彼によそ行きの笑顔を返し、手を取った。今日はジョージと恋人同士の小旅行という設定で視察に臨んでいる。彼はすっかり役になりきっていた。前夜に髪の毛を黒く染めただけある、とオリビアは感心していた。

「さあて、さっそくいい感じのレストランがある。行ってみようか?」

「はい、行きましょう。ジョージさん」

 オリビアはジョージと腕を組み、近くのレストランに向かい歩き出す。後ろをリタとセオがついてくる。一瞬そちらに視線を移すと、ふたりは唇を噛み、笑いを堪えているようだった。釘を刺すために睨みを効かせておく。彼らの肩がピクリと跳ねた。

「いらっしゃいませ」

「四人なんだけど、空いてる?」

「はい。ただいまご案内いたします」

 店に入ると入り口に立っていた女性店員が笑顔でオリビアたちを迎えた。彼女についていき、窓際の席に通される。

「メニューでございます。お決まりの頃にお伺いいたします」

「ありがとう」

 女性店員はジョージ、オリビア、リタ、セオの順にメニューを渡して去っていった。

「あの女性、私たちの立場を一瞬で見抜いてメニューを渡したわね。どうやらここはちゃんとした店のようだわ」

「俺が先ってことは、いい線いってるってことか。俺の芝居が」

 オリビアの言葉に肯首する従者たちをよそに、ジョージは自画自賛して得意げに笑った。オリビアはリタやセオと目を合わせ息を吐く。

「まあ、それはいいとして、まずは彼女に探りを入れましょう。みんな好きなものを注文してね」

「「はい」」

「じゃあ、俺は酒でも頼んじゃおっかな」

「ジョージさん。それはまたの機会に」

 やや調子に乗っているジョージに、オリビアは笑顔で答え、最後に「ね?」と言って念押しした。思い切り作り笑いを浮かべると、額の際が引きつる。ジョージは肩をすくめて「はい」と言った。酒の注文を諦めたようだ。

「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」

「リビー、決まったかい?」

「はい。私は鴨のコンフィを」

 オリビアに続き全員が注文を終え、それほど待たずに料理が運ばれてくる。オリビアは三人と打ち合わせ通りの当たり障りのない会話をしながら、店内の様子や外の人の流れを確認していた。

「お昼どきのわりに人が多くはないのね」

「確かに、クリスタル領に比べるとおとなしい印象ですね」

 オリビアの言葉に、リタが店内を見渡し頷いた。次に外を眺めていたセオが口を開く。

「先ほど店に入る前に広場に看板が出ていました。読めたのが見出しだけですが、どうやら増税の件のようで……」

「そう。ここを出たら確認してみましょう」

 食事を終えたオリビアは会計を恋人役のジョージに任せ、入店の際に案内してくれた女性店員に見送られ店を出る。

「お客様、本日はご利用いただきありがとうございました。ペリドットへはご旅行でしょうか?」

「ええ、恋人と王都から来たの。お土産を買いにいきたいのだけれど、おすすめのお店はあるかしら?」

 女性がとても気さくだったので、オリビアは予定通り少し探りを入れてみる。すると彼女は眉と目尻を下げ、困ったような表情で返事をした。

「アクセサリー店や食器店がおすすめなのですが、増税の影響で、相場より価格が高騰してしまっているのです。ご友人などへのお土産でしたら、単価が高くない雑貨店や菓子店を覗かれるといいかもしれません」

「そうなのね。助かったわ、ありがとう」

 ジョージが会計をして店外に出てきたタイミングで、女性店員にチップを手渡し礼を言った。彼女は恐縮しつつも千エール紙幣を握って「ありがとうございました」と今日一番の笑顔でオリビアたちを見送った。

「思ったよりペリドットの景気は悪そうね。広場の看板を見にいきましょうか」

「「はい」」

 オリビアは道ゆく人々からあまり活気を感じられず気の毒に感じた。自分の領地や王都とは大きな違いだ。看板には一体何が書かれているのだろうか。スッキリしない気持を抱えながら、市街地を歩き看板がある広場を目指した。

>>続く
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