R18『東京くらくら享楽心中』

緑野かえる

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第1話 (2025/02/02 改稿済)

享楽に耽る (1) ※

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 季節は夏の終わりだった。
 東京都内、ハイクラスホテルの上層階にあるスイートルーム。
 その客室の奥にあるメインベッドルームではまるで囁くように小さく喘ぐ女の体を背後から押し潰すように抱いている大柄な男がいた。

 男の背中には飛び鳳凰と舞い上がる桜の花びらが極彩色で彫られており、派手な意匠は張りのある筋肉で固く引き締まった臀部を過ぎ、太もも裏にまで続いている。

「お前、またメシを抜いてるだろ」

 キシキシとほんの僅かに軋むベッドの上では性愛に興奮をし、首筋に青筋を立てている男からの攻めに漏れ出てしまう喘ぎ声をかみ殺している女が一人。快楽に曲線を描いてしなぐ体が少し薄くなったのではないか、と男は問いかけていた。

「……抱き心地が、悪い?」
「そうじゃねえよ」

 なあ櫻子さくらこ、と男は密着していた体を起こすと挿入していた自身を引き抜いて体を一度、引いてしまう。

「心配されるほどじゃないわ」

 櫻子、と呼ばれた女性はうつ伏せ寝からゆっくりと仰向けになって乱れてしまっているブルーブラックのセミロングの髪を少し乱暴に掻き上げる。もう一度、と彼女の足を割り開いて挿入し直そうとする男に「私よりももっと若くて良い子、いくらでもいるのに」と言ってしまう理由は簡単。この行為が始まってからいくらか時間が経っているのにまだ男は射精をしていない。体の関係を持つようになってから少しずつ、確実に年齢を重ねている自分の体ではもうこの男を満足させられないのだろうな、と櫻子は思っていた。

 最後にこの男に抱かれたのはいつだったか。
 夕方、久しぶりに呼び出されたかと思えば男はスイートルームを取り、インルームディナーまで用意して自分を待っていた。
 自分の体を求め、セックスをするまでのお膳立てをしたのは男の方だったが櫻子の方はまだ吐精をしていない男を下から見上げる。

「新しく入った子、可愛いわよ。優しく抱いてあげたら?少しお小遣いでもあげればきっと今後の励みになる筈よ、恭次郎きょうじろう
「お前な……”直営店自分の店”の新人を紋々モンモン背負ったヤクザにマワすなよ、いくらなんでも可哀想だろうが」

 恭次郎と呼ばれた男はぐ、と割り開いた櫻子の足の間にまた自身の先端を挿し入れようとするがどこか拒まれている気がしてならなかった。

「何が不満なんだ」
「……別に」

 ふい、と横を向いてしまう彼女の挿入しようとしている場所はローションがたっぷりと塗られているかのように、十分すぎるくらいに濡れている。スキン越しの隆起の先端で撫で、掬い上げれば垂れるほど――だから彼女も受け入れてくれていると思っていたがどうにも言葉と体の反応が相反しているようでならない。

「俺はお前を抱きたかった」

 その言葉と共にゆっくりと腰を進めればにゅるりと抵抗なく入ってしまう。

「顔をよく見せてくれ」

 掛けた言葉にきゅ、と接合部分が収縮した。
 強情な女、と男は……恭次郎は思うがそんな彼女の事を彼は心から、まるで心酔しているかのように愛していた。

「お前は誰よりも強く、美しいオンナだよ」

 ず、ず、と恭次郎が腰を動かしてゆるく抜き差しを始めれば櫻子は唇を噛むような仕草をしてしまう。

「なあ、たまには分からせてやろうか。俺がお前だけしか愛していない事を」

 その言葉に先ほどよりも締め付けが強くなるのを感じた恭次郎はふんわりと膨らんでいる胸に大きな手のひらを置き、性的な手つきと言うよりはマッサージをするように優しく彼女の乳房を揉みほぐしてゆく。
 その先端にある赤く腫らしている部分には触れず、全体を持ち上げるように何度も手のひらで慈しむように触れながらその間にも腰は進めていた。
 相変わらず濡れ続けている部分のすべりが良く、物の弾みでナカを軽く抉るように突き上げてしまった時、下から「ひっ」と小さく声が上がった。

「ここか」

 もう一度、同じように恭次郎が狙いを定めて腰を突けば眉根を寄せて涙目で睨んでくるのが櫻子の“気持ちが良いとき”の顔。
 やっとこっちを向いてくれた、と恭次郎は胸を揉みほぐしていた手を触れていなかった胸の先端へ移して軽く摘まみ上げながら楽しそうに声音を変える。

「へばるなよ」
「や、め……引っ張らない、で」
「やだね。お前、乳首弱すぎるんだよ」

 にや、と歯を見せて笑った彼の獰猛な片鱗と快楽への追及に櫻子は言葉が出ず、唇を戦慄かせるだけに留まってしまう。それからはもう、恭次郎によるどこか支配的な行為に櫻子は小さく喘ぎ続ける。やだ、やめて、と言っても彼女の本心を承知している恭次郎は遠慮なく、筋肉質な硬い腰を柔らかくしなやかな櫻子に押し付ける。
 やがて音が立つほど激しくなる揺れに歯を食い縛るように喘ぎを噛み殺して恭次郎の手の甲に爪を立てていた櫻子もついには強く体を震わせ、果ててしまう。そんなまだ絶頂の最中の体を勢いに任せて抱き寄せた恭次郎もやっと腰を震わせてスキン越しに白濁を吐き、果てた。

「二人きりの時くらい、素直になってくれよ」

 まあこんな、ぐずぐずにとろけた顔を他に晒されちゃたまらないが、と恭次郎はわざと櫻子の耳元で囁く。
 ぎりぎりと強く爪を立てられていても可愛い痛みにしか感じない恭次郎が柔らかな体を拭いてやりながら「もう寝な」と伝えれば疲れていたのか本当にシャワーも浴びないまま寝てしまう。
 それでもきっと浅い眠りなのだと恭次郎は寝息もなく、静かに眠る女の目の下の薄青い浅い眠りの影に溜め息をついてしまった。

 恭次郎は櫻子を肉体的に疲れさせてしまえば深く眠るだろうか、と心のどこかでは思い、望んでいたのだが浅はかな考えの通りにはならなかった。
 朝方、と言うにはまだ早い午前四時ごろ。先にベッドから抜けた櫻子がシャワーを浴びている僅かな音がバスルームの方から聞こえる。

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