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第4話 (2025/02/20 改稿済)
ビターチョコレート (5)
しおりを挟む目を覚ました恭次郎はいつの間にか体に掛かっていた毛布の存在に気が付く。もう時刻は夕方だった。そんなに深く眠っていたのか、と頭だけ動かせばデスクに櫻子の姿はなく、代わりにパウダールームの方から気配がして……恭次郎は自分が今、不安に駆られた事に息を飲んだ。
(どれだけ心配性なんだよ)
掛けてくれていた毛布とブランケットを座ったまま畳みながら自分に問うが彼女が普段ほんの薄く、よほど近づかなければ分からない程度につけているすっきりとしたユニセックスなアクアローズの香水の香りが鼻腔をくすぐってつい、ぎゅっと毛布を抱き締めてしまった。
俺も香水これにしよっかな、と考える男と化粧直しをしてちゃんとこれから出掛ける支度を済ませて来た女がかち合うが毛布を抱き締めている恭次郎の姿に櫻子は冷めた視線を送る。
「シてねえよ」
「その毛布と膝掛け、気に入ってるの。汚したら許さないから」
「お前さあ……」
こんな問答でも二人にとってはいつものことで、辺りもすっかり暗くなった夜。予約していた中華料理屋に向かう。
小ぢんまりとした店ではあったが人目を避けられる半個室もあった。
食前の紹興酒は程々にして、運ばれてくるのは予め恭次郎が注文していたコース料理。食前酒の時点で櫻子が幾つか料理をテイクアウトしたいと店員に申し出て外の車中で待機してくれてくれる大崎と足立の為に二つに包んで欲しいと伝える。
穏やかな食事の時間だった。櫻子が食べたいと言っていたエビチリや鶏肉料理も美味しく、すぐに食に興味が失せてしまう彼女がちゃんと食べているのを見ていた恭次郎の内心は安心していた。
桜東会の持つビジネスホテルに戻り、それぞれの付き人である足立と大崎を帰してしまえばそこから先もまた二人だけの時間。勿論、質の高い防音部屋は二人がどうこうしようと物音が漏れ出ないようにはなっていた。
応接用のソファーに座って軽く飲みながらだらだらと大人二人で過ごす。肩書きさえなければ、ただの男女のパートナーが過ごすゆるい時間。膝に花柄のブランケットを掛けてソファーに沈んでいた櫻子が飽きたのかうとうとと眠そうにしている姿に恭次郎は風呂に入って寝るように勧める。
「……しないの」
「あ?腹いっぱいで眠いんじゃねえのか」
大人だから、櫻子の問いを聞き流してやろうとした。
それに本当に眠そうだったから就寝を勧めてみたものの櫻子の視線が床のカーペットに落ちてしまう。その頬は酒のせいで色づいただけでは無い赤い色をしていた。
「俺が風呂から上がってもまだ起きていられたらな。だから早く入って来な」
きゅ、と結ばれた唇は何も語らず、櫻子は黙ってバスルームに行ってしまった。ちょっとだけ怒らせたかな、と思いながらも恭次郎は自分のスラックスの奥で熱を感じる自分自身に溜め息をつく。
あんな艶っぽいイイオンナを隣に侍らせても節操は守っていた筈だった。櫻子が拒否を示せば絶対に手は出さない。彼女が嫌がる事だけはしたくなかった。
まあ、ベッドの中でか細い声でいやいやをされてしまえば話は別ではあったが恭次郎は聞こえてくるシャワーの音につい、聞き耳を立ててしまう。
いつまでたっても、櫻子の前では硬派を気取る事なんて出来ない。
化粧をしていれば美しく、化粧を落としても可愛いと思う女性。
髪を乾かしてローブを羽織って出て来た櫻子と入れ違うように恭次郎もシャワーを浴びれば自分の持つ彼女への性愛が膨らんでしまう。
どうせ寝ちまってるだろうな、とそんな膨らみそうな欲望を諦めさせながら髪を乾かし、歯磨きも済ませて寝る支度を進めてからベッドルームを覗けばクイーンサイズのベッドの上では櫻子が足を横に崩して座って待っていた。
「あー……待たせたか?」
ベッドに上がり、膝をついた恭次郎にゆっくりとされるがままに押倒されて行く櫻子の体。互いに頬を寄せて、そのままリップも何も塗られていない櫻子の唇が静かに濡れてゆく。
彼女のうっとりとした恍惚の表情は唇を離した一瞬だけ見る事が出来た。
時に強情な女、と思ってしまうこともあるがそれは彼女の矜持。イイオンナの持つ、プライド。恭次郎は櫻子が纏っていたのローブの腰紐を解いて胸の膨らみを掴むと痛がらせない程度に揉みしだく――と言うか、袷を開いてみれば彼女は上下とも下着を身に着けていなかった。
むしろ恭次郎の方がタイトなボクサーパンツを穿いて、肌着も着ている。
素肌にローブを羽織っただけで横になって眠らず、風呂から上がってくるのを待っていた彼女の可愛いいじらしさを見てしまった恭次郎。下半身はもう、明らかに大変なことになっていた。
「あ、っ」
胸の膨らみをマッサージするように揉んでいる内に触れていなかった先端に指先が掠めると気持ち良かったのかきゅ、と櫻子が肩を竦めながら小さく喘いだ。
試しに指の先で優しく摘まんで刺激をすれば身を捩る程に感じるらしく、か細い息が上がる。
舐めて、吸って、噛んだらどうなってしまうのか。そんなこと、とっくの昔から知っているが何度体を重ねても、その度に好奇心が勝手に沸き立ってしまう。
けれど彼女のその胸には彼女の負う業とも言える印が刻まれている。切り剥しても、焼いても、傷痕として一生涯残るもの。
今だけはその業を忘れてくれたなら、と与える快楽にとろけてゆく愛しい人の様子を伺う恭次郎は櫻子の胸の先に口づけをする。
甘い愛撫にひくひくと震える彼女は男の味なんてきっと自分以外、知らない。まだ二十そこそこだった時に抱いて欲しいと頼まれたくらいだ、と恭次郎は自分の腹の奥底から込み上げる濁った独占欲がふつふつと沸騰するように滾るのを感じる。
その熱い欲望を彼女の中に全部出してしまおうと本能的な衝動に駆られ、恭次郎の大きな手はきつく閉じられている足の間に少し強引に差し込まれた。
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