『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』

緑野かえる

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第2話

パチモンの笑顔 (5)

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 お昼のお茶の時間が始まる前まで、広間では着飾った秀女たちが、そしてその部屋の端には彼女たちに付き添う侍女たちが後宮内の仕来たりを学ぶ。
 担当の女官は比較的穏やかな口調で講義をしており、琳華も真面目に聞いていると言うか今回の役割の為に目立たぬように動くには、と一言一句を逃さぬよう熱心に聞いていた。

 それがまた、女官や下女たちの間に良い意味での誤解を生んでいるなど本人は知らない。

 その仕来たりや作法などの座学を終えた小休止。次の時刻を知らせる鐘が鳴るまで各自昼のお茶をするなり、自由に過ごしても良いとのことだったが大半の秀女たちは広間に残っていた。

「あの、伯丹辰様」

 琳華もまた居残っていた内の一人。そして既にちょっとした集いを作っていた中心人物に話し掛ける。
 昨日、いきなり格上の琳華を部屋に招こうとした伯家の娘、丹辰。何だかんだで周家が秀女たちの中で一番、格が上だった。
 父親は宮殿に勤める上級官僚。しかも裏では相当何かやらかしているような男の娘。おまけに母親も元、官位を得ていた女官。

 父親の名の方が知れ渡っているせいで奇跡的に琳華の普段の少々お転婆な姿は誰にも知られていなかった。
 今も物腰は柔らかに、にこやかに。作り笑顔は母親のよそ行きのソレを見てきていた。こんな所で役に立つ、と言うかきっとこんな所仕込みの笑顔である。

「まあ、周琳華様!!」

 四人の秀女の中心にいた丹辰がずい、と話し掛けて来た琳華の前に出る。薄桃色の控え目な羽織を着ている琳華とは相反するように、丹辰の羽織は若さを象徴するような華やかな若草色に黄色の花々が襟元や袖に刺繍されていた。ひと目見るだけで高価な物だと分かるが多少の賄賂でも握らせておけば持ち込むのは容易い。
 それを父親を通して知っている琳華だからこそ、少し警戒をする。自分以外にも多少、融通を利かせることが出来る者がいるのだ。

 しかし、琳華の目に映る女性はとても可憐な姿をしており、着飾らせた梢と並ばせたら可愛いのだろうな、と思わせる。
 シックに一つに結い上げて髪飾りも大ぶりな物を一つだけ付けている琳華とは違い、長い髪を左右一つずつお団子状にして小さな髪飾りを複数付けた丹辰はその髪飾りのようにきらきらとした視線を琳華に向けている。

「昨夜の事をお詫びしようと」
「いえ、そんな……わたくしの方こそ不躾なことをしてしまったと琳華様に謝りたくて」
「ごめんなさいね。少し、外の空気を吸いたくて」

 ふふ、と儚げな表情に変わる琳華は背後に控えてくれていた梢に「例の物を」と持たせていた布包みを開かせて、中から一つの紙包みを取り出す。手の平ほどしかない物だったが中身は糖蜜漬けの果物が数個、入っている。

「干し杏の糖蜜漬けなのだけれど」

 お口に合うかしら、と控え目に言う琳華の名演技に梢は若干、笑いそうになっていた。誰が作ったとは絶対に言わない主人。ましてや自分たちが庭で遊びがてらあらゆる木の実を炒ったり、乾燥させた果物を大量に煮詰めた糖蜜に漬けて作った物の内の一つだなんて……丹辰はどうやらそれが既製品だと思っているらしい。可憐な指先で包み紙をそっと開き、喜んでくれている。

「では、また後で」
「琳華様、お部屋にお戻りになってしまうのですか?」
「え……ええ」

 梢と作戦会議をしようとしていただけである。

「琳華様のお話もお伺いしたかったのですが」
「わたくしの……?」
「はい。昨夜は皇子様にお声をかけていただけるよう、皆で自身を磨こうと言う話をしていたのです」

 丹辰が言っていることは何もおかしくない。
 しかし琳華の瞳は、野山を駆け回り兄たちと武術を学んだ鋭い感覚は、丹辰の目に獰猛さを見てしまった。

「そう、ですね……わたくしは皆様よりも年上で、あまりそう言ったことは参考になるかどうか。確かに、皇子様のご寵愛は賜りたいのですが」

 あくまでも控え目に、自分の最年長と言う年齢を引き合いに出して話に角が立たないようにする琳華は丹辰の視線から外れるように少しだけ顔を伏せる。

(最年長の年増、と言うのは事実なのだからそれを大いに活用してしまえばいいのよね)

 またしても琳華は袖口の中で強く、決意の握りこぶしを作る。これは未だ見ぬ、と言うか今から親衛隊の中に変装をして紛れ込む宗駿皇子を守るためだ。
 周家の一員として、そしてあわよくば警備の女官、宮正になるための布石なら……耐えられる。

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