『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』

緑野かえる

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第4話

偉明様なんてこうして、こうよっ!! (2)

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 別に変な事を言ったわけではない。もう間もなく集まる時間で、見渡す限りほとんどの秀女たちが集合場所へ向かっている。

「琳華様もご存じかと思われますが一応、一番狭い個室が与えられてるけれど……ねえ。侍女も連れてきていらっしゃらないし」

 丹辰の取り巻きの秀女たちがこぞって綺麗な顔をしかめながら「だってあの子、どんくさいと言うか。あまり健康的でもなさそうですし」とまるで琳華に告げ口でもするように声を潜めながら随分な言い方をする。

「きっと緊張なさっているのかもしれません。少し、わたくしが見て参りますね。梢、表札を探してくれるかしら」
「はい、お嬢様」
「あっ、琳華様お待ちになって」

 丹辰の引き留める声を払い、琳華は少し気になっていた愛霖の部屋を探す。それはすぐに丹辰が「一番奥のお部屋ですわ」と言ってくれたおかげで時間を取らずに見つけられた。

「愛霖様、周琳華です。お姿がまだ見えないので伺った次第なのですが」

 最年長者が下の年齢の者の面倒を見るのは当たり前であるが琳華の後ろではついて来た丹辰たちが「止めましょうよ」などと引き留めようとする。

「愛霖様は昨日も少し調子が悪かったようなの。ですから……ね、わたくしは」

 年長者を立てて欲しいとそっと言う琳華に丹辰やその取り巻きたちは顔を見合わせると何か言いたげであったが引き下がってくれた。

「琳華様、わたくしたちは先に……」
「ええ。わたくしも遅れないようにしますから」

 愛霖の部屋からそこまで離れてもいないのに「お人よし」や「お節介」とあがる声を無視して琳華はもう一度、丹辰の部屋に声を掛けながら軽く扉を叩く。するとばたばたとした音の後に愛霖本人が扉を開けた。

「も、申し訳ありませんっ。準備に手間取ってしまって」

 出て来た愛霖は疲れた様子だったが午前の座学の時とは違う質の良い濃い空色の羽織に着替えていた。彼女は侍女を連れてきていない。その場合は寄宿楼についている下女が手伝ってくれるがどうやら申し出ていなかったようで……少しだけ見えた部屋の奥に人の気配は無かった。いれば、下女の方が取り合ってくれるはずだ。

 しかし琳華は見てしまった。
 ほんのちらり、なのだが――他の秀女の一人部屋の内装を。

(偉明様が仰った意味が裏付けられてしまったかも……ではなくて)

 自分の部屋とまるで違う内装に気を取られたがもう集合場所に向かえる、と言う愛霖を琳華は見る。

「お加減は大丈夫そうですか?」
「はい。琳華様のような御方に心配をおかけしたようで申し訳ございません」

 何度も平謝りする愛霖に「いいのよ」と、それはごく当たり前の行動なのだと琳華は声を掛ける。ほんのり甘い香の匂いがする愛霖もすっと背筋を伸ばしたので琳華ももう大丈夫だろうと思い、廊下の先を見た時だった。丹辰がとても鋭い視線でこちらを振り返って見ていたのだ。

 ここは、そう言う場所。
 だから一々気にしてなどいられない。

 秀女たちはその日、初めて東宮――宗駿皇子が住まう宮へと連れて行かれ、とある部屋に収容された。年齢の順なのか琳華は一番最後の列に並ばされる。それからそれぞれに名前が呼び上げられると紗の薄い布が下りている前に進み、最敬礼として膝をついて頭を下げる。

 紗の薄い布の向こうには、宗駿皇子がいる。
 その傍らには侍従と共に偉明も控えていた。

 たかが謁見とは言え何が起きるか分からない。偉明のような官僚と同じ立場の専任の武官が軽装の衣裳で帯刀だけしている理由。護衛としてそばにいても目立ちすぎないがその身軽さから皇子に害を為す者がいればその者の首を即刻、叩き落とす気概があると言うこと。

「周家琳華様」

 六名ずつが横に並んだ二列、その後列の一番最後。
 呼ばれた琳華が前に進んで皇子の面前で膝をつく。
 花の群れの中で唯一の濃灰色の衣裳に銀糸の刺繍。しかも琳華だけは偉明に連れられた皇子の顔を知っているし、皇子も自分の顔をよく知っている。

 紗の向こうで、皇子が笑った気がした。

 ごく地味な衣裳でしか会ったことがないが今日の琳華はばっちり、勝負服の出で立ち。化粧もはっきりと濃いので薄い布を一枚隔てた向こうでも顔の違いがわかったのかもしれない。

 (でも、この謁見はきっと……)

 琳華は予見する。
 秀女たちはまだ客人の立場。それに琳華以外の十一人全員が読み書き以上の教養が備わっているのだと試験で証明されており、その中からより秀でた女性や皇子の目に留まった女性が正室、側室候補として残るのだが……。

 これは一回目の振るい落としだ、と琳華は感じた。人数は分からないがこの皇子との謁見の後に実家に帰されるのはつらいものがある。
 しかしそれがこの世の現実。
 やる気がある者ならば秀女を管理をしている上級女官に働き口を積極的に聞けば良いだろうが、その先は家柄による。人それぞれ、だった。

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