勇者召喚されたはずなのに、死んで魔物に転生してしまいました

1000年前の出来事

8, 師匠と弟子

1000年前…
最も人間が栄えた時代
魔物という化け物も、魔王という脅威も無い平和な時代
魔法よりも魔術が発達していた時代
そして、魔術並びに魔法の始祖ディアデラム・リン・フォルードが生きていた最後の時代…

私はディアデラムの弟子だった…

ディアデラムはいつも言う。

「人間は、常に食物連鎖の頂点に居ると信じている。だがそれは間違いだ。自然こそが頂点。有を生み出し無に帰すことが可能な、絶対的なモノだ。人間はそれを考えていない…。どうすればわかるものか」


「私は魔術を創り、魔法を編み出した…。だが、それは本当に良かったのか幾度となく考えている。私が思い描いた魔術も魔法も、伝えた人間は良く使うも悪く使うも千差万別。だが、必ずしも悪い方へと行ってしまう。どうしたものか…」


「ヴィリオンドよ。私は…、人は真なる脅威を知らない…。いや、知らなさ過ぎると思うのだ。いずれ来るモノに何も備えない…。あれらはいずれ、全てが滅びるのかもしれない」


そういった言葉の数々が、少しずつ人に伝わり、村から街へ、そして、王都の住民へと流れ、城にいる王達の耳にも届いた。
その後、王城の者達の決定により、ディアデラムは追われる身となった。

危険思想者としてだ。

今まで身を粉にして、人の為に尽力してきたというディアデラムを危険思想者と言ったのだ。
許し難い事だった………！
今すぐにでも出向いて、奴らを八つ裂きにしたかった…！

だが、ディアデラムはそれを拒んだ。

「お前がこんな事で手を汚す必要など一欠片も無い。私が生きている間は、お前には綺麗なままで居てほしいんだ。解ってくれ」

それからは幾つもの山を越え、川を下り、道を歩いた。
自給自足の生活は元からだったので、食には困らなかった。
いざという時は魔力で腹を満たせるので、断食してもいいくらいだった。
そんな生活が2ヶ月続いた頃、ある事が起きた…。

王都の兵共が遂に追いついてきたのだ。

どこまでもどこまでも追い続けてくる王兵は、いつまで経っても離れなかった。

「ディアデラム！もう我慢の限界だ！彼奴らはもう生かしておけない！」
「待てヴィリオンド！もう少しだ、もう少しだけ耐えてくれっ…！」

耐えるしかなかった。
耐え続けるしか…。

「きっと王が何とかしてくれる……。王は、私が法を犯すような事をしないと分かっているはずだから……！」

だが、その翌日、ディアデラムの理性は、私でさえもわからなくなる程…、
壊れた。





ディアデラムは……
信頼していた王に……
自身よりも大事な王に……


唯一の友に………





完全に見放されてしまった……







その日、
世界が恐怖の奥底へと落とされる
その第一歩を、今踏み出した……