【本編完結】おじ様好きオメガは後輩アルファの視線に気が付かない

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
7 / 110
一章

関係ないでしょう

しおりを挟む
 その正体は当然、杉野だ。
 驚いた表情のベータ女性たちとは違い、藤ヶ谷は紅い唇をへの字に曲げ、真横に立った美形を見上げた。
 藤ヶ谷とて、実際に出会えるとは思っていない。それでもどこかで「運命の番」というものに憧れがあった。
 それを何の根拠もなく、バッサリと否定されたのだ。

「なんでそんな夢のないこと言うんだお前はー!」
「運命なんて作り話です。運命の番に出会ったことがあるアルファなんて聞いたことないですし」

 藤ヶ谷が声を荒げても怖くも何ともないと言わんばかりに、杉野は肩を竦めた。
 アルファの在学率が高い学校で過ごし、友人にもアルファが多いらしい杉野なりの根拠があったらしい。

 それがベータの2人には説得力があったのか、残念そうに溜息を吐いた。

「なんだそうなのねー」
「ロマンチックなのに……」
「そもそも運命とか関係ないでしょう。アルファだろうとベータだろうとオメガだろうと、愛し合ってれば良いんだから」

 涼しい顔で何でもないことのように杉野は言う。
 その場にはベータの2人もいるのに、杉野は真っ直ぐに藤ヶ谷だけを見ている。
 瞳に吸い込まれるように見つめ返すと、胸が温かくなってくる。

「……」
「何、ニヤニヤしてんですか」

 知らず知らずに、口元が緩んでしまっていたらしい。
 杉野が訝し気な表情になってしまった。
 藤ヶ谷は改めて、にっこりと笑って見せる。

「良いこと言うなーと思って」
「絶対馬鹿にしてる」

 次は杉野が拗ねた声を出す。
 子どもっぽい仏頂面でそっぽを向いてしまう。
 しっかりして優秀な後輩の年下らしい姿をみて、藤ヶ谷はバシンと杉野の太ももを叩く。

(いっ)

 叩いた場所が想定したより筋肉質で固く、手がジンッと痺れてしまった。
 ダメージを受けたはずの杉野は、眉一つ動かしていない。
 痛みに戸惑いつつも、誤魔化すように明るく手を振る。

「いやいや。お前に愛される人は幸せだな。なぁ?」
「……うん……」
「そ、そうですねぇ」

 同僚2人に話を振ると、どうも歯切れが悪い。
 苦笑いしている2人に、藤ヶ谷は目を瞬いた。

「あれ、らしくない臭いこと言ったからって引かないでやってくれよ」
「いや、そうじゃなくて……ねぇ」
「私、こんな鈍感な人に初めて会いました」
「んん?」

 気まずそうな2人が顔を見合わせてしまうと、藤ヶ谷は首を捻るしかなくなった。
 鈍感な人、と言われているのが藤ヶ谷であることは分かったが、そう言われる覚えが全くなかったのだ。

 4人しかいない部屋で流れてしまった奇妙な空気は、杉野の咳払いで解消された。

「ところで楽しそうなところ申し訳ありません。よつば商社の山吹やまぶきさんがそろそろ着くそうです。ブランドマークの件です」

 藤ヶ谷はすぐに腕時計を確認し、立ち上がりながら缶の中身を飲み干す。

「もうこんな時間か! 悪い! じゃあな2人とも、またデート終わったら話を聞いてくれよ!」

 予想以上に話が弾んでしまった。
 椅子に掛けていたスーツを肩にかけ、2人に見送られて杉野とともに早足で廊下に出た。

 ふたりきりになった瞬間に、杉野からの鋭い視線が突き刺さる。

「なんですかデートって……」
「お前には関係ないだろおじゃま虫」

 バーでずっと威圧感を出していた杉野に言うわけにはいかない。
 大丈夫だとは思うが、蓮池に勘違いされても困る。

 藤ヶ谷は舌を出して返答を拒否した。
しおりを挟む
感想 269

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

孤独の王と後宮の青葉

秋月真鳥
BL
 塔に閉じ込められた居場所のない妾腹の王子は、15歳になってもバース性が判明していなかった。美少女のような彼を、父親はオメガと決め付けて遠い異国の後宮に入れる。  異国の王は孤独だった。誰もが彼をアルファと信じているのに、本当はオメガでそのことを明かすことができない。  筋骨隆々としたアルファらしい孤独なオメガの王と、美少女のようなオメガらしいアルファの王子は、互いの孤独を埋め合い、愛し合う。 ※ムーンライトノベルズ様にも投稿しています。 ※完結まで予約投稿しています。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

さかなのみるゆめ

ruki
BL
発情期時の事故で子供を産むことが出来なくなったオメガの佐奈はその時のアルファの相手、智明と一緒に暮らすことになった。常に優しくて穏やかな智明のことを好きになってしまった佐奈は、その時初めて智明が自分を好きではないことに気づく。佐奈の身体を傷つけてしまった責任を取るために一緒にいる智明の優しさに佐奈はいつしか苦しみを覚えていく。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

処理中です...