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一章
関係ないでしょう
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その正体は当然、杉野だ。
驚いた表情のベータ女性たちとは違い、藤ヶ谷は紅い唇をへの字に曲げ、真横に立った美形を見上げた。
藤ヶ谷とて、実際に出会えるとは思っていない。それでもどこかで「運命の番」というものに憧れがあった。
それを何の根拠もなく、バッサリと否定されたのだ。
「なんでそんな夢のないこと言うんだお前はー!」
「運命なんて作り話です。運命の番に出会ったことがあるアルファなんて聞いたことないですし」
藤ヶ谷が声を荒げても怖くも何ともないと言わんばかりに、杉野は肩を竦めた。
アルファの在学率が高い学校で過ごし、友人にもアルファが多いらしい杉野なりの根拠があったらしい。
それがベータの2人には説得力があったのか、残念そうに溜息を吐いた。
「なんだそうなのねー」
「ロマンチックなのに……」
「そもそも運命とか関係ないでしょう。アルファだろうとベータだろうとオメガだろうと、愛し合ってれば良いんだから」
涼しい顔で何でもないことのように杉野は言う。
その場にはベータの2人もいるのに、杉野は真っ直ぐに藤ヶ谷だけを見ている。
瞳に吸い込まれるように見つめ返すと、胸が温かくなってくる。
「……」
「何、ニヤニヤしてんですか」
知らず知らずに、口元が緩んでしまっていたらしい。
杉野が訝し気な表情になってしまった。
藤ヶ谷は改めて、にっこりと笑って見せる。
「良いこと言うなーと思って」
「絶対馬鹿にしてる」
次は杉野が拗ねた声を出す。
子どもっぽい仏頂面でそっぽを向いてしまう。
しっかりして優秀な後輩の年下らしい姿をみて、藤ヶ谷はバシンと杉野の太ももを叩く。
(いっ)
叩いた場所が想定したより筋肉質で固く、手がジンッと痺れてしまった。
ダメージを受けたはずの杉野は、眉一つ動かしていない。
痛みに戸惑いつつも、誤魔化すように明るく手を振る。
「いやいや。お前に愛される人は幸せだな。なぁ?」
「……うん……」
「そ、そうですねぇ」
同僚2人に話を振ると、どうも歯切れが悪い。
苦笑いしている2人に、藤ヶ谷は目を瞬いた。
「あれ、らしくない臭いこと言ったからって引かないでやってくれよ」
「いや、そうじゃなくて……ねぇ」
「私、こんな鈍感な人に初めて会いました」
「んん?」
気まずそうな2人が顔を見合わせてしまうと、藤ヶ谷は首を捻るしかなくなった。
鈍感な人、と言われているのが藤ヶ谷であることは分かったが、そう言われる覚えが全くなかったのだ。
4人しかいない部屋で流れてしまった奇妙な空気は、杉野の咳払いで解消された。
「ところで楽しそうなところ申し訳ありません。よつば商社の山吹さんがそろそろ着くそうです。ブランドマークの件です」
藤ヶ谷はすぐに腕時計を確認し、立ち上がりながら缶の中身を飲み干す。
「もうこんな時間か! 悪い! じゃあな2人とも、またデート終わったら話を聞いてくれよ!」
予想以上に話が弾んでしまった。
椅子に掛けていたスーツを肩にかけ、2人に見送られて杉野とともに早足で廊下に出た。
ふたりきりになった瞬間に、杉野からの鋭い視線が突き刺さる。
「なんですかデートって……」
「お前には関係ないだろおじゃま虫」
バーでずっと威圧感を出していた杉野に言うわけにはいかない。
大丈夫だとは思うが、蓮池に勘違いされても困る。
藤ヶ谷は舌を出して返答を拒否した。
驚いた表情のベータ女性たちとは違い、藤ヶ谷は紅い唇をへの字に曲げ、真横に立った美形を見上げた。
藤ヶ谷とて、実際に出会えるとは思っていない。それでもどこかで「運命の番」というものに憧れがあった。
それを何の根拠もなく、バッサリと否定されたのだ。
「なんでそんな夢のないこと言うんだお前はー!」
「運命なんて作り話です。運命の番に出会ったことがあるアルファなんて聞いたことないですし」
藤ヶ谷が声を荒げても怖くも何ともないと言わんばかりに、杉野は肩を竦めた。
アルファの在学率が高い学校で過ごし、友人にもアルファが多いらしい杉野なりの根拠があったらしい。
それがベータの2人には説得力があったのか、残念そうに溜息を吐いた。
「なんだそうなのねー」
「ロマンチックなのに……」
「そもそも運命とか関係ないでしょう。アルファだろうとベータだろうとオメガだろうと、愛し合ってれば良いんだから」
涼しい顔で何でもないことのように杉野は言う。
その場にはベータの2人もいるのに、杉野は真っ直ぐに藤ヶ谷だけを見ている。
瞳に吸い込まれるように見つめ返すと、胸が温かくなってくる。
「……」
「何、ニヤニヤしてんですか」
知らず知らずに、口元が緩んでしまっていたらしい。
杉野が訝し気な表情になってしまった。
藤ヶ谷は改めて、にっこりと笑って見せる。
「良いこと言うなーと思って」
「絶対馬鹿にしてる」
次は杉野が拗ねた声を出す。
子どもっぽい仏頂面でそっぽを向いてしまう。
しっかりして優秀な後輩の年下らしい姿をみて、藤ヶ谷はバシンと杉野の太ももを叩く。
(いっ)
叩いた場所が想定したより筋肉質で固く、手がジンッと痺れてしまった。
ダメージを受けたはずの杉野は、眉一つ動かしていない。
痛みに戸惑いつつも、誤魔化すように明るく手を振る。
「いやいや。お前に愛される人は幸せだな。なぁ?」
「……うん……」
「そ、そうですねぇ」
同僚2人に話を振ると、どうも歯切れが悪い。
苦笑いしている2人に、藤ヶ谷は目を瞬いた。
「あれ、らしくない臭いこと言ったからって引かないでやってくれよ」
「いや、そうじゃなくて……ねぇ」
「私、こんな鈍感な人に初めて会いました」
「んん?」
気まずそうな2人が顔を見合わせてしまうと、藤ヶ谷は首を捻るしかなくなった。
鈍感な人、と言われているのが藤ヶ谷であることは分かったが、そう言われる覚えが全くなかったのだ。
4人しかいない部屋で流れてしまった奇妙な空気は、杉野の咳払いで解消された。
「ところで楽しそうなところ申し訳ありません。よつば商社の山吹さんがそろそろ着くそうです。ブランドマークの件です」
藤ヶ谷はすぐに腕時計を確認し、立ち上がりながら缶の中身を飲み干す。
「もうこんな時間か! 悪い! じゃあな2人とも、またデート終わったら話を聞いてくれよ!」
予想以上に話が弾んでしまった。
椅子に掛けていたスーツを肩にかけ、2人に見送られて杉野とともに早足で廊下に出た。
ふたりきりになった瞬間に、杉野からの鋭い視線が突き刺さる。
「なんですかデートって……」
「お前には関係ないだろおじゃま虫」
バーでずっと威圧感を出していた杉野に言うわけにはいかない。
大丈夫だとは思うが、蓮池に勘違いされても困る。
藤ヶ谷は舌を出して返答を拒否した。
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