【本編完結】おじ様好きオメガは後輩アルファの視線に気が付かない

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
94 / 110
三章

気合い

しおりを挟む
 藤ヶ谷は今、大きなソファで体育座りをしていた。
 髪や体からはふわりと石鹸の香りが漂っている。
 勢いよくベッドルームに連れて行かれそうだったところ、拝み倒してなんとかシャワーを浴びたところだ。

 交代でバスルームに向かった杉野を待っているのだが、身体そのものが脈打っていると錯覚してしまう。
 顔どころか頭が熱く、とにかく落ち着かなかった。
 美しい星空も、今の藤ヶ谷の目には入らない。

 その原因の一つに、用意されていた服がある。

(山吹さん……っ、なんで俺のパンツこんなに気合い入ってんだよ……!)

 クローゼットに入っていた「藤ヶ谷さん」と書いてあった籠には肌着は無く、白く滑らかな触り心地のパジャマと下着が一枚入っていた。

 正面の面積が小さい生地は黒色で、その上に白いレースが重なっている。通常の臀部を覆う布の部分がなく、そこを支えるレース紐だけがある。
 藤ヶ谷たちの勤める会社のランジェリー部門が、今月出した新商品のひとつだ。

 同期が所属しているため、藤ヶ谷は見たことがあった。

(脱がなくてもイれられるって言ってたやつ……!)

 藤ヶ谷は「そういう時のために」と際どい下着をいくつか所有していたが、実際に履く機会は少なかった。
 もし履くとしても、体型にピッタリと合うジーンズなどを合わせる。
 幅に余裕のあるパジャマだとスースーして心許なく感じた。

 しかも、これから杉野に見せるのだ。

「お待たせしました」

 独りで考え込んでいるところに声を掛けられて飛び上がりそうになる。
 更に、返事をしようと顔を上げて固まった。

 杉野は上半身に何も身につけておらず、下半身も黒いボクサーパンツしか履いてない。

 風呂上がりで上気した筋肉質な体はまるで彫刻のように整っており、目が離せなくなる。
 ピッタリとした下着は中心を形どっていて、嫌でもその中身を想像してしまった。

(なんでパジャマ着てないんだよ!)

 と、思うものの答えは決まっている。
 着る必要がないからだ。

 自分の方が積極的に誘っていたくせに、いざ目の前にその気の杉野がいると急激に恥ずかしくなって顔に熱が昇る。
 同時に、この状況に興奮もした。

「ま、待ってました」

 言葉が見つからずに紡いだ言葉は我ながら間抜けで。杉野にもくすくすと笑われ、改めて横抱きにされて持ち上げられた。

「そんなに緊張しないでください」

 今回は首に捕まることも出来ずに、手を自分の胸の前で握り締める。
 体を硬くしている藤ヶ谷の耳元に杉野は唇を寄せてくる。

「取って食いますけど」

 多く息を含んだ深い声。
 背筋を通して腹まで震える心地がした。

「や、優しくお願いします」

 目を合わせられず細い声で呟く藤ヶ谷に、杉野は微笑むだけで返事はしない。
 ただ、リビングからベッドルームに進んでいくだけだ。

「お手柔らかにお願いします……っ」

 不安になって縋るように顔を上げても、にっこりと笑みが深まるのみ。
 藤ヶ谷は慌てて厚い胸を叩いた。

「す、杉野。返事し……っ」

 希望する答えは得られないまま、杉野の唇の中に藤ヶ谷の言葉は飲み込まれた。
 唇を吸われながら、柔らかいベッドに丁寧に下ろされる。

 キスは気持ち良いのだと覚えた体は、すぐに緊張がほぐれていった。
 ベッドが揺れて杉野も上がってきたことを感じながら、首に腕を巻きつける。

「ん、……っぅ」

 やり方を覚えたとばかりに自分から舌を差し出した。
 遠慮がちに辿々しく動くそれに、期待通りに熱い舌が絡みついてくる。
 唾液を交換し合いながら、夢中になっていく。

「ぁっ……ふ……っゃ!?」

 恍惚としていた藤ヶ谷の体がビクッと跳ねた。
 杉野がパジャマの上から体をまさぐり、指先が胸の突起に触れたのだ。

「ん、……ぅっ」

 藤ヶ谷の反応を見逃さず、杉野は同じ場所を何度も撫でる。
 布で敏感な突起が擦れて、焦ったい刺激が藤ヶ谷を襲った。

 たまらず体を捩って杉野の肩を押し、抜け出そうとするが。
 杉野の体はびくともしない。
 熱い口内を貪りながら、杉野はパジャマのボタンを外していき。

 あっという間に藤ヶ谷の上半身は空気に晒された。
しおりを挟む
感想 269

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

孤独の王と後宮の青葉

秋月真鳥
BL
 塔に閉じ込められた居場所のない妾腹の王子は、15歳になってもバース性が判明していなかった。美少女のような彼を、父親はオメガと決め付けて遠い異国の後宮に入れる。  異国の王は孤独だった。誰もが彼をアルファと信じているのに、本当はオメガでそのことを明かすことができない。  筋骨隆々としたアルファらしい孤独なオメガの王と、美少女のようなオメガらしいアルファの王子は、互いの孤独を埋め合い、愛し合う。 ※ムーンライトノベルズ様にも投稿しています。 ※完結まで予約投稿しています。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

さかなのみるゆめ

ruki
BL
発情期時の事故で子供を産むことが出来なくなったオメガの佐奈はその時のアルファの相手、智明と一緒に暮らすことになった。常に優しくて穏やかな智明のことを好きになってしまった佐奈は、その時初めて智明が自分を好きではないことに気づく。佐奈の身体を傷つけてしまった責任を取るために一緒にいる智明の優しさに佐奈はいつしか苦しみを覚えていく。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

処理中です...