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第26話自己紹介2

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「取り合えず席について下さい。今からLHRロングホームルームを始めますよ」

 その一声で教室中がざわざわとする。

「え、教師……若すぎじゃね?」

「一体幾つだよ……仮にもここ進学校だろ?」

 なんて声が聞こえてくる。
 年若い教師に対して不信感を持つのは分かるが、三年後には成人を控えた我々はいぶかしむような視線を投げかけつつも、教師の号令で立っていた生徒達は、とろとろと自分の席に戻っていく……

「じゃぁ俺も戻るわ……」

 そう言って西郷さいごうは、俺の斜め右隣りの席に腰を下ろした。

お前の席ソコだったのかよ……

 直接話をしたクラスメイトは約十数名、早くから登校していても遠巻きに珍獣を見るようにしている奴もいれば、会話に混ざりたくても混ざれなかった奴もいるため、クラスメイトからの射殺さんばかりの視線を背中で感じる。

「こ、これは……想像以上にキツイ……」

 苗字順になっているせいで俺の座席はほぼ真ん中の最前列。教団はほぼ目の前で滅茶滅茶めちゃくちゃ目立つ上に、数日前のLIME招待事件に加え、入学早々クラスメイト十数人に囲まれている奴と他の奴は見る訳だ。
 視線を集めない道理はない。
 幸いなことに視線は菜月なつきさんにも向いている訳だし、最大の被害ではないことだけが不幸中の幸いと言える。

 そういえば、「当校では担任の発表は入学式ではなく、始業式なですので当日をお楽しみに……」と言っていたがこういう事か……要約合点がいった。

「それでは自己紹介をお願いします。じゃぁ出席番号順で……」

 少しおどおどとしたところはあるものの、新人教師であるのならば及第点と言える。

 自己紹介なんてクラスが変わる度の恒例行事、程度としか思っていなかったが入学当初の挨拶と言うモノは大切だ。
 自分が所属するスクールカーストに影響する。
 例えばおどおどしてしまえば、陰キャという印象を与えるし、過度に巫山戯ふざけたた挨拶をすれば馬鹿な奴だ。という印象を与えかねない。

 教師の号令で順々に生徒が自己紹介をしていく……氏名、出身中学と趣味や好きな食べ物なんかをボソボソと、あるいは元気に、あるいは滑って浮いていることに気が付かず。教室の空気を微妙なものに変えながら、次第に俺の番が近づいて来る。

 定番の出来事で、覚悟を決めていたから大丈夫。と思ってはいたものの菜月さんが挨拶する番に段階で急に自分もこうなるんだ。と変な実感が湧いて来ると緊張感は頂点になった。

 さながら、毎朝死刑を言い渡されるか不安な死刑囚か、断頭台の階段を昇り聴衆からの罵詈雑言を浴びながら、刃が落ちるのを待つ権力者のような気分だ。
 人はこれに居似た状況を、『絶体絶命』とか『一触即発』とかと表現するのか……と漢検を受験した時に覚えた。熟語達が脳裏を駆け抜ける。

「XX中学出身の鎌倉かまくら……“高須” 菜月たかすなつきです。趣味は……特にないです。一年よろしくお願いします」

 菜月なつきさんが挨拶すると、教室中がざわざわとする。

「コラ! 静かにしなさい?」

 と教師が声を張るも威厳のない彼女では、どうする事もできないようだ。
 南無三なむざん

「あれ、鎌倉かまくらじゃないの?」

 女子達の一部から声が上がった。

「母が春休みに再婚したの……LIMEはそのままだったんだけど……皆には一応知って置いて欲しいなって、あっ! 学校では鎌倉かまくらで通すことになっているんだけどね……苗字だと色々ややこしいから、出来れば名前で呼んでくれると嬉しいな?」

 と簡潔に理由を説明する。
 菜月なつきさんのインパクトのある挨拶のせいで、前後数人の挨拶は覚えられることなく終わりを告げ……貰い事故を起こしたのは俺だった。

「XX中学出身の高須容保たかすかたもりです。趣味は料理と読書……それに映像鑑賞とゲームです。これから一年よろしくお願いいたします」

 そういうとペコリと頭を下げ椅子を引いて席に座ろうとするも……周囲の視線は俺を見ていた。
「もっと色々喋れよ」とか「まさかこれで終わり?」と言いたげな視線と空気は、一瞬。俺の動きを鈍らせる。

「? 何か言いたいことがあるのかな? 高須たかすくん」

 と担任が言葉を発した。

こんんのォクソアマぁぁぁぁああああああああああ!!

 俺は内心で絶叫した。
 しかし、表情にも態度にも出すことはない。

「いえ、特には……」

 そう言って誤魔化すか、正直に俺の義姉が菜月なつきさんであることを語る以外の選択肢はないのだが、無駄に目立つことは避けたかった。

「あれ……高須たかすって鎌倉かまくらさんにグループに招待されていたよな」
「……でも親同士が仲がいいって……」

 ――――と先ほどまで俺を取り囲んでいた男女が、情報を互いに口にして誰でも推理が出来るようにする。

「……」

 先生も己のミスに気が付いたのか無言を付き通す。

「以上です……」

高須たかすくん……?」
 
 先生が俺に呼びかけるが敢えて無視する。

「以上です……」

 強引にこの場を治めるしかすべしか俺には思いつかなかった。
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