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第35話義姉の手作り料理を振る舞う

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「ただいまー」と父母の声が玄関から聞こえる。

「料理できてますから」

「ありがとうね容保くん。料理結構な頻度で任せちゃって……菜月悪いんだけど、冷蔵庫に食材を入れて置いてくれない?」

「なんで私が……」

「普段料理しないんだからいいでしょ?」

「今日私が作ったんだけど?」

「嘘!? そんなこと言って、容保くんが全部作ったんでしょ?」

「教えて貰ったけど実際に作ったのは私よ……」

容保かたもりくん本当なの?」

「本当ですよ。肉や野菜を切って炒めて煮込んでましたよ」

「決めつけてごめんなさい。小学校の頃から料理を作っても冷凍食品とかインスタントまでだったから急な成長で信じられなかったの……」

「それは……ベタな間違いをするほど容量が悪い訳じゃないので、単純なヤル気の問題かと……」

「ふふふそうかもね」

 家族が食卓に着く。

「今日はまた随分と気合が入っているな……」

「うん。菜月なつきさんが料理を覚えたいって言っていたから少しオシャレ路線でメニューを作ったんだ」

「ほう、菜月なつきちゃんが……」

「父さん露骨に嬉しそうな顔するなよ……気持ち悪い」

「義理とは言えど娘に料理を作って貰えたんだ嬉しくない訳ないだろう?」

「もう、容敬かたたかさんたらこの様子だと、菜月なつきが彼氏を連れてきたらどうなる事かしら……」

「……喜んでるところ悪いけどレシピや指導は俺がやってるから完全に手料理かというと……疑問だけど……」

「でも最初の一歩は一歩よ。千里の道も一歩からと言うじゃない。さ、冷める前に頂きましょう」

 義母の仕切りで食事が始まる。

父さんは和風冷やしトマトを肴にビールを飲んでいる。

「美味い! ビールもトマトも良く冷えてるし、トマトには白だしと昆布の旨味が入って酒が進むな!」

 グルメ漫画のように大きな口を開けビールを飲んでいく……

「あら容敬かたたかさんこっちも美味しいわよ? チーズのコクにトマトの酸味と甘み。それにオリーブの爽やかな香りがワインとよく合うわ。本当に容保くんはお酒のアテを作るのが上手ね」

「肴は冷蔵庫に入ってるのでもっと欲しければ出してください。それに両方とも肴と言うよりはサラダ枠なので、あまり酒の肴扱いはしないでください」

 そういう俺はミネストローネに匙を入れ口に運ぶ。

 それはスープと言うよりはあまりにも水分が少ないものだった。

 ほくほくのヒヨコ豆にジャガイモがほろりと溶け、人参、玉ねぎ、キャベツの自然な甘みがトマトの酸味を和らげる。
 またそれだけではやや単調な味を、ベーコンとピストゥの塩分と油分が味のグラデーションを演出してくれる。

 良くヨーロッパではスープは音を立てずに食べるのがマナーと言われ、またそれらを解説する文章ではよく飲むのではなく食べると表現されているが、このミネストローネはまさに食べるスープ。日本で近いモノを上げるのなら汁の多い煮物だろうか?

 匙の上には殆どスープは見えず、匙を埋め尽くしているのは1センチほどの賽の目状に切り分けらた幾つもの食材達。
 食材にトマトの旨味がしっかりとしみ込んだ食べるスープ。それがミネストローネなのだ。

「美味い」

「コンソメなんか要らない。野菜の旨味で十分だ」と、レシピを調べた時に何人かの料理人が言っていたが家庭料理では、入れた方が分かり易く強力な旨味が付いて美味しいと思う。

「ミネストローネよねでも全然スープがないじゃない……」

「これは食べるスープをコンセプトにしたものなので、スープが少な目なんです」

容保かたもりのミネストローネは美味いぞ! 冷蔵庫に保存しておくとその間に味がしみしみになって美味いんだ」

「そうなの……じゃぁ……」

 恐る恐ると言った様子で匙をスープ皿に入れ、具沢山のミネストローネを掬い口に入れる

「――――!? 美味しい。美味しいわ! スープが少ないかしっかりと煮詰まっていて具材に絡んでる。根菜とキャベツが甘くて美味しいし、豆もジャガイモもホクホクで最高ね」

「実はミネストローネって本場では、豆やマカロニを入れて食べるものなんです。それを知った時にスープを少な目に作ったほうが美味しいんじゃないか? って思って作ったんです。喜んでもらって嬉しいです。さぁパスタが冷めない内にどうぞ……」

「美味しいわ。少し時間がたってるからアルデンテとは言えないけど……濃厚なフレッシュトマトソースにチーズのコク、バジルとオリーブ爽やかな香りのあとにガーリックチップによる触感と香りの変化が美味しいわ。ワインが飲めちゃうぐらい……」

 そう言うと、雪奈ゆきなさんはグラスの中のワインを一口で飲み干した。

菜月なつき頑張ったわね」

 雪奈ゆきなさんの顔をは優しさに満ちた顔で、テーブルから身を乗り出して菜月なつきの頭を撫でる。

「……」

 菜月なつきさんは耳まで赤く染め、顔を伏せテーブルを見つめる。
 良かった。この調子なら母の日には手作りの料理を振る舞うこともできるだろう……

「それに容保かたもりくんもありがとう。菜月なつきに料理を教えてくれて……」

「いえ、大したことはしてないですから……」

 実際大したことはしていない。何時も作る料理の時間が伸びただけで褒められるほどの労力はかけて居ないのだから……

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