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第43話教師をぎゃふんと言わせる

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「ここが例にはなりますが危険な道路の写真です。信号のない歩道、しかも車の交通量は多く過去には対人事故が起こっています」

「確かに危険だね」

 営業をやっている親戚曰く、モノを売るには松竹梅の法則で売りたいものを真ん中に設定し、そして三種全てのメリットをしっかりと提示、具体例を交えて説明するとなおよし、そして相手の不安感を煽り、今決めていただいた時だけのメリットを提示するなど、の物事を教えて貰っている俺は並みの高校生よりも手ごわいと思う。

「ですので、この辺りの小中学校にご協力いただいて通学路や、児童や生徒が遊ぶ活動圏で危険な道や場所がないのか? 調査へのご協力を頂ければ、『地域からの声』として公安委員会等への対応を求めていくつもりです」

「なるほど、それでまずは田中たなか先生に通学路調査の依頼をしたが、結果は何もしていなかったと……」

 老齢の教師は老眼鏡を外し、目頭を軽く抑えると田中先生の方へ視線を向ける。
 すると罰が悪そうな表情を浮かべ、田中たなか先生は目を逸らした。
 まるでヒラメかカレイのようだ。

「はい……」

「確かに、歩道は事故発生率低下に効果があるようだね……引用元の明記もしっかりされている……実にいい資料だ」

「はい。以前どこかのメディア……テレビだったかネットだったか新聞だったかは忘れてしまいましたが、そのようなデータがあったと記憶していたので、補足と言う形式ですが警察発表のデータを添えさせていただいています。
ご覧いただいた通り1,2年ごとに前年比を大きく超える事はありますが、年々子供の事故とその重傷・死亡率は減少傾向にあります。しかし、だからと言って交通安全は疎かにしていい問題ではありません。これから30年程度は地域の老人は増え間違いなく高齢者事故は増えるでしょう……ご存じですか? 子供の運動能力と後期高齢者の運動能力はそこまで差異はないんです」

「なるほど、子供が危険を感じる場所は地域の老人も危険と言いたい訳か……」

「はい」

 さも頑張って調べた風に話しているものの全ては、文明の利器ことGoogle先生のお力に他らない。

「君達の学校……嫌……クラスの目的も意見もやりたい事も判った」

「……」

「これは社会的意義のあることだ。是非協力させていただきたい。否定する他の学校があれば私も説得に協力しよう……」

「ありがとうございます。今後ともご協力の程をよろしくお願いします」

 座ったまま頭を下げる。

「私からもお願いするよ。担当は……田中たなか先生以外がいいかな……」

「汚名を雪ぐつもりがあるのなら田中たなか先生でも構いませんが……」

 そう言いながら田中たなか先生の方を見ると……田中たなか先生は目を逸らす。

「この様子では別の先生の方がいいでしょう。とはいっても生徒に用紙を持って帰らせて、それを再び学校で集めるだけですので、それだけちゃんとやっていただければ文句はありません」

「わかりました。担当者はキチンと調整しますので……用紙だけ頂いても?」

「もちろんです」

 初めから拒否された数校もあとで回る手間を考えれば、こうやってカチコミを掛ける口実を作ってくれてた半魚人にも感謝しなければならない。

「今日は遅い時間に失礼しました。それと、声を荒げて申し訳ありませんでした」

「次から気を付けて貰えればいいさ、君はまだ社会に出ていない子供なのだから……」

 傲慢なその物言いに思わずムっとする。が表情に出すことはない。
 田中たなか先生は意気消沈と言った様子で一言も発する気力は無いようだ。
 まぁ気持ちは分かる。面倒な仕事を押し付けてこようとする高校生を軽くあしらおうとしたら、相手が要害にしぶとくて追い詰められたのだから……
 初めから「出来ない」と言えば、自分の責任でここまで面倒な事にはならなかったのだ。
 まぁ断られたら断られたで、直接訪問して学年主任や生徒指導と言った偉い先生に直談判をするだけなんだけど……

「では子供ですので失礼を承知で最後に一つ……今日の会話は最初から最後まで録音していますので、内心がどうのと言う部分もしっかり録音されています」

「――――っ!?」

 顔が一瞬で青くなる。

「地方紙か地方局のニュース程度には今回の活動をしたいので、資料として提供するデータに混入したり、うっかりセキュリティの脆弱なPCに保存して、外部に流出すかもしれませんがご容赦下さい」

「脅すつもりかね?」
 
 絞り出すような声で呟いた。

「いえいえ。『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ』ということですよ。自分が落ちる時は『死なば諸共、一人五十殺一戦車』の腹積もりで行くことに決めていますので、もし私をどうこうするのでしたら御覚悟を……」

 昔嫌いな人にはどうなって欲しい? と父に訊いたことがある。
 嫌いな相手にはどこか遠くに行って欲しい。と父さんは言ったが俺は違う。出来るだけ近くで藻掻き苦しんでいる様をじっくり見たい。

「先ほどの発言は取り消そう……重ね重ねこちらの不手際だ。このとおりだ謝罪する」

 そう言うと久坂くさか先生は田中たなか先生の頭を押さえて謝罪する。

「謝罪を受け入れましょう」

 その言葉にホッと安堵の表情を浮かべる久坂先生……

「では次の学校が控えていますので……」

 ――――と挨拶をそこそこに切上げ小学校を後にする。



 
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