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第45話ファミレス2

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容保かたもりくん……」

 心細かったのだろう。
 菜月なつきさんは噛み締めるように、俺の名前を口にした……

「それで、松ヶ浜まつがはまの生徒と何かはなしでもあったの?」

「いえ。私は何の用事もなかったんだけど……」

 そう言いながらあからさまに面倒くさそうな表情を浮かべ、小さく溜息を付いた。

「なんで学校バレテるの!?」

 三人の内一人が驚愕の表情を浮かべる。

「お客様……」

 事態を嗅ぎ付けた店員が来て事態を収束させた。
 終始、笑顔のままでマニュアルと思われる文言だけでナンパ野郎を店外に追いやろうとするも、文句を垂れるヤンキー共。
 この情報社会でスマホと言う、移動型監視カメラが一人一台のレベルで普及するこの世の中で、よくもここまでバカなことが出来ると心底感心する。
 言い争う店員とヤンキー共の写真をパシャリと一枚とって置く……

「何してるの?」

 ヤンキー共が怖かったのか向かいの席に座ったのに、態々隣に座り直してくる。その甘えたがりな態度にドキッと来る。
 同じ洗剤・柔軟剤を使っているに……何でこんなにもいい匂いがするんだろう? シャンプー? リンス、ボディーソープそれともフェロモンの影響なのだろうか?

「お守りだよ」

 俺はそう言うと座席に座りメニュー表を眺める。

 ゴネるヤンキー共に最後の一撃を決める。警察呼びますよ? の一言で顔を青くして立ち去るそのようすは、滑稽以外の何物でもなかった。

………
……


 菜月なつきさんの勧めで普段は食べないサラダ系のメニューとドリア、シェア出来るピザなどを頼むと今日あった愚痴が始まった。

「私の方は色い良い返事は貰えなかったわ……」

「そうなんだ……」

容保かたもりくんはどうだった?」

「二校ともなんとか協力してくれることになったけど……あまり協力的はなかったね……」

「それでも協力を取り付けられたんだ……やっぱり容保かたもりくんは凄いなぁ……」

「そんなことないよ。今日断られたとしても日を改めて行ったり、他の学校から協力を打診して貰えばいい。もしそれが無理そうなら諦めるしかないけどね……」

「そうだね……」

 彼女の言葉には力が無かった。

一校目の半魚人もその上司もその態度は到底協力的といえるものではなかった……アレ半魚人の名前なんていったっけ? まぁいいか……

 二校目は純粋に直近で体育祭があるらしく、準備に追われており連絡が遅れてしまったらしい……本当かよ? と思ったのだが、プリントを配布し回収するだけと説明すると、少し時間はかかるけど責任をもって対応してくれる事になった。
 一校目にもこれぐらいの機転を利かせた対応をしてほしかった。

「暗い話はこの辺にして、美味しいご飯を食べようよ……」

「そうね……今は気にするよりも、気分転換した方がいいわね」

 そう言ってコップに口を付けるが、既にコップは空になっていた。
 コップをテーブルに置くと飲み物を取る為に、立ち上がろうとする。
 少し強引にコップを奪うと質問した。

「俺が取ってくるよ。何がいい?」

「ありがとう……じゃぁジンジャーエールをお願い」

「了解」

 短く返事を返すと、ドリンクバーに向かうため脚を進める。
 すると店内の至る所に掛けれらた。レプリカの数々に改めて圧倒される。
 ネットで見た話しによると、サイゼリアに始めて来た外国人の多くは、サイゼリアを高級レストランと勘違いするらしい。本当かよ……と懐疑的な目で見ていたのだが、コレは確かに高級店と言われれば信じてしまいそうになる。
 ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』、『プリマヴェーラ』、ラファエロの『システィーナの聖母』、フラ・アンジェリコの『受胎告知』など宗教画や神話画は、陶器のような肌に塗られているものの極めて精密な絵画は、美術的なセンスの無い俺の目をも引き付ける。

おっといかんいかん。ジンジャーエールを補充しておかないと……と。

 ジンジャーエールとコーラを携えた俺は、菜月さんの待つボックス席に戻る。

「ありがとう」

 そう言って菜月さんは、ジンジャーエールの入ったコップを受け取る。

「いいよ。別に……今日は疲れたでしょ?」

「私も疲れたから、容保くんはもっと疲れたんじゃないかな? って思ったの……だから外食にしようって誘ったのよ」

「気を使ってくれてありがとう……それにしても金曜日でまだよかったよね」

「ホント。疲れるし、不快な気持ちになるしで何もいい事はなかったわ……独善的だけど、こんな人たちのためにボランティアをやらないといけないの? って何度思ったことか……」

「俺の担当の学校もそうだったよ。みんな仕事は増やしたく何だろうね……」

「そういうモノなのかしら……」

 小エビのサラダにフォークを刺して口に運ぶ、サイゼリアソースが程よくかかったサラダは、プリプリとしたエビの甘みとレタスのシャキシャキ感が良くマッチしていて旨い。

「そういうものなんだろうね……」

 そんな事を言いながら、匙でドリアを掬うと口に頬張る。
 ホワイトソースとミートソース、チーズの味が複雑に絡まった。
 深い味わいが舌を覆い尽くす。
 粉チーズが有料になったり、ドリアの上のミートソースから挽肉が少なくなったりと、昨今の物価上昇の影響が至るところに見え隠れしているのことが、この国の哀愁あいしゅうを感じさせる。

 個人的にはどこかで見たフォッカチオにガムシロップを付けるて食べる。と言うデザートをやりたいのだが、仮にも女の子を連れている今、そんな意地汚い真似をする勇気は無かった。

「今日は色々とありがとう。私のワガママでサイゼリアに行くことにして……助けてくれて……」

「そんな事無いよ。良い気分転換にもなったし、こっちこそ誘ってくれてありがとう」

「そう言って貰えてうれしいわ」


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