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第46話帰宅

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 会計を終えた俺達は自宅のある住宅街に向けて歩みを進めていた。
 免許を取り立ての俺は、残念ながら某黒の剣士のように二人乗りはまだできないので、現在はバイクを引きながら歩いている。

容保かたもりくんだけでも先に帰って良かったのに……」

菜月なつきさんを……年頃の女の子を独りで帰らせる訳にはいかないよ。実際にファミレス内でも菜月なつきさん絡まれてたし……」

「……確かに否定出来ないわ……」

 徒歩の自分に付き合わせるのが悪いと思っているのだろうけど、実際に問題が起きているのだから家族として、男としてむざむざ見逃せるリスクではない。

「と言う訳で、一緒に帰ろうって言ってるんだ。男として、家族(仮)として、そして義理とは言え姉弟として男共が放って置かない菜月なつきさんを守らないと、父さんにも義母雪菜さんにも申し訳ないからね……」

「やっぱり容保かたもりくんは優しいなぁ……」

 そう言うと菜月なつきさんは、歩を止め俺の横にピッタリと並ぶ。

「そんなことないと思うけど……」

「そんなことないよー。こんなに出来た義弟おとうとを持てて義姉おねえちゃんは嬉しいなー(こんな風に女の子の扱いが上手くなったのは、七瀬ななせちゃんの影響かしら? あれ……でも……)(ボソ)」

 ――――とブツブツと呟いている。

 そんなことを呟きながら家路を急いでいた時だった。
 住宅街のせいか、周囲に街灯は少なく疎らに設置された街灯がポツポツと周囲を照らしている。
 そんな住宅街にも信号のない横断歩道はあり、電柱の横に煌々と光る街灯が一基、そして制服に身を包んだ少女も一人立っていた。
 どうやらスマホを弄っているようで、少女の頭は下がっている他人事ながら不用心だと思っていた時だった。

「喜んでもらえるような大層なことはしてないんだけど……」

「そんなことないよー。容保かたもりは頑ななところはあるけど基本優しいし料理だって美味いし、ファッションだって七瀬ななせちゃんの影響でセンスはそこそこ。あとはもう少し痩せるだけで、女の子は放っておかないと思うけどなぁ……」

 菜月なつきさんの急なお褒めの言葉に思わず胸がドクンと跳ねるが、身内の贔屓目、おべっかだと自分に言い聞かせて喜ぶ心を落ち着かせる。

「身内の贔屓目だよ。それに減量も調子落ちてきたし……」

「一気に痩せられるのはそれだけ太っているから、テストの点数と一緒で詰めてれば詰めるほど、思うように行かなくなるものよ。私だって中学三年で太った分をペイするのは結構かかったんだから、男女の基礎代謝の違いはあれどそんな簡単にペイされて溜まるものですか……」

 少女の横を菜月なつきさんと談笑しながら通り抜けた時だった。
 うつむいていた少女は頭を上げ、俺の名前を呼んだ。

「あれ、容保かたもりよね?」

 声だけで理解した。
 理解できた。
 思い出してしまった。
 俺の黒歴史。
 思い出したくないあの日々の象徴。
 顔から、脇から全身から嫌な油汗が吹き出し、背中がびしょびしょになり、一瞬で顔色が悪くなる。

「すず……」

 油を指していないブリキ人形のような、ぎこちない仕草で振り返る。
 長年の刷り込みの結果だろう。鈴を鳴らせば涎が垂れると言うパブロフの犬のように、俺は反応せざるおえなかった。

 ひゅるひゅると音を立てて風が吹き抜ける。

 流れるようなサラサラの黒い長髪をなびかせる姿を幻視する。
 しかしあの頃のすずの姿はなく、黒かった頭髪は明るい茶色に染めており、耳にもピアノが幾つも空いている。
 そうこの少女こそ俺がここまで変わる原動力になった幼馴染。長南おさなみすずだった。

「……容保かたもりくん?」

「なんだやっぱり容保かたもりじゃん。なんですぐ返事返さないの昔見たいに……」

 松ヶ浜まつがはま高校のブレザー制服を着崩しており、いかにもギャルと言った風体になっている。

「悪かった……」

 ただ俺には謝る事しか出来ない。

「そう言えば数か月前にトラック止まってたけど何? 小父さん再婚でもしたの?」

 会いたくない。心の底からそう思っている相手に突然出会ってしまえば、つい先ほどまで大人と対等以上に戦っていた俺でも戦意喪失し、まるでまな板の上の鯉のようになされるがままに成ってしまう。

「実はそうなんだ……」

 力なく答えるしかない。

「えっ!? 嘘ッ! 小父さんって転職してないなら忙しいハズなのに……良く再婚相手見つけられたわね……で、隣の相手は……」

 父さんの職業を知っている。すずにとって再婚は相当に意外な事だったらしく驚愕の表情を浮かべている。
 俺との出来事なんてコイツからしてみれば、一ヶ月単位ではそこそこ大きな出来事でも、一年単位になれば大した事件ではなくなり、二年も立てば忘れてしまうほどに小さな出来事何だろう……
本当に嫌になる。一世一代の告白に何の価値もなかったのだと、もう一度突きつけられるこの感覚、手の平に杭でも刺された見たいな鋭い幻痛を感じる。

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