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第47話帰宅

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「始めて私、容保かたもりくんと同じクラスの鎌倉菜月かまくらなつきと言います。貴方は……」

「私は、長南おさなみすず。コイツの幼馴染よ」

 すずからしてみれば、年の近い弟分なのかもしれないが俺からすればずっと憧れていた女の子でしかない。
 俺からすれば二度と会いたくないので幼馴染とすら名乗らないで欲しい。

「幼馴染……私は容保かたもりくんの義理の姉なんです……」

「姉? ……あぁ再婚で……」

 納得が行った、とでも言いたげな表情を浮かべる幼馴染。

「そんなことより、なんで話しかけてくるんだよ! 俺はお前にフラれていらい顔も合わせたくないに……」

「顔を合わせたくないって……幼馴染なんだからしょうがないでしょ? 私を見返したいのか、分からないけど猛勉強して早苗さなえ高校受かったんだし離れられて結果良かったじゃない」

「……」

 余りの言い分に何も言い返せずにいるとこう付け加えた。

「それにあの先輩とは分かれたのよ?」

 あの先輩と言うのはバスケ部OBの田辺先輩の事だろう。
 しかし、今の俺にはどうだっていいことだ。

「……今も彼氏はいるんだろ?」

「あれから十人は出来たかしら……」

 笑窪が可愛らしいこの幼馴染は、まるで男友達のような気安さで多くの非モテ男を勘違いさせる女で、それでいて運動が得意な陽キャに良くモテる。

「今でもお前のことが好きな気持ちはあるけど、あるからこそ会いたくないんだ。これからは街で会っても話しかけないでくれ……」

 俺はバイクを押しその場を立ち去ろうと試みる。

「ちょっと待ってよ。別にあんたと付き合いたいなんて言ってないじゃないの……」

 そう言うと立ち去ろうとする俺の腕を摑む。

「すいません。家の義弟おとうとが嫌がっているのでその手を放して貰ってもいいですか?」

 言葉は丁寧だが拒絶の感情を色濃く感じさせる声音で、お願いといいつつもそれは命令に近いものだった。

「私達、幼馴染のことに口を挟まないでよ! 容保かたもりは一人じゃ何にもできない子なの……義理の家族に何が分かるの? 過ごしてきた時間が長い私の方が容保かたもりの事は分かっているのよ!」

 声を荒げ反論する。
 
なんでコイツはこんなに荒れているんだ? 親と喧嘩? ……それなら自室に引きこもったり、着替えてカラオケや漫画喫茶にでも行ってオールすればいいのに……

「すず。悪いんだけどウチの義姉さんのことを馬鹿にしないでくれよ……仮にも家族を馬鹿にされて「はい、そうですか」って黙って居られる訳ないじゃないか」

「でも長く過ごしているのは私よ? そりゃ告白は断ったけど……」

「告白を断られた事を恨んでいないと言えばウソになる。だけど俺は新しい家族を大事にしたいんだ。シスコンと言われてもいい偽物でも本物であろうと努力すれば、本物よりも歪でも、不格好でも俺はその方が価値があると思う……俺達はもう違う道を歩いているんだもう放っておいてくれないか?」

 その言葉はすずに言い聞かせるというよりは、二年間も未練を引きずっている自分に言い聞かせるようなものだった。
 恋だの愛だのと言う複数の感情の混合物に無理やり名前をつけるんだから、憧れや独占欲、所有欲なんかの綺麗で純粋な感情や汚く欲に塗れた感情と誤認するのも仕方がない。

 俺は菜月なつきさんの腕を引くと足早にその場を後にした。

菜月なつきさんごめんなさい。不快な思いをさせてしまいました」

「いえ。仕方ないことだと思っています。家族と呼んでもらえたことは本当に嬉しかったです」

 菜月なつきさんはニッコリとほほ笑むとこう付け加えた。

「これから一緒にホンモノに近づけていきましょう。差し当たって、先ずは明日の食事の内一回は私が作りましょう。いつもはお母さんや、容保かたもりくんに作って貰っていますので……」

「でも菜月なつきさん料理が苦手じゃないか……大丈夫ですよ。レシピだけじゃわからないことでも動画を見ながらなら保管できますし……大船に乗ったつもりでいてください」

「うん。タイタニックに乗ったつもりでいるよ……」

 少しと言うには過分な不安を覚えるが、新しい事を始めるにはいい機会なのかもしれない。

ああ、今日は風呂に入る気力すら残っていない。早く制服を脱いで柔らかいベッドに倒れ、泥のように寝たい……




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