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Episode3

はらぺこ淫魔、隠す。-11

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「っ!」

 じっと見据えられたその瞳に濃い色情を見つけて、リオンは期待に喉を震わせた。髪を弄っていた指がこめかみを辿り喉へといきつく。ツゥ……と辿られ、リオンの瞳がどろりと蕩けた。じゅわ、と溢れた唾液を必死に飲み下していると、ディナンがそっと囁いた。

「セックスは怖い?」
「え?」

 どこか確信を持ったような口ぶりに、サーッと血の気が引いていく。
 どうして、ディナンがそのことを知っているのだろう。
 薄く口を開け、ディナンの顔をじっと見ていると、にこりと微笑まれた。

「ベッドに行こうか、リオ」

 優しく腕を引っ張られ、ディナンの後ろを着いていく。広い寝室と言えどベッドまでの距離はそうない。あっという間に着いてしまった目的地に、リオンはうろ、と視線をさ迷わせた。先にベッドに上がったディナンはおいで、と両手を広げている。迷いながらもベッドに上がり、ディナンから数センチ離れた所に座り込んだ。
 ディナンは数センチある距離を見て片眉を釣り上げると、リオンの腰を抱き、己の膝の上に乗せた。急に縮まった距離に身体を固まらせていると、ディナンは緊張を解くようにリオンの肩をゆっくりとさすった。

「怖がらなくていい。私はリオンが嫌がることはしないし、気持ちいいことしかしないよ」

 それは、知ってる。
 リオンにとってセックスは仕方なくやるもので、気持ちいいこととは無縁の「作業」だったはずなのに、ディナンから与えられるものはどれもおかしくなりそうなほど気持ちのいいものばかりだ。
 このままじゃまたしてもらうばっかだ、とリオンは慌てて口を開いた。

「今日も、あの」

 しますか?  と、色を匂わせるようディナンの太腿に手を這わすと、ディナンは考えるように、唇を撫でた。その艶っぽい仕草に頬が熱を持つ。

「んー、今日はいいかな」
「……そうですか?」

 やっぱり、僕は口も使えないんだろうか。じわ、と滲んだ涙を零さないよう必死に瞬きを繰り返していると、リオン、と甘やかな低い声で名前を呼ばれた。

「して貰いたくないわけじゃないよ」

 ディナンは、むしろして欲しいけど、と苦笑した。

「ただ、今日は別にしたいことがあるから」
「したいこと?」
「そう、リオはどっちがいいかな?」
「え、と?」
「私がしやすい方でいい?」
「んっと、はい、たぶん?」
 
 こてんと可愛らしく首を傾げる姿に気を取られ、何も考えずに了承したのは間違いだった。
 いつの間にか一糸纏わぬ姿にさせられたリオンは、あぐらをかいたディナンの膝の間に、大きく脚を開いた状態で座っていた。背中に当たるのはディナンの厚い胸板だが、リオンと違ってディナンはきっちりシャツを着たままで、余計に羞恥を煽られる。

「やっ、ディナッさ、これはずかし……ッ!」
「うんうん、可愛いよ」

 ぜったい、可愛くなんかない! 
 抗議の意を込めてパタパタと脚を振り上げたが、じっとして、と囁かれ、リオンはきゅっと身体を小さくした。借りてきた猫のように、膝の間で微動だにしないリオンをディナンは吐息だけで笑うと、サイドテーブルへと手を伸ばし、小瓶を手に取った。
 息を潜めてディナンの様子を伺っていると、男は小瓶の蓋を開け、とろりとした粘液状の液体をたっぷり指にまぶした。
 潤滑油だ、とリオンが気づいたのと、ディナンがひくひくと期待に震える後孔の縁をゆっくりと撫でたのはほとんど同じ瞬間だった。丁寧に皺の一本いっぽんを伸ばすような動きに、ピクピクと内腿が痙攣する。

「ちゃんと、ここが気持ちいいところだって覚えようね」
「ぁ、ぁっ、……ッ!  おぼ、える……?」
「そう、昔のことは忘れるんだよ」
「ぁ……、あぅ」

 ディナンの言葉に、昨日も同じようにして淫靡な事を教えこまれたことを思い出し、ゾクゾクと背中が粟立つ。
 首まで真っ赤に染めたリオンを見て、満足そうに目を細めたディナンは、つつ……と空いた手でリオンの脇腹を撫でると、二本の指でくぱぁと後孔を拡げた。真っ赤に充血した媚肉が空気に触れきゅうきゅうと収縮する。

「あっ、あ……!  や、広げちゃだめえ……ッ!」
「ふふ、可愛いね、リオ」

 ディナンの言葉にきゅんきゅんと勝手に腹の奥が反応し、何もないそこを締め付けた。

「可愛いって言われると嬉しい? 本当にかわいいね、リオ」
「ひあぁぁ……ッ!」

 耳元で艶っぽく吹き込まれ、リオンは首をしならせた。突き出された喉仏にディナンの舌が這う。その間もディナンの指はずうっと孔の縁をすりすりと撫でたり、カリカリと優しく引っ掻いたりしている。もどかしい動きに無意識のうちに腰が揺れた。早く、早く挿れて欲しい! 

「も、あっ、ん゙っ……、せつな、からぁ……ッ、じら、さない、でッ……!」
「ん、いいよ。気持ちよくなろうね」

 ぐちゅりと指を一本挿入され、待ち望んだそれにガクガクと身体が痙攣した。節くれだった男の指が肉襞を掻き分け奥へ奥へと侵入してくる。じっくりと教え込むような動きに腰がビクビクと跳ねた。

「ぉ゙、くぅ……ッッ!! ぅあ、ああ……ッ!」
「ふふ、リオはどこが好き?  ここは?」

 一度奥まで侵入した男の指はあっさりと引き抜かれ、再び挿入されると今度は浅い所をちゅこちゅこと抜き差しを始めた。

「んぅ……っ! やぁ、らめぇ……っ! あぅ…ッやめ、あさいとこ、そんな、ひぅッ、あ、あ~~~~ッッ!!」
「気持ちよさそうだけど、もっと気持ちいいとこがあったよね?」

 と、ディナン。
 何となく、ディナンの言う場所がどこか分かってしまって、芋ずる式にその時の快感も思い出してしまったリオンは、いやいやとその身を捩ったが、ガッチリと腰を抑えられ固定されてしまう。

「ん、もしかして覚えてる?」
「おぼっ、わか、わか、んに゙ゃッ、あ、あっ」
「そっか、じゃあこれから覚えようか」
「っぁ」

 ずるりと指が引き抜かれた喪失感に浸っていられたのは一瞬だった。次の瞬間、二本に増えた指がずぶずぶと後孔に埋められる。

「ああぁっ、ひっ…! ま、こわっ、やあっ……!!」
「リオの一番気持ちいとこはここだと思うんだけど……」

 どう? と、爽やかな顔に反して、容赦なくぷっくりと膨らんだ前立腺ごりゅ、と潰され目の前に火花が散り、押し出されるようにしてぴゅく、と精液が吐き出された。
「ひぎゅッ……!? ッお゙、ぁ、ぁ、~~~~ッッ!!」
「あれ、まだ精液残ってたんだ」

 せっかくだし全部出し切っちゃおうか、と怖いことを呟いたディナンは、執拗に前立腺を捏ね回した。

「うあ、んッ、あっ、あんっひッあああ゙ァッ! なでないで、それッ、らめっ、ぇ……!」
「撫でるのがダメ? じゃあこれは?」
「しょれっ、つぶしゅのもっ、ぁああっ! ひぅッ」
「引っ掻くのは?」
「ぉ゙ッ、ああぁ゙ッ! ~~~~ッッ゙!!」

 ビクビク跳ねる身体を落ち着かせるように撫でながらも、ディナンの指は的確にリオンの弱いところを刺激した。表面を優しく撫でたりしたかと思うと、ぐぅぅっと押し潰したり、カリカリと引っ掻いたり、予想できない動きにいやいやと首を振る。気持ちが良すぎてもう終わって欲しいと思うのに、身体はとっくに屈し、肉壁は従順にディナンの指に吸い付いた。

「ふふ、可愛いね。もう出ないかな?」
「あ、あ、あぁあ゙ッ!」

 もうぴくりとも反応しなくなったペニスを悪戯に揉みこまれ、リオンは悲鳴のような嬌声を上げた。
 パタパタと暴れるリオンをものともせず、ディナンは何度かリオンのそれを扱いて、もうカウパー以外何も出てこないことを確認すると、上機嫌にリオンのつむじにキスを落とした。

「ん、やっと準備ができたかな」
「あ、う?  じゅんび……?」

 ぼんやりとうまく焦点の合わない視界の中、ディナンを見上げると、そう、と綺麗な顔で微笑まれた。

「ナカだけでイく準備」

 ディナンの言葉に僅かながら理性が戻ってくる。きっと不味いことだと分かるのに、ぬちぬちと浅い所を擦られ、あっという間に思考が霧散した。

「前もしてた気がするけど、あの時はリオ、そんなに意識がハッキリしてなかったから」
「あ、あ、あぁあ」
「きっとすっごく気持ちいいよ」

 ね? と、ゆらゆらと指を動かしながらそう言われ、思考がどろどろに溶けていく。ナカが切ない。さっきまでたくさんイかせてくれたのに、焦らすような動きに堪えられないというように腰が揺れる。

「んっ、わかった……からっ、もっ、じらさないっ、で、おねが、ああぁッ!」

 上半身を捩り、胸板に頬を擦り付けながらそう強請ると、ディナンは喉の奥で満足そうに笑った。

「仰せのままに」

 今までゆっくりだった指の動きが早くなる。ナカを掘削するように擦られ、ぐちゅぐちゅと聞くに耐えない粘ついた音がした。ガッチリと腰を抑えられ、快感を逃がすことも出来ず、足先が丸まった。
 ディナンの指はいつの間にか三本に増え、バラバラに内壁全体を犯していた。大きくピストンを繰り返され、腸液と混ざった潤滑油が泡立ちシーツに小さな水溜まりを作る。
 全身をビクビク跳ねさせながら、リオンはディナンの腕にしがみついて快感に耐えていた。

「ああぁっ、はぁーッ……! んん゙っ! あっ、ひっ、あああ゙ッ、あ、~~~~ッ!」
「気持ちいいね、リオ」
「ん゙ッ、きも、きもぢッ……、やあ……ッ!」

 パチパチと視界が弾け、きゅうぅ、と腹の奥が切なく収縮した。天辺はもうすぐそこにあった。
 同時に、奇妙な確信があった。それを味わってしまえば、きっともう戻れなくなる。
 未知の快感への恐怖に、パサパサと頭を振りながら脚をバタつかせたが、ディナンの長い脚に絡めとられあっという間に動きを封じられてしまう。

「こら、暴れないの」
「ぁうッ、でもっ、だめッ、へんなの……ッ!  へんなのきちゃうッッ゙! うぅ゙~~ッッ!!」
「ん、出さずにイけそう? じゃあもう少し頑張ろっか」
「ふぁっ、ああっ、やら゙あぁッ! ひッああッ、ッ、う? あぁ゙ッ!?」
「イッていいよ、リオ」
 囁き声と共に、ぎゅうぅぅ! としこりを押しつぶされ、バチンッと視界が弾けた。
「~~~~~~ッッッ゙!!」

 強烈な快感に足先がピンッと伸び、背が弓なりにしなる。後孔がきゅうぅと収縮し、ビクビクと全身が痙攣した。

「上手にイけたね」

 いい子、いい子、と、頭を撫でるように肉襞をこそがれ、悲鳴のような嬌声が上がった。

「んぁあ゙っ! いまっ、イ゙ってる、のにっ……! きもちぃ゙のこわいぃ゙ッ……! うあッ、~~~~ッッ゙!!」
「怖くないこわくない。気持ちいいでしょう?」

 大丈夫だよ、と安心するほど優しい声なのに、リオンの後孔を嬲る指の激しさはそのままで、リオンはポロポロと生理的な涙を流しながらディナンの太い腕に爪を立てた。
 リオンの精一杯の抵抗も、男にとっては子猫がじゃれつくような可愛らしいものなのだろう。ディナンは後ろからリオンの眦に吸い付き、あやすようにしこりを捏ねた。

「あああ゙ァっ! イ、くッ、イッちゃ、ああ゙ッ! やッ、イッ……ッッ!!」

 それから二回、三回と連続でイかされ続け、体力も底を尽きたリオンはぐったりとディナンの胸板にもたれかかった。

「ふふ、疲れちゃった?」

 たくさんイけたね、とディナン。ぼんやりとディナンを見上げると、顔中にキスの雨が降ってくる。睫毛が揺らされるような些細な刺激すら快感に変換され、リオンは身体を震わせた。

「あ……あぅ……」
「蕩けちゃってかわいいね、どうしたの?」
「んぅ…、でぃな、しゃ、挿れない、んですか?」

 背中にあたる剛直はしっかり反応している。とろとろに解された今ならきっとディナンも気持ちいいはずだ。
 ディナンはパチクリと瞬きを繰り返すと、愉しそうに目を細めた。

「挿れてほしい?」
「それ、は」

 どうだろう。
 散々イかされた今、これ以上の快感を与えられるのは期待半分、恐怖半分といったところだ。それに、挿れて欲しいと言うのはなんだかねだっているようで恥ずかしい。迷うようにぱくぱくと口を閉じたり開いたりしていると、ディナンはにっこりと微笑んでこう言った。

「それじゃあ今日はおしまい」
「おし、まい……?」
「言ったでしょう? 私はリオンの嫌がることはしないって」

 だからどうして欲しいかちゃんと教えて、と。そう甘やかに囁かれ、リオンは小さく目を見開いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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