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よく分からないけど25日に薫とデートすることになった。12月25日、クリスマスだ。いや25日って薫お前予定あんじゃないの。
だから気を利かせて別日を提案したら未だかつて見たこともないほどの真顔で「ヒロはその日なんか予定あんの」って詰められるし、驚いて正直に何もないことを伝えたらめちゃくちゃ良い笑顔で「じゃあ決まり」って言われた。しかもこれはデートだって何度も念を押されたんだけど本当にどういうことだよ。14年の付き合いがあるけど俺って薫のこと全然分かってなかったのかもしれない。
で、今日はその25日だった。
「……服、どうしよう」
俺はクローゼットの前で立ち尽くしていた。約束の時間まであと1時間くらい。30分後にはもう家を出なきゃ間に合わないけど、服が全然決まらない。
「いや別にいつもと同じでも……」
でも薫はデートだって言ってた。
薫がどんなつもりなのかは知らない。でも、薫に恋をしている俺は“デート”ってだけで特別なことがしたくなる。
数秒迷って、俺は普段は着ない白のセーターを手に取った。
待ち合わせ場所に行くと既に薫が居た。黒いロングコート姿で腕時計に目をやる姿はまるで雑誌モデルのようで、道行く人もチラチラと薫を見ている。薫は普段から人の目を惹く男だけど、今日はいつもよりずっとキラキラしていた。
正直、あれだけ注目を浴びている男の元には行きたくない。ほら今もそこの女子高生が「彼女さん待ってるのかな?」って話してるし。どうしよう。いやどうしようもないんだけど。しかし薫の元に向かう勇気もなく、その場をうろうろしていると、ふっと薫が顔を上げた。あ、と思った。目が合った。
薫はパッと顔を輝かせると、「ヒロ!」と俺の元に駆け寄ってきた。尻尾が見える。普段なら可愛いと思えるけど今だけは居た堪れない。ああほらさっきの女子高生も驚いた顔をしてる……。
「遅刻だよ、ヒロ」
「ああうん……ごめんな……」
まさかお前がキラキラしすぎてて近寄りたくなかったとは言えない。しかし近くで見るとキラキラが3割り増しだ。眩しい、網膜が焼けそう。
薫は俺の頭から足先まで全身に目を走らせると、満面の笑みを浮かべた。
「その服、初めて見た。似合ってるね」
声がいつもより優しい、気がする。似合ってるとか、初めて言われた。デートだからか? 頬が熱い。俺はマフラーに顔を埋めるともごもごと口を動かした。
「あ、りがとう」
薫もそのコート似合ってるよ、とは言えなかった。俺が言ってどうするんだって話だし。居た堪れなくて視線を下に落とすと、薫が小さく肩を揺らした。まさかさっきの揶揄われただけか? 俺は下からじろりと薫を見た。
「なんだよ」
「いやちょっと安心して」
と、薫。俺は眉を顰めた。
「安心?」
「ちゃんとおしゃれしてきてくれたんだな、って思って。いやあ、あん時とおんなじ格好してきたら服買うつもりでいたんだけど、良かった良かった」
「……あんとき? は? 買う? 誰の?」
「ヒロの」
こいつ何言ってんだ。
薫は優しく微笑むと、俺の手を取って自分のポッケに突っ込んだ。
「ヘあ?!」
喉の奥から変な声が出た。慌てて空いてる手で口を押さえる。薫は平然としてるけど、触れた手が熱くて心臓がバクバクと暴れ出す。薫は昔からスキンシップが多いタイプだったけど、でも、手を繋ぐなんてことはしたことがなかった。
「行こっか」
「かおっ、か、薫……?」
「うん?」
「なんでお前そんな平然としてんの?!」
「だってデートでしょ?」
デートってだけで手も繋げるのか?!
もしかしたら今日の思い出だけで俺は一生楽しく生きていけるかもしれない。ふわふわとした気持ちのまま、「どこ行くの」と聞くと、「ゲーセン」と返ってきた。
あ、そこはいつもと変わんないんだ。
と、思ったんだけど全然違った。確かにやってることはいつもと変わらない。変な小物を集めるのが好きな薫に付き合ってガチャガチャをやったり、クレーンゲームでどっちが回数少なく取れるか競ったり、いつもしている他愛のない遊びだ。でも、全部違った。
俺を見る目が優しい。常に体のどこかしらが触れ合ってる。薫は普段から俺のことを甘やかす癖があるけど、今日はいつも以上にそうだった。ガチャガチャで出たおにぎりのストラップくれたし。別に欲しくはなかったけど薫から貰えるものはなんでも嬉しいからありがたく貰った。どこにつけよう。家の鍵にはもうキーホルダーついてる自転車の鍵にしようかな。
薫とのデートは楽しかった。
楽しければ楽しいほど、俺の心は沈んでいった。
俺の拙いエスコートなんて比べ物にならないほど薫は何から何までスマートにこなしてみせた。きっと、今までの彼女もこんな風に甘やかしていたんだ。初めてかつての薫の彼女のことが羨ましくなった。知らなかったから、親友でも良いなんて言ってられたのだと気付いてしまった。
少し早めの夕飯を食べて、せっかくだしイルミネーションでも見ようってことになった。どんどん口数が少なくなる俺を見て薫は「具合悪い?」って心配してくれて、早く帰ろうとも言われたけど、今度は俺が頑として頷かなかった。きっとこれが最後だ。だから、それっぽいことをしたかった。
電飾に彩られた並木道を歩きながら、俺はライトアップされた木々もろくに見れなかった。
せっかく、薫との最後のデートなのに。小さくため息を吐くと、薫が口を開いた。
「ヒロ」
「なに」
顔を上げると、強張った顔の薫が俺を見ていた。どこか追い詰められているような表情に違和感を覚える。
「俺、何か嫌なことした?」
「嫌なって?」
「だってヒロ、いつもと違う」
「そりゃ……」
口籠る俺の腕を薫が掴んだ。その真剣な顔に心臓が跳ねる。
「ねえ、嫌なことがあったんなら言って。俺ちゃんと直すから」
「薫に嫌なとこなんてないよ……」
俺は力なく項垂れた。少しくらい、嫌なとこがあれば良かったのに。そしたら、薫の元カノに嫉妬するなんて不毛なこと、しなくて済んだのに。
俺はポツリとつぶやいた。
「……俺、薫のことが好き」
小さな声だったけど、すぐそこにいた薫にはしっかり聞こえていたみたいで、薫は当たり前でしょ、というように頷いた。
「うん? うん、知ってる」
「そうじゃなくてっ!」
乱暴な仕草で薫の手を振り払う。薫が驚いたように目を見開いた。ああやっぱり、何も伝わってない。伝わらない。
気付いたら俺の足は止まっていた。縫い付けられたようにそこから動かない。どん、と後ろから人がぶつかって、それがきっかけだった。瞬きをした拍子に水滴が飛ぶ。泣いてる、と気付いたのは薫の驚いた顔がぼやけて見えなくなったからだった。
薫は慌てたように俺の腕を掴んで人通りの少ない方に誘導すると、ゴシゴシとコートの裾で俺の顔を拭った。そのコート絶対高いやつだろ、やめろ。
「ヒロ、待って、ヒロ。お願い、泣かないで。ね?」
「……俺、か、薫のことなら、なんでも知ってると思ってた!」
涙声だった。ああ嫌だ、なんで俺はこんなことで泣いてるんだろう。そう思うのに涙は止まってくれないし、薫は全然気付いてくれないし。お前、今親友に告白されてんだよ。
「えっうん、ヒロより俺のこと知ってんの親くらいだよ」
なのに当の薫がコレだ。俺は唇の端を歪めると、「全然違う」と吐き捨てた。
「俺、薫がこんな風にデートすんのも、彼女にこんなに優しいのも初めて知った」
「えっ」
「俺、薫が好きだよ。その、親友的な意味じゃなくて、恋愛的な意味で」
薫の顔を見る。鳩が豆鉄砲喰らったような顔しやがって。ちくしょう、俺は泣き笑いを浮かべると、「ごめん」と口にした。
「気持ち悪いだろ、こんな。親友だと思ってた男にこんなこと言われてさ……」
声はだんだんと小さくなって、最後には俺は俯いていた。
「……初めてした」
「……は?」
顔を上げる。そこには、顔を真っ赤にした薫の姿があった。一瞬、頭が真っ白になる。
「だから! 今日みたいなデートはヒロと初めてしたって言ってんの!」
今度は俺が目を見開く番だった。
「う、嘘だ」
「嘘じゃない」
真剣な声だった。息が止まる。淡い期待が顔を覗かせて、馬鹿野郎期待すんなって冷静な自分と喧嘩し始める。
「俺も、ヒロのことが好きだよ」
薫はそう言って綺麗な顔で笑った。唇が震える。本気で言ってることくらい考えるまでもなかった。だって俺は薫の幼馴染で、薫のことは薫の家族と同じくらい知っていた。
薫は照れくさそうに頬をかいた。
「いやまあ、気付いたのは最近なんだけどさ」
「……恋愛的な意味で?」
「恋愛的な意味で」
そっと両手が取られる。暖かかった。俺は下から薫の顔を伺うように覗き込んだ。
「……付き合えるの? 俺たち」
「うん、付き合ってください。……ごめん、デートしよって言う前に告白すれば良かった」
薫は小さな声で「勇気がなくてさ」と眉を下げた。
「じゃ、じゃあ会いたくなったら、会いたいって言っていいの」
「いいよ。合鍵もあげる」
まあ元々合鍵は渡すつもりだったんだけど、と薫。俺は繋いだ手をぎゅっと握った。薫の瞳が優しく細められる。
「俺のこと、一番優先してって言っていいの」
「いいよ。スケジュールアプリ入れる? ヒロ知ってる? カップルが使うやつ」
「いや知らない……じゃあその、飲み会とかは?」
「ヒロが嫌なら行かない」
「いや別に行くのはいいけど……」
「そう? 俺は行って欲しくないけど。じゃあ迎えにきてよ。俺も迎えに行くからさ」
「…………」
すり、と手の甲を撫でられる。ドキドキした。
「あとは? まだ不安?」
薫が俺の顔を覗き込む。俺は小さく息を吸うと、じっと薫の顔を見た。
「……セックスしたいって言ったら、してくれんの」
「えっしていいの?!」
「えっ」
「俺絶対上は譲らないけど」
「いやそこは話し合う姿勢を見せろよ」
「やだよ、俺ヒロのこと抱きたいもん」
いいでしょ、と薫は小さく首を傾げた。あざとい。あざといけど、俺はこの顔に弱かった。
「俺、キスの仕方も知らないんだけど」
「最高じゃん」
それはそれで何かムカつく。
俺はサッと周囲に目を走らせると、薫の巻いたマフラーをぐいっと引っ張った。バランスを崩した薫が俺の方へ倒れ込んでくる。マフラーの影に隠れるように、俺は唇を重ねた。薫の瞳が大きく見開かれる。
「じゃあ、抱いてくれ」
薫の顔がじわじわと赤く染まっていく。薫は俺の肩に手を置くと、はあああ、と大きなため息をひとつ吐いた。……何その反応、やっぱ気持ち悪かった? 不安になった俺が小さな声で薫の名前を呼ぶと、顔を真っ赤にした薫が顔を上げた。
「ヒロはさ、本当にかっこいいよね」
「は? 何だそれ嫌味か?」
「ううん、大好きだよ」
だから気を利かせて別日を提案したら未だかつて見たこともないほどの真顔で「ヒロはその日なんか予定あんの」って詰められるし、驚いて正直に何もないことを伝えたらめちゃくちゃ良い笑顔で「じゃあ決まり」って言われた。しかもこれはデートだって何度も念を押されたんだけど本当にどういうことだよ。14年の付き合いがあるけど俺って薫のこと全然分かってなかったのかもしれない。
で、今日はその25日だった。
「……服、どうしよう」
俺はクローゼットの前で立ち尽くしていた。約束の時間まであと1時間くらい。30分後にはもう家を出なきゃ間に合わないけど、服が全然決まらない。
「いや別にいつもと同じでも……」
でも薫はデートだって言ってた。
薫がどんなつもりなのかは知らない。でも、薫に恋をしている俺は“デート”ってだけで特別なことがしたくなる。
数秒迷って、俺は普段は着ない白のセーターを手に取った。
待ち合わせ場所に行くと既に薫が居た。黒いロングコート姿で腕時計に目をやる姿はまるで雑誌モデルのようで、道行く人もチラチラと薫を見ている。薫は普段から人の目を惹く男だけど、今日はいつもよりずっとキラキラしていた。
正直、あれだけ注目を浴びている男の元には行きたくない。ほら今もそこの女子高生が「彼女さん待ってるのかな?」って話してるし。どうしよう。いやどうしようもないんだけど。しかし薫の元に向かう勇気もなく、その場をうろうろしていると、ふっと薫が顔を上げた。あ、と思った。目が合った。
薫はパッと顔を輝かせると、「ヒロ!」と俺の元に駆け寄ってきた。尻尾が見える。普段なら可愛いと思えるけど今だけは居た堪れない。ああほらさっきの女子高生も驚いた顔をしてる……。
「遅刻だよ、ヒロ」
「ああうん……ごめんな……」
まさかお前がキラキラしすぎてて近寄りたくなかったとは言えない。しかし近くで見るとキラキラが3割り増しだ。眩しい、網膜が焼けそう。
薫は俺の頭から足先まで全身に目を走らせると、満面の笑みを浮かべた。
「その服、初めて見た。似合ってるね」
声がいつもより優しい、気がする。似合ってるとか、初めて言われた。デートだからか? 頬が熱い。俺はマフラーに顔を埋めるともごもごと口を動かした。
「あ、りがとう」
薫もそのコート似合ってるよ、とは言えなかった。俺が言ってどうするんだって話だし。居た堪れなくて視線を下に落とすと、薫が小さく肩を揺らした。まさかさっきの揶揄われただけか? 俺は下からじろりと薫を見た。
「なんだよ」
「いやちょっと安心して」
と、薫。俺は眉を顰めた。
「安心?」
「ちゃんとおしゃれしてきてくれたんだな、って思って。いやあ、あん時とおんなじ格好してきたら服買うつもりでいたんだけど、良かった良かった」
「……あんとき? は? 買う? 誰の?」
「ヒロの」
こいつ何言ってんだ。
薫は優しく微笑むと、俺の手を取って自分のポッケに突っ込んだ。
「ヘあ?!」
喉の奥から変な声が出た。慌てて空いてる手で口を押さえる。薫は平然としてるけど、触れた手が熱くて心臓がバクバクと暴れ出す。薫は昔からスキンシップが多いタイプだったけど、でも、手を繋ぐなんてことはしたことがなかった。
「行こっか」
「かおっ、か、薫……?」
「うん?」
「なんでお前そんな平然としてんの?!」
「だってデートでしょ?」
デートってだけで手も繋げるのか?!
もしかしたら今日の思い出だけで俺は一生楽しく生きていけるかもしれない。ふわふわとした気持ちのまま、「どこ行くの」と聞くと、「ゲーセン」と返ってきた。
あ、そこはいつもと変わんないんだ。
と、思ったんだけど全然違った。確かにやってることはいつもと変わらない。変な小物を集めるのが好きな薫に付き合ってガチャガチャをやったり、クレーンゲームでどっちが回数少なく取れるか競ったり、いつもしている他愛のない遊びだ。でも、全部違った。
俺を見る目が優しい。常に体のどこかしらが触れ合ってる。薫は普段から俺のことを甘やかす癖があるけど、今日はいつも以上にそうだった。ガチャガチャで出たおにぎりのストラップくれたし。別に欲しくはなかったけど薫から貰えるものはなんでも嬉しいからありがたく貰った。どこにつけよう。家の鍵にはもうキーホルダーついてる自転車の鍵にしようかな。
薫とのデートは楽しかった。
楽しければ楽しいほど、俺の心は沈んでいった。
俺の拙いエスコートなんて比べ物にならないほど薫は何から何までスマートにこなしてみせた。きっと、今までの彼女もこんな風に甘やかしていたんだ。初めてかつての薫の彼女のことが羨ましくなった。知らなかったから、親友でも良いなんて言ってられたのだと気付いてしまった。
少し早めの夕飯を食べて、せっかくだしイルミネーションでも見ようってことになった。どんどん口数が少なくなる俺を見て薫は「具合悪い?」って心配してくれて、早く帰ろうとも言われたけど、今度は俺が頑として頷かなかった。きっとこれが最後だ。だから、それっぽいことをしたかった。
電飾に彩られた並木道を歩きながら、俺はライトアップされた木々もろくに見れなかった。
せっかく、薫との最後のデートなのに。小さくため息を吐くと、薫が口を開いた。
「ヒロ」
「なに」
顔を上げると、強張った顔の薫が俺を見ていた。どこか追い詰められているような表情に違和感を覚える。
「俺、何か嫌なことした?」
「嫌なって?」
「だってヒロ、いつもと違う」
「そりゃ……」
口籠る俺の腕を薫が掴んだ。その真剣な顔に心臓が跳ねる。
「ねえ、嫌なことがあったんなら言って。俺ちゃんと直すから」
「薫に嫌なとこなんてないよ……」
俺は力なく項垂れた。少しくらい、嫌なとこがあれば良かったのに。そしたら、薫の元カノに嫉妬するなんて不毛なこと、しなくて済んだのに。
俺はポツリとつぶやいた。
「……俺、薫のことが好き」
小さな声だったけど、すぐそこにいた薫にはしっかり聞こえていたみたいで、薫は当たり前でしょ、というように頷いた。
「うん? うん、知ってる」
「そうじゃなくてっ!」
乱暴な仕草で薫の手を振り払う。薫が驚いたように目を見開いた。ああやっぱり、何も伝わってない。伝わらない。
気付いたら俺の足は止まっていた。縫い付けられたようにそこから動かない。どん、と後ろから人がぶつかって、それがきっかけだった。瞬きをした拍子に水滴が飛ぶ。泣いてる、と気付いたのは薫の驚いた顔がぼやけて見えなくなったからだった。
薫は慌てたように俺の腕を掴んで人通りの少ない方に誘導すると、ゴシゴシとコートの裾で俺の顔を拭った。そのコート絶対高いやつだろ、やめろ。
「ヒロ、待って、ヒロ。お願い、泣かないで。ね?」
「……俺、か、薫のことなら、なんでも知ってると思ってた!」
涙声だった。ああ嫌だ、なんで俺はこんなことで泣いてるんだろう。そう思うのに涙は止まってくれないし、薫は全然気付いてくれないし。お前、今親友に告白されてんだよ。
「えっうん、ヒロより俺のこと知ってんの親くらいだよ」
なのに当の薫がコレだ。俺は唇の端を歪めると、「全然違う」と吐き捨てた。
「俺、薫がこんな風にデートすんのも、彼女にこんなに優しいのも初めて知った」
「えっ」
「俺、薫が好きだよ。その、親友的な意味じゃなくて、恋愛的な意味で」
薫の顔を見る。鳩が豆鉄砲喰らったような顔しやがって。ちくしょう、俺は泣き笑いを浮かべると、「ごめん」と口にした。
「気持ち悪いだろ、こんな。親友だと思ってた男にこんなこと言われてさ……」
声はだんだんと小さくなって、最後には俺は俯いていた。
「……初めてした」
「……は?」
顔を上げる。そこには、顔を真っ赤にした薫の姿があった。一瞬、頭が真っ白になる。
「だから! 今日みたいなデートはヒロと初めてしたって言ってんの!」
今度は俺が目を見開く番だった。
「う、嘘だ」
「嘘じゃない」
真剣な声だった。息が止まる。淡い期待が顔を覗かせて、馬鹿野郎期待すんなって冷静な自分と喧嘩し始める。
「俺も、ヒロのことが好きだよ」
薫はそう言って綺麗な顔で笑った。唇が震える。本気で言ってることくらい考えるまでもなかった。だって俺は薫の幼馴染で、薫のことは薫の家族と同じくらい知っていた。
薫は照れくさそうに頬をかいた。
「いやまあ、気付いたのは最近なんだけどさ」
「……恋愛的な意味で?」
「恋愛的な意味で」
そっと両手が取られる。暖かかった。俺は下から薫の顔を伺うように覗き込んだ。
「……付き合えるの? 俺たち」
「うん、付き合ってください。……ごめん、デートしよって言う前に告白すれば良かった」
薫は小さな声で「勇気がなくてさ」と眉を下げた。
「じゃ、じゃあ会いたくなったら、会いたいって言っていいの」
「いいよ。合鍵もあげる」
まあ元々合鍵は渡すつもりだったんだけど、と薫。俺は繋いだ手をぎゅっと握った。薫の瞳が優しく細められる。
「俺のこと、一番優先してって言っていいの」
「いいよ。スケジュールアプリ入れる? ヒロ知ってる? カップルが使うやつ」
「いや知らない……じゃあその、飲み会とかは?」
「ヒロが嫌なら行かない」
「いや別に行くのはいいけど……」
「そう? 俺は行って欲しくないけど。じゃあ迎えにきてよ。俺も迎えに行くからさ」
「…………」
すり、と手の甲を撫でられる。ドキドキした。
「あとは? まだ不安?」
薫が俺の顔を覗き込む。俺は小さく息を吸うと、じっと薫の顔を見た。
「……セックスしたいって言ったら、してくれんの」
「えっしていいの?!」
「えっ」
「俺絶対上は譲らないけど」
「いやそこは話し合う姿勢を見せろよ」
「やだよ、俺ヒロのこと抱きたいもん」
いいでしょ、と薫は小さく首を傾げた。あざとい。あざといけど、俺はこの顔に弱かった。
「俺、キスの仕方も知らないんだけど」
「最高じゃん」
それはそれで何かムカつく。
俺はサッと周囲に目を走らせると、薫の巻いたマフラーをぐいっと引っ張った。バランスを崩した薫が俺の方へ倒れ込んでくる。マフラーの影に隠れるように、俺は唇を重ねた。薫の瞳が大きく見開かれる。
「じゃあ、抱いてくれ」
薫の顔がじわじわと赤く染まっていく。薫は俺の肩に手を置くと、はあああ、と大きなため息をひとつ吐いた。……何その反応、やっぱ気持ち悪かった? 不安になった俺が小さな声で薫の名前を呼ぶと、顔を真っ赤にした薫が顔を上げた。
「ヒロはさ、本当にかっこいいよね」
「は? 何だそれ嫌味か?」
「ううん、大好きだよ」
応援ありがとうございます!
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こちらも本当にステキなお話で、涙がでちゃいました!
本当にステキなお話、ありがとうございました😊
しかも、大好きな設定!
最高です✨
これからも応援しています!
本当にありがとうございました🙇
こっちにもありがとうございます!!
幼なじみ設定私も好きなのでそう言って頂けると本当に嬉しいです!!
こちらこそ本当にありがとうございます!またご縁があったら読んでくださると嬉しいです✨
とても好きなヤツでした〜!春野さんのお話、本当にいつも刺さりまくりで、読んでよかった〜って幸せな気持ちになります♫
これからも楽しみにしております!
燈さん!!いつもありがとうございます〜!!
そう言っていただけるとめちゃくちゃ嬉しいです…!!元気になります。
感想本当にありがとうございます!また次も機会があれば読んで頂けると嬉しいです〜☺️
やっと読めました(*´ω`*)!
ヒロくんが1人で現状を変えたくてアプリ入れたりしてるとこ、可愛いなぁと。
それがきっかけ?で薫も気持ち自覚出来て良かった!!🥰
今を変えたい時は、何か行動してみるのも手ですよねー🤭竹田くんは今更?と呆れてるでしょうけど。
ありがとうございました!!
ありがとうございます〜!!!
ずっと傍に居るものと思ってた存在が簡単なことで離れてしまうかもしれない、と気づいた時の攻めの心情思うと可愛いな〜って思って書いたので嬉しいです!!
竹田くんは本当に呆れてると思います。えっ今更?みたいな笑
感想ありがとうございました!!本当に励みになります!!