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第三章 神の悪戯

第百九十七話 達成と新たな厄介事

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「はぁ…考えてもきりがないし、諦めるか」

 しばらく考え続けた末にナギは疲れた様子でそう言って考えるのを止めた。思考放棄にも思える発言だったが単純な話で、いくら考えても不安を募るだけの現状では考えるだけ無駄だと言うだけだ。
 後で冷静になることが出来てから起こりうる面倒事を考え、その事への対処法を一緒に考えればいいという判断だった。

「それで達成したと言う事は解放してもらえるんだろうな?」

「もちろんですよ。一度決めたルールはちゃ~んと守ります‼そうじゃないとゲームが楽しくないでしょ?」

「それには同意する」

 遊びと言うのはルールがはっきりしている方が面白いと言うのはナギも同意見のようで大きく頷いていた。ただそのロキへと向ける視線には同意ではなくて懐疑的な感じで、本心から言えば『そのルールの穴をどれだけつけるかを楽しんでそうだけどな』と思っていた。
 そんなナギの内心を読んでいるのかニヤリといたずらっぽくロキは笑みを浮かべた。

「魔物の襲撃とかも脅しに使用しただけで、準備もしていないのでやったりしませんよ!」

「へぇ…私は、ね」

「はい!わ・た・し・はしませんよ?」

 あからさますぎるほどに含みのある言い方でロキは楽しそうにそう言った。もうこの段階でナギは嫌な予感しかせず眉間に皺をよせるが、直接聞いたところで答えが返ってこない事はわかっているので深く聞いたりはせず何かが起こるかもしれない!と言う事を頭に刻み込んで別の話へと移ることにした。

「それで今回の話はこれで終りなんか?そうなら俺をいいかげん解放して欲しいんだが」

「むぅ~もう少し付き合ってくれてもいいと思うんですけどね~私と直接話せる機会なんて、たぶんそんなにないんですから‼」

「いや、特にない。普通に疲れたから休みたいし、早く帰らせてくれ」

 ぶりっこのようなしぐさで上目遣いに話すロキに対してもナギは何処までも冷静、と言うよりも冷え切った眼差しを向けながら冷たく言い放った。
 ただロキにはそんな答えも予想できていたのか笑みを浮かべたまま首を横に振った。

「仕方ないですねぇ~なら今回はここまでにしてあげましょう‼扉を抜ければ町の前に出るようにしておいたので、すぐに帰れますよ♪」

「っ!…そりゃ配慮ありがとう。それじゃもう二度と合わない事を願うよ」

「はい!また会いましょう‼」

「はぁ…」

 二度と会いたくないと言うナギの拒絶をロキは華麗にスルーして、その事にナギは疲れ切った様子で溜息を漏らしたがこれ以上何か話すつもりはないようで棺をアイテムボックスに仕舞い出口へと向かった。
 その出口は無駄に豪華な巨大な扉だったがナギが正面に行くと独りでに開いて行き、それに合わせてナギは静かに扉を潜り抜ける。

『また遊びましょうね~♪』

 扉を抜けた瞬間に耳に届いた陽気なそれでいて不吉なロキの声に反射的に振り返ったナギだったが、その時には光に飲まれて次の瞬間には町の前の草原に立っていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 そしてナギのいなくなった廃坑の中でロキは楽しそうに笑みを浮かべたまま空中で楽しそうに寝転がる。

「ふふふっ!この先どうなるんだろうねぇ~」

 寝転がりながらロキは去っていったナギの姿を思い浮かべてより一層楽しそうに笑顔を浮かべる。なにせ今回の試練と言う名を借りたイタズラは普通の住人の冒険者はもちろんの事、他のプレイヤー達をもってしても突破できないギリギリのラインを考えて作られていた。

 例えば第一区域はナギは地中を探索できるソルテと言う使い魔が居たから発見できたが、正規の攻略法としては採掘スキルで採掘していると隠し通路を見つけ、そこの正体不明の化け物に怯えながらもすべての隠し通路を見つける。それでも通路は見つからず採掘スキルを使用したことでスキルレベルが上がれば発見できるようになっているセーフエリアの通路に反応が現れ、そこで初めて発見できると言ったような仕掛けが施されていた。

 第二区域ではナギはアントの卵を攻撃して女王を引きずり出すと言う方法で出口の守りを失くした。
 しかし正規の方法だと途中で接敵した敵を大量に倒すとより強い個体が巡回に来るようになり、それも辛うじて倒すと女王の親衛隊が現れ最終的には雑魚的と女王の身を相手に戦いながら隙をついて出口を通る!と言うような方法だった。そのため実はあの出口は非常に軽く出来ていて体当たりしただけでも簡単に通り抜けられるようになっていた。

 第三区域は珍しくナギも正攻法に近い方法で達成していた。ナギは後を追って来る大蛇を完全に撒いてから穴に潜り込んだが、今回の場合は大蛇から一定時間逃げ続けると攻撃手段が地中からの奇襲に変わるように最初からなっていた。なので地中からの奇襲を何とか隠れて躱してその時の穴に飛び込む!と言うのがロキの想定していた当初の攻略法であった。

 つまりはほとんどの結果が見事に想定外の行動ではあったが、それでもロキはひたすらに楽しそうに笑みを浮かべたままだった。

「予想外ではありましたけど、これはこれで最高ですね~♪」

 神である自分の想定を僅かであろうとも超えた存在が居るその事がロキには何よりも勝る喜びだった。
 だがいくら楽しくてもロキが神なのだ、それだけに他には譲る事の出来ないプライドと言う物が存在する。何よりもロキは『狡猾神』という他の神と比べても欺く事を得意として、その事実に慌てふためく人間を見ることも何よりも好きだったのだ。

「さてさて~次はどんなことをしようか?私はしないとは言いましたが、実行者に少し手伝うくらいは許容範囲ですかねぇ~♬」

 故に今回の事でプライドを少し傷つけられたロキは先程ナギに言ったように自分から直接的に動く事はしなかったが、間接的な干渉はしてやろうと悪だくみを楽しそうに考え始めた。
 ちょうどそんな時、ロキしかいなかった空間に不気味な薄暗い空気が溢れ出した。それを感じ取ったロキは発生源の正体に気が付いて笑顔こそ変わらないが、初めてその足を地面へと着けた。

「おやおや~どんなようでこんなところまで来たんですか~?

 挑発的な笑みを浮かべながらロキがステッキを向けて話しかけると、あふれ出ていた空気はより濃度を増して底から無数のローブを身に纏ったデスサイズを持つ者達が姿を現した。

『ワカッテ、イルハズダ』

「さて~何のことだかさっぱりですねぇ~?」

『『『『ッ⁉』』』』

『マテ』

 ふざけたように態度で答えるロキに大半の死神達は殺気だってデスサイズを構えたが、代表して話していた死神が手で制して止めた。

『ゴマカシハ、イミハナイ。キサマガ、モッテイッタコトハ、ワカッテイル』

「へぇ…隠蔽は完璧なはずなんですけどねぇ~?それともこれはブラフでしたか?」

『ドチラデモイイ、トニカクカエシテモラオウ』

「無理です。人に報酬としてプレゼントしちゃったんで~♪」

『ナンダト⁉』

 悪びれもせずに盗んだ物を別の相手に渡したと言われた死神は冷静さは吹き飛んで取り乱した。その様子にロキは楽しそうに笑っていた。
 そんなロキの態度に場は死神達の殺気によって支配されていた。

『…ダレニワタシタ?』

「うん?教えませんよ、教えたら殺してでもあなた方は取り戻すつもりでしょう?」

『ムロンダ』

「なら教えられませんねぇ~♪」

『フザケルノモイイカゲンニシロッ!』

 あまりにも人を食ったような態度のロキについに冷静だった死神も感情的に怒鳴り散らし、同時に今まで我慢していた死神達もデスサイズを構えて一触即発の雰囲気にのまれていた。
 そんな殺気立つ死神達を前にしてもロキは余裕の態度を崩さなかった。

「ふざけてませんよ?お前達程度が手を出すのは許さない…」

『『『『ッ!』』』』

 先ほどまでの飄々とした態度とは一転したロキから放たれたプレッシャーに死神達はその場で強制的に跪いていた。
 これが本来の狡猾神としてのロキの本気で最上級の伝承にも残る神の力だった。確かに死神達も神ではあったが力の強さや密度などすべての要素で負けていた。

 そんな目の前に跪く死神達にロキは笑顔を浮かべたまま話しかけた。

「君たちの事情なんて欠片も興味はないけれど、あれは私のお気に入りなんだよ。君達ごときが指一本触れることは許さない…わかったかい?」

『ワ、ワカッタ…』

「それなら良かった‼ならもう用はないよね?帰っていいよ~」

 相手が服従すれば完全に興味を失くしたロキは適当に手を掃って、それに従った死神達は無言のまま来た時と同じように虚空へと消えて行った。もちろん死神達は不満そうだったが逆らったところで勝てないのは理解しているので表面上は大人しく従ったのだ。
 そのことはロキも気が付いていたが楽しそうに見送った。理由は単純で…面白そうだったからだ。

「さ~て、これで更に楽しくなるだろうし~今後が楽しみだな~♪」

 ロキは本当に楽しそうにそう言うと、少しのんびりした後にその場を後にした。
 そしてロキが姿を消してから少し後には役割を終えた迷宮が元の廃坑へとゆっくりと戻って行き、次にナギが確認しに戻った時には跡形もなくなっていたのだった。
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