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第四章 鍛冶師の国

第二百十話 鉄の短剣《後編》

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 そして鉄の短剣を製作したナギとソルテの2人は極力動かずに休んだ事で5分程で問題なく動く事ができる程度には回復していた。

「ふぅ…なんか回復が早くなってきた気がするな。もしかして慣れて来たのか?」

 何度か動けないような疲労を感じたことのあったナギは回数を重ねるごとに速くなる回復に不思議そうにしていた。
 その疑問にソルテは少しだけ言い難そうにしながらも心当たりを話す。

『それもあると思いますけど、主様は鍛冶神様の加護を持っているので鍛冶に関する事ならすべての事が強化されてるんだと思いますよ。あと嫌かもですけど、狡猾神様のも課ごと似た効果があるので……』

「あぁ…そう言えばそうだったな」

 話を聞いて自分が持っている加護の存在を思い出した。鍛冶神の加護は試練を突破したことで得られた報酬であるのでナギも嬉しさはあっても気にはしなかったが、もう一つの狡猾神…つまりロキのは厳密には加護ではないが効果自体は同じものだ。
 単純に相手がロキであると思うと素直に喜ぶことが出来ないのがナギの心情だった。

「はぁ……少し複雑だけど、今回は素直に喜んでい置くか」

『そうですね。本気の鍛冶の後の疲労はそう簡単に抜けませんから』

「だろうな。とりあえずこの話はここまでにしよう!まずは作った鉄の短剣を鑑定しよう。それである程度、今の俺が出来ることを計ることが出来るだろ」

 そう言ったナギはゆっくりと腰を上げて作業台の上に置いてある鉄の短剣を手に取った。
 初めて作った鉄を使用しての短剣は目立って変な場所はなかったが、やはり慣れている銅で作った物よりも少し歪んでいるように見えた。

「そこそこの出来かな?」

『店売りにはできないですけど、初めて作ったのなら上出来じゃないですか?』

 短剣を確認したナギは銅の短剣やインゴットの時の綺麗な表面などと比べて評価したが、ソルテは単純に『初めて作った物』としての評価を下した。ただ評価の仕方は違っても結局のところ満足のいく出来栄えではないと言う事は共通していた。

「まぁ、最初に作った物に外見気にしているような余裕ないしな。さっさと鑑定をすませて次を考えるとするか!」

『確かにその方がいいですね。早く次を作りたいです‼』

「なら鑑定するか」『鑑定』

 ソルテも同調ししてくれたこともあってナギは早速とばかりに鑑定を使用した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 鉄の短剣 品質 普 ランク 3
 
 耐久値 39/39 攻撃力 28

 効果:なし

 備考 上質な鉄のインゴットを使用して作られた短剣。しかし製作者の腕が足りないために性能が落ちてしまっている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「予想通りって感じだな…」

『そうですね。でも、インゴットは上質な物だと分かっただけよかったですね!』

「それは確かに…」

 概ね鑑定結果は予想通りだったナギは特に気にした様子もなかったが、そこに表示されていた鉱石の品質に関する表示だけは有益な情報だと2人は満足そうだった。

「なら問題は次も普通の短剣をもう一度作るとして、今度はもう少しやりやすいように工夫をしたいところだな」

『私も補助魔法の種類やタイミングを調整したいですね』

「一度目で感覚は大まかにはつかめた気がするし…もう休憩は十分だよな?」

『もちろんですよ!』

「それじゃ、やるぞ‼」

 確認を終えて気合を入れ直したナギとソルテはそう言うとすぐに窯の前へと腰を下ろす。
 最初の時に調整したままの温度を自分の感覚を信じてナギは細かに調整した。しばらく炎が揺らめき続けてようやく調整が完了すると、ソルテが仕訳けて置いたインゴットの中から一つを取って窯の中へと入れた。

「……」

 一度窯へとインゴットを入れると先ほどまでのたし気な空気は嘘のように消え、スイッチが切り替わったように驚異的なほどの集中力を見せた。
 もはや窯の中しか見ていないナギはじっくりと観察して頃合いを見て熱の入ったインゴットを取り出し、すでに構えていた鎚を全力で振るった。

 カン!カンッ‼キンッ!

 テンポよく金属を打つ音が響き渡った。先程の最初の時は手探りだったナギだが、今回はその経験からある程度の叩くポイントのようなものを掴んでいた。
 おかげで最初に比べれば格段にナギの腕の振りは軽いように見えた。

 そして同じくソルテも最初に比べてむやみに補助魔法を使用するのではなく、最初にナギ自身には疲労軽減を鎚ひは重量軽減の2つだけを使用した。目的としては最初の時の激しい体力の消耗などを考えて、序盤ではその体力の消耗を極力抑えるための選択をしたのだ。

 おかげで不思議に思えるほどに軽く腕が動きナギは変化にも慣れたのか気にする事なく鎚を振るった。
 それでも次第に冷めて来るのは変わる事は無いので窯の中へと戻して再度熱を入れる。ちょっとしたその時間に少し休息を取って、窯の中の鉄が赤く染まると取り出していつもと変わらない工程が続くのだ。

 ただ確実に初めてのころよりも飛び散る火花の量が増えていて、鳴り響く音も最初に比べればかなり澄んだ音になっていた。

「ふっ‼」

 そして工程が進めば形を本格的に短剣の形へと変えるためにナギは本気で力を入れて打ち付ける。
 鍛造した事で硬度がかなり上がっていて力を入れて叩く必要があったのだ。なのでソルテも補助魔法をナギへ筋力強化、持つ鎚へは効率強化の魔法を付与を切り替えた。
 おかげで最初の時は何十回と打ち付けないと目に見えた変化は無かったインゴットも、8~10回ほどで変化が見れるようになっていた。

 すでに約1時間もの時間が経っていたが最初の時に比べてナギとソルテの2人にはそこまでの疲労は見えなかった。それは最適化が進んで2人に無駄な動きが大きく減った事が原因であった。
 もっとも何ら悪影響はないのでナギやソルテも気にする事無く作業にだけ集中していた。

「……ふぅ~」

 程なくしてついに短剣の形になった鉄を前にナギは小さく息を吐き出した。
 でも、まだ研ぎ作業が残っているので集中を完全に切る訳ではなくひと段落したと言う安心感からだった。

 軽く深呼吸をしたことで落ち着いたナギは最後の仕上げに研ぎ作業に入った。
 刃を潰す事なく際立たせ、削りすぎてもろくしたりする事の無いように最大限に注意しながらゆっくりと確実に刃を作る。
 それも終われば煤や汚れを綺麗にふき取って用意していた持ち手を取り付ければ完成だ。

「よし、2つ目完成だ‼」

『終わりましたね~少しは楽になりましたけど、やっぱり疲れました…』

 完成した発言を聞いてソルテは安心からか、そのままナギの頭の上に寝そべった。
 それを少し鬱陶しくおもいながらもサポートしてもらっていただけにナギは仕方ない…と言うように苦笑いを浮かべるだけで流し、今回作った鉄の短剣を手に取って確認する。

 手に持った鉄の短剣は最初の一本目よりも歪みは目に見えては存在せず。鉄特有の鈍い輝きを放っていて刃は武器ならではの怪しい雰囲気を持っていた。
 ナギは角度を変えながら致命的な歪みがないかなど事細かに視覚・触覚の2つをフル活用して確認した。

「…うん、結構いい感じだな。少なくても最初のよりは確実にいい出来だろ」

『むしろそうでないと困りますよ。短い期間を使ってまで練習してるんですから…』

「ははは…それもそうだな。だったら今回のも鑑定して確認するかな」『鑑定』

 何処か本気で疲れている様子のソルテの声にナギは苦笑いを返して、でも言っている事は間違ってはいないと思っているようですぐに鑑定スキルを使用して成果を確認する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 鉄の短剣 品質 普 ランク 4
 
 耐久値 43/43 攻撃力 32

 効果:なし

 備考 上質な鉄のインゴットを使用して作られた短剣。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…とりあえず、普通に店売り程度の出来にはなったかな?」

『そうですね。不本意な説明も消えていますし、いい結果だと思いますよ』

 表示された鑑定結果はナギとしてはなんとも反応し辛いものだったが、最初の物に比べればマイナスになる説明が消えているのでソルテは大きく前進したと判断した。
 それを聞いてナギも備考の場所をよく確認して確かに…と小さく数度頷いた。

「そうだな。このままいけば、あと何回か練習すれば行けそうだ」

『…まだやるんですか?』

 まだ練習すると言う発言にソルテは嫌そうに顔を引きつらせて聞き返したが、それに対してナギは一切の躊躇なく答えた。

「あたりまえだろ。時間があるうちに練習はしておくべきだろ。明日から本格的に試作して、その集大成を最終日に作って終わらせる!これが一番効率的だろ」

『まぁ…そうなんですけど…』

 あまりにも自信満々に答えるナギに徐々に説得されてしまったソルテは最終的に受け入れてしまった。
 その後は適度に休息を取ったナギとソルテは再度の練習として鉄の短剣の製作へと挑むのだった。最終的に1日で5本ほど追加で鉄の短剣を作り、1本だけ品質が『良』が出来たあたりで後々インゴットが足りない可能性に気が付いて追加生産する事になって1日は過ぎて行った。
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