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第四章 鍛冶師の国

第二百十二話 鉄の指環〈後編〉

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「ふぅ~これで全部使い切ったかな…」

 そう言ってナギは額を拭う動作をする。AOでは別に汗を流す事はないのだが長時間鎚を振るったので、つい現実の感覚でやってしまっているのだ。
 ただそんなナギの目の前の作業台の上には8個の指環が並べられていた。
 全部が鉄製で少し歪んでいる物もあったが大半は綺麗な鉄特有の鈍い光を放っていた。

 これは今回の課題の練習のためにナギの作った物だ。一つ作って残りの素材がもったいないと他のも作ったのだが、一個一個にそれなりの時間がかかっているため想像以上の時間が経っていた。
 それに気が付いたナギは夕食のために途中で一度ログアウトして、今はその日の二回目のログイン中と言う事になる。

『それにしても短剣よりは楽だったとはいえ、少し作り過ぎましたかね?』

「まぁ…練習しておいてお悪い事は無いだろ。何より、指環のサイズを一番小さくしたから大量に作れただけだしな。毎回こんな量を作る訳でもないし気にしなくていいだろ」

 目の前に広がる指環の数にソルテは少しやり過ぎたかな?と悩んでいるようだったが、それに楽観的と言うかナギは別に悪い事はしていないので問題なし!と言った感じの態度で答えた。
 実際2人は悪い事はしていないので気にする必要はないのだが、練習なのに大量に作ったこの指輪の行き先は後々決めねばならない。

 だが今、最も考えるべきことは他にあった。

「それよりも指環の性能確認をしないとだな。これである程度の品質になってくれていればいいんだが…」『鑑定』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 鉄の指環 品質 普 ランク 3

 耐久値 26/26  防御力 5

 属性:なし

 備考 良質の鉄を使用して作られた指環。数度のミスによって品質が落ちている。
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 8個ある中から最初に鑑定したのはできの悪い物だったので結果は良くはなかった。
 ただナギに取っては想定内の事なので特に気にした様子もなく、素直に受け止めていた。

「これは急いで作りすぎたから仕方ないよなぁ」

『そうですね。予定があったのはわかりますけど、少し雑になってましたからね…』

「ははは…」

 少し責めるようなソルテのもの言いにナギとしても用事があったが雑に制作してしまったということ事に、少なからず罪悪感のような物を感じていたようで苦笑いしか出てこなかった。
 それでも使い道のないゴミにならなかった事は腕前やレベルと言う物が上がっている証拠でもあって、複雑ではあったがナギとソルテは最終的には小さく笑みを浮かべていた。

「まぁ、雑になったのは一個だけだしな。他のは安心して見られるし良いだろ!」

『それもそうですね。できれば全部集中して、丁寧にやって欲しかったです』

「もう本当、そこは流してくれ頼むから。今は目の前のやつ優先って事で‼」『鑑定』

 逃げるように早口にそう言ってナギはすぐに鑑定を使用した。一応言っておくと残りは雑に作ったのとは別で真剣に時間を掛けた物で、気軽に確認する事ができるので大して考えずに鑑定できたという理由もあった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 鉄の指環 品質 普 ランク 4
 
 耐久値 38/38  防御力 21

 属性:無

 備考 良質の鉄を使用して作られた指環。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 そして表示された鑑定結果は雑にやった物に比べれば格段にましな物だったが、目標とする品質とランクには後少し届いていない。他の6個の指環も数値に5~8の差はあっても大きな違いはなくてナギは難しい顔をしていた。

「これ以上の指環での工夫になると装飾とかになるかな。まだそっちは挑戦したことが多くないからな…」

 課題の内容的にも品質とランクを上げるのは絶対条件だが、それに使える可能性のあるスキルである細工を使用した回数が数えるほどしかないのでナギは不安そうにしていた。
 だからと言って急速にレベルを上げるような方法は知らないし、なによりナギの性分として方法があってもやらなかっただろう。

『細工もですけど、魔物の素材を加える以上は加工もし難くなるはずです。さすがに手の込んだ細工を施すような余裕はないと思いますよ?』

「あぁ…それもあったか。だとすると、簡単に均等な溝かひし形みたいな図形を掘るのが一番無難か?」

『むしろ慣れないうちに下手に凝った装飾なんて普通しませんけどね。主様はやりそうだから注意しただけです』

「…」

 あまりにも不意打ちに正直に言われてしまってナギは何とも言えない表情で顔を逸らした。思わず言われた事を考えた時に『確かに俺ならやるな』と自分で思ってしまったのだ。
 その反応が何よりも雄弁に自覚している事を証明しているのだがソルテも必要以上に話を広げるような事はしなかった。

 程なくして持ち直したナギは改めて冷静に現状の出来る事を踏まえて今後の予定を考える。

「ひとまず指環は思ったよりも簡単に作れることはわかった。あとは魔物の素材を追加した場合にどの程度作業時間が増えるかだな」

『銅の短剣の時を考えると結構な作業時間の増加になりそうですからね』

「そうなんだよな。練習できるのは後…17日程度だと考えると、使えるのは15日ってところか?」

『いない時間も考えるとその位ですかね。最後の2日は1日使って片方ずつ集中してやるつもりなんですよね?』

 一応念のためにソルテが真剣な表情で最終確認をする。
 それに対して信用無いのかな?と苦笑いを浮かべながらナギは大きく頷いて答えた。

「そう言う事だよ。課題に出すのは全力で時間を掛けて作りたいからな」

『そう言う事なら問題ないですね』

「…なんか最近ソルテの俺の扱いが雑になってないですか?」

『だって、戦闘や興味ある事以外が主様は適当な事が多いようですから。そこまでしっかり対応しなくてもいいかな…と思いもしますよ』

「あぁ…それを言われると…」

 自分でも他の人達からもさんざん言われて自覚していた欠点であっただけにナギは何かを言う事も出来ず、気まずそうに頬を掻いて視線を逸らす。

「まぁ別に問題がある訳でもないしいいか。とりあえず今日は指環の練習をするのは変わらないけど、次からは日ごとにインゴット・短剣・指環のローテーションで7日はやる。その次からは課題の練習で7日って感じだな」

『残りの日数を考えてもいい感じだと思います‼』

「よし、なら今日はとことんまで鉄の指環を作るとするか!」

『はい!』

 少し信用を失いかけてはいたが結局ソルテは自分の主としてナギの事を信用して慕っているのか素直に返事を返した。
 それに雑に扱われていた事を気にしていたナギも安心したように胸を撫で下ろして窯の前に座って準備に入る。
 準備と言ってもいつもやっている事なので特別な事は何もないのだが、やはり感覚的に指環を作る上での適正な温度があるように感じて調整をする。

 その後は熱の入った鉄を鎚で打って適度な所で半分に割った。ここまでは問題なく出来るが本番はこの後の細長く加工して行く工程だった。
 少し少しのズレで歪になったり細くなりす技たりしてしまうので慎重に太さ・長さを上手く調整しないといけないのだ。とはいってもナギも何度もやって慣れているからか、鎚を握った手の動きに迷いはなく程なくして鉄線は完成した。

 この後もいつものように指環の形へと整えて行った。
 結局その日のうちに追加で何とか15個の指環を作って学校の事もあってログアウトして眠るのだった。
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