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第四章 鍛冶師の国

第二百三十話 新レシピ《前編》

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 そして現実の時間でも1日も掛けてゴルゴタ皇国の首都周辺のフィールドを探索したナギは一度ログアウトした次の日、やることも終わらせて再度ログインすると始まりの街へと戻ってゴド爺さんの店を訪ねていた。

「おう、その表情見ると楽しめてるみたいだな」

「はい!新しい物ばかりで最高です‼」

「ガハハハッ!それは何よりだ‼」

 店に入るとちょうど店番していたゴド爺さんは初めての鍛冶師の国をナギが楽しめたことに安心したようでスッキリした表情で笑っていた。
 それか少しの間はナギのゴルゴタ皇国に行ってからの事を話していた。始めて行った鍛冶の国でどういうところを見て来たのかなどをナギの言葉から知って、ゴド爺さんも楽しそうに自分の時はどうだったかなどと話していた。

「にしても、まさかフィールドにまで出ているとは思わなかったぞ…」

「いや~どうしても興味が出たら我慢できなかったんですよね。でも鉱山までは行ってないですよ?装備を整えてからじゃないと危なそうだったんで」

「そうして正解だ。あのゴルゴタ皇国は元々鉱山だった場所にあった窪地を発展させて出来た国なんだが、おかげで周辺は鉱物が大量に有って鍛冶師の国として発展はした。代わりにそこに居た魔物が周囲に固まって生息するようになって、軒並み周辺の魔物は強く狡猾になっていったのさ」

「あぁ…なるほど」

 ゴルゴタ皇国の成り立ちを聞いたナギはフィールドであった癖の強い魔物達を思い出していた。
 最初に遭遇したストーン・モグラを筆頭にあのフィールドに出て来た魔物は姿を周囲の岩場に擬態して、ろくに姿を現す事無く魔法や遠隔スキルでの攻撃か奇襲を基本とした戦い方しかしなかった。
 もちろん他にも姿をしっかり現す魔物も居たのだが、そう言う魔物は体が岩や何かしらの鉱物で構成されていて単純に硬い。それだけに下手な物理攻撃はもちろん魔法攻撃も中には威力を限界まで上げて数発当てないと倒せない程だった。

 鉱山に入る前のただの岩場のフィールドに出る魔物だけでも倒すのにかなりの苦労を強いられたのだ。
 それだけにナギは今の話に納得できていた。

「ただ品質の高い鉱石が欲しければ鉱山に行くことに成る事だろう。ナギ坊達異邦人は死にはしないようだが、だからと言って死ぬこと前提で戦いに挑むような事はするなよ?」

 どこか無謀な戦いにも率先して突っ込んで行きそうなナギの危うさにゴド爺さんは鍛冶とは関係ない事では珍しく、真剣な表情で何処か威圧感を放ちながら忠告した。
 それを聞いたナギも先ほどまでの楽しい空気が嘘のように真剣に答えた。

「もちろんわかってます。確かに俺は戦う事も好きと言えば好きですけど、別に死にたいわけではないですからね」

「それならいい。で、話を戻すが装備はワシの作った物を使うのか?それとも自分で作った物を使うか?」

 一度忠告すれば満足したのか装備の話にへとゴド爺さんは話を移した。
 そして改めて聞かれたナギも悩むように腕を組んで唸り出した。

「うぅ~ん…少し悩んでいるんですよね。理想だけで言えば装備は全部自分で自作したいところなんですけど、まだそんなに安定していい品質の物を作れるような腕があるような気がしませんし…」

「いや、今のナギ坊の場合は腕前は純分にあると思う。ただ圧倒的に作っている物の種類が少なすぎることが伸び悩む原因だろ」

 自信なさそうに答えたナギに対してゴド爺さんは何となく以前から感じていた事を話し始めた。

「なによりあれだけの属性付与された装備品を作れれば鍛冶師としては独り立ちしても問題のない出来だった。自信が持てないのは作った種類の少なさが大きな理由だろう。普通の鍛冶師はもっと段階を踏みながら腕を磨いていくが、ナギ坊の場合はとにかく数をこなすことで一気に手順を端折っている部分が多いからな」

「そう言われてみると、確かに…」

 改めて自分に足りない事を指摘されてナギは納得した様子で頷き、おもむろにアイテムボックスから次々に紙の束を取り出した。
 この話の流れで急に何かを取り出し始めたことにゴド爺さんは驚いていたが、そのうちの一つを確認すると納得したように頷いて呆れたような笑みを浮かべた。

「先に言ったのはワシだが…よくもまぁ、何か言われる前にここまでそろえたな」

「いや~フィールドで集まった素材を売ったらそこそこのお金が出来たんで、つい衝動がしただけだったんですけどね」

 自分でも先走り過ぎたと思っているのか困ったような苦笑いを浮かべながらナギは頭を掻いていた。
 なにせ目の前に置かれる10以上の紙の束は新たな鍛冶のレシピ、つまりは武具の製作方法が書かれていた。先程もナギが言ったようにフィールドで手に入れた魔物の素材、そのうちのいくつかを冒険者ギルドで依頼が出ている物を提出して、他のいらないものは商業ギルドの方で売り払ったのだ。
 その結果は思っていた以上のお金が手に入ったナギは紹介状の1つに会ったレシピを販売しているところに向かって新たなレシピを手に入れていた。

「ふむ…なら一先ずは新しいレシピに挑戦してみるか?」

「はい!ここ数日は鎚を握ってないので、久々にやりたかったですから!」

「よし!だったら存分に楽しんで来い‼」

「もちろんです‼」

 快くゴド爺さんが言うとナギも楽しそうに答えて椅子から立ち上がった。
 今すぐにでもやりたいと言うのが分かりやすいくらいにじみ出ていてゴド爺さんは楽しそうに笑みを浮かべて小さく頷いた。するとご馳走を前に待たされていた犬のようにナギは駆け出して窯の前へと移動して今回挑戦する物をレシピを見て選び始めた。

「まずは難しくなさそうな物を…これでいいか『投擲ナイフ』良く投げるし」

 そして悩んだ結果ナギは自身が戦いでもよく使う投擲に使える『投擲ナイフ』を選んだ。
 ただレシピは大まかな加工方法は短剣や指はと大差はなく、一番大きな違いは成型段階での大きさや刃の作り方なんかだった
 おかげで初めての製作でのナギは特に気負うことなく挑む気持ちになれたのだ。

「さて、まず素材は鉄でいいとして他に素材を加えるのは慣れてからにした方がいいか」

『あたりまえです。初めて作る物で変に挑戦とかしないでください』

「ははは…ちゃんと分かっているよ。それよりも今回は結構小さいから成型中に割らないように注意が必要だな」

『そうですね。しっかりとした見極めが重要になってきます』

「…それじゃ、まずはインゴット…は前に作ったのが少し残ってるからいいとしよう。それよりも適切な大きさに等分するのが大変…めんどくさい」

 軽くソルテと会話しながらナギは必要な素材として取り出した鉄のインゴットを見て、投擲ナイフを作るのに適した量に等分する方法を考えていた。レシピの方にはだいたい三等分と書いてあるのだがインゴットに線が引いてあるはずもなく、目算で正しく割るのは大変だった。
 ただ何度も指環の時に半分にするのには慣れているので、同じ要領で頭の中で線を描いて適切だと思うところで一気に分けた。

「ふぅ…一先ずはこんなもんでいいか、後は窯に入れて指で挟みやすいように加工…」

 レシピに書かれていた注意する事を口ずさみながら窯に火を入れて集中力を高めていく。
 そして準備が出来たと判断した瞬間に等分していたインゴットの1つを中へと入れるのだった。

 
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