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大六章 死神戦

第二百六十二話 新スキル効果《前編》

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 始まりの街に戻ったナギは人目をできるだけ避けてゴド爺さんの店へと来ていた。

「おう!優勝者様よく来たな‼」

「やめてくださいよ…無駄に注目されて大変なんですよ?」

「ガハハハハハッ‼有名税ってやつだな~!」

 店の中では朝方という事もあってゴド爺さんが待ち構えていて、イベントの大会を見ていたのかナギを見ると速攻で揶揄うように笑っていた。
 それでも限度はわきまえているので本気で嫌がってしまう前に切り上げた。

「あぁ~笑った。それで今日は何しに来たんだ?」

「スキルが進化したんで試しに来たんですよ」

「お!ついにか~何に進化したんだ?」

 スキル進化と聞いてゴド爺さんも感慨深げにしていた。
 少しは自分の成長を喜んでもらえたようでナギもうれしい気分になって答えた。

「短剣術を中級短剣術と短刀術、そして鍛冶を鍛冶:特殊ってやつですね」

「短剣術の方は順当って言った感じだが『特殊』かぁ…」

「何かダメでしたか?」

 思っていた以上に微妙な反応をされてナギは不安そうにしていた。なにせ選んだ理由は面白そうだから!という完全に気分に任せたもので、もし選択を間違っていたらと思ってしまった。
 ただ確認されたゴド爺さんは少しも深刻そうではなく、むしろ面白そうに笑みを浮かべていた。

「いや、全然ダメじゃないぞ?むしろ面白い‼」

「面白いですか?」

「そうだ。特殊ってつく生産スキルは『固有スキル』とも言われるほどに希少なんだよ」

「固有スキル?」

「あぁなにせスキルの発言した職人の今までの経験やらが総合的に判断された効果になるんらしい。ワシの知り合いの薬師は『毒物の調合:補正極大』とか『状態異常効果:上昇・極』なんて効果が並んでいたって話だ」

「マジですか⁉」

 またまた予想外だったが今回はいい意味でナギは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
 新スキルを習得した時にろくに効果の確認などしていなかったので少し確認した方がよかったか?と思いもしたが、それ以上に今は速く新スキルを試したくなっていた。

「なら試してみたいんで作業場使ってみていいですか?」

「もちろん構わないが、効果確認し手からじゃなくていいのか?」

「えぇ…もうとにかく試したくて仕方がないのでやってみます。終わってから効果を確認します!」

「ま、まぁナギ坊が気にしないならいいか……」

 本来なら効果を確認してから作業した方が効率は格段にいいのだが、当事者であるナギが気にしていないのでゴド爺さんは少し引き気味に納得した。
 とにかく答えを貰えたのでナギは奥の作業場へと向かう事にした。

「それじゃ失礼します!」

「おう、好きに使え」

 そんなゴド爺さんの返事をちゃんと聞かずにナギはすでに作業場への扉の向こうへと消えていた。
 その背中を見たゴド爺さんは呆れたように苦笑いを浮かべながらも、どこか懐かしむような表情をしていた。

 作業場に来て借りている窯の前に座ったナギはテンションに任せて素材を取り出した。

「さて、少しはやりやすくなってるかな~!」

『本当に楽しそうですね~』

「おう!という事で協力よろしく‼」

『まぁ~私も興味ありますからいいですよ!』

 最初はうるさそうにしていたソルテも結局は好奇心には勝てなかった。
 なのでナギとソルテの2人には我慢なんて言う考えは残ってなくて、すぐに何を作るのか決めてインゴットを窯の中へと入れた。
 今回作ることにしたのは慣れていて変化を感じやすい鉄の短剣を選んだ。

 熱の入りは普段よりも少し早くなったように感じる程度で、打ってみても大きく何かが変わったようには感じなかった。それでも一度作業を開始したら中断することはナギの選択肢には存在しなかった。
 だから特に変化は感じなくてもナギは淡々と鎚を振るった。

「ふぅ……なにか違うか?」

『いえ、特に何も感じませんでした…』

「やっぱり効果を確認した方がよかったかな?」

 30分近く作業していたナギは少し時間を無駄にしたような気分になっていた。
 素直に効果の確認をしておけば楽ができたかな…程度ではあっても後悔はしていた。

「少し面倒だけど確認するか…いや、もうちょっと試してからにしよう!なんか負けた気がするしな‼」

『素直に確認しましょうよ…言っても無駄でしょうけど…』

「よく理解しているな!」

『はぁ…』

 こうなっては本当に無駄だという事をいやというほど理解しているソルテは諦めて手伝うのだった。
 ただ同じようにやっても変化があるとは思えないので少しは工程を変える必要はあった。なので次は魔物の素材を使用しての武器制作へと切り替えた。

 もともと専用装備を作る過程で魔物素材を大量に用意した余りが数は少ないが残っていたのを使用した。
 今回も熱の通りと打つ感触は大きな違いはなかった。

「さて、ここまでは変わらなかったけど…これからどうなるかだな」

 真剣な表情で事前に用意していたウルフの爪を使用した。
 そのまま使用すると金属と馴染むのにかなりの時間が必要となるのだが、打ち始めて数分でもう数回ほど繰り返せば作業が終わるところまで来ていた。
 これだけで新しいスキルの効果はなんとなく理解できたが、さすがにここで作業を中断できるわけなく最後までいっきに仕上げていった。

「うん、なんとなく効果わかったし後もう数回やったら鑑定するか」

『まだやるんですか』

「面白そうだからな‼」

『やっぱりですか…』

 その後は少しソルテも粘って素直に鑑定するように説得しては見たが、決めたことを人に言われた程度で買えるような性格をしていないナギは完全に無視して作業の準備を進めた。
 なんとなく予想のついていたソルテはそれ以上は何も言わずにおとなしく作業の手伝うことに徹した。
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