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大六章 死神戦

第二百六十三話 新スキル確認《後編》

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「ふぅ~効果の感覚はだいぶ掴んだかな!」

『それならよかったですね…』

 達成感に満ち溢れた様子のナギとは反対にソルテは疲れ切ったように生返事をしていた。
 そんな2人の前には5本の魔物素材を使用した短剣が無造作に置かれていた。

 これらは本来なら1本作るのに1時間弱は掛かるのだが、その最大の理由である魔物素材の馴染の悪さがスキルで緩和された結果…なんと1本の作成時間が40分近くまで短縮されたのだ。
 これだけ試してようやく満足したナギは椅子に深く腰を下ろした。

「よし、いい加減にスキルの鑑定してもう一回実践してみるか!」

『ようやくですね~』

「楽しいことは後にってことだな」

 疲れを滲ませるソルテの言葉にも普段通りの反応で楽しそうにナギは答え、開いたステータス画面からスキルの説明画面を確認していた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スキル【鍛冶:特殊】 Lv1《特殊:所持者の経験を踏まえた効果を持つ》
効果:通常の鍛冶スキルと同様に鍛冶作業中:体力補正・中:STR補正・強
特殊効果:魔物素材使用時、または属性付与を伴う鍛冶補正・強
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おぉ~!属性付与にも補正が付くのは嬉しいな‼」

 効果の詳細を確認したナギは更に楽しそうにいい笑顔を浮かべていた。
 そして視界を共有することで一緒に確認したソルテも少し驚いたように目を見開いていた。

『確かにこの効果は中級のスキルとしては破格ですね!なにより本来一番苦労するはずの属付与と魔物素材の加工が楽になるってことがすごいですね!』

「だよな!まずは今持ってる魔物の素材で試すとして、次に確認するべきなのは魔物のレベルによる作業時間の違いだな…」

『相変わらず細かく確認しますね…こういう時だけ』

「あたりまえだろ。素材の確保する時間と加工する時間、そのほかのスキルレベルを上げる時間とかやることは無数にあるんだからな。計画的に時間は使わないといけないんだよ」

『その割には寄り道とかで時間無駄にすること多くないですか?』

「それはそれで結果的に有意義ならいいんだよ」

『本当に自由ですね~』

 もはや溜息すらこぼさずソルテは諦めたようにそう言って静かにナギの頭の上に寝転んだ。
 手が少し目にかかって邪魔そうにしながらもナギも自分勝手な言い方をしている自覚があるようで、別に振り落としたりすることはなかった。

「とりあえず、もう少し試してみて今後どうやって行動するか決めるか」

『そうしてもらえると私の頭的にもありがたいです~』

「ははは!じゃ、始めるか」

『はい!』

 元気のいい返事を聞くと少し緩んでいた作業場の空気が一気に引き締まった。
 そして集中したナギは最初は先ほどまでと同じようにウルフの爪を使用して鍛冶を開始した。

 やることはいつも通りにインゴットを熱して叩いて、一定の水準を超えたと判断するとウルフの爪を加えて続けた。
 先ほども驚いた反応をしていた2人はやはり今回も同じ反応をした。
 なにせ普段ならこの工程一つに数十分近く時間が必要だったのに、今は明確に馴染むのが速かった。
 そこの事を認識できるとナギはより楽しそうに笑みを浮かべながら鎚を振るった。

「よし!やっぱり作業速度がかなり上がっているな‼」

『本当ですね~正直サポートするのも楽でした!』

「そっちにも何か違いとかあったのか?」

『いえ、単純に作業時間が減ると使用する魔法の数を減らせるんですよ。だから楽ってことです‼』

「なるほどな」

 効果確認後の制作を終えてナギとソルテは遠慮なく感想を言い合っていた。
 確認前の作業は手探りの部分も多く違いを探すことに集中していたが、今回は効果もわかっているので明確にどう違うのかという事だけに集中することができた。
 そのため2人はより違いをはっきりと感じられて新たな発見が多かったのだ。

「しかも腕に感じていた疲労感?みたいなのも比較的軽くなっているな」

『疲れないんじゃなかったんですか?』

「体力は問題なくても精神的な疲れからなんか感じることはあるんだよ」

『そんなものなんですね』

「他にも鎚がいつもより軽く感じたし、補助魔法は加工効率アップの方に切り替えてくれ」

『了解です!』

 そして効果によって楽になったことではない事への補助をするように話していた。こうすることでより作業の効率が更に上がるという判断だった。
 指示の意味をソルテも理解できているので元気に返事をして、次の時にはどんなタイミングでどの魔法を使うかを考えていた。

「次は粉末状にした物で試して、その次には他の魔物素材を試してみよう」

『そうですね同じ魔物の素材だけだと面白くないですしね‼』

「わかってるな!さすが職人だぜ‼」

 不思議なことに変なところで職人気質というべきか、道楽的とも言えるナギとソルテの2人は意気投合して次に使う魔物素材の種類を決めようと楽しそうに話していた。
 しかも今までの素材採取と武器を試すために魔物を大量に倒したナギのアイテムボックスには大量の素材で溢れていた。ただ専用武器を作る時にすべての素材を試しているので加工のしやすい順に試すことに決めたのだ。

「よし、それじゃ気合を入れて一気にやるか!」

『…一気にですか?』

「もちろん休憩は挟むから、そんなこの世の終わりみたいな顔すんな」

『あ、すみません』

「いや、今まで無茶していた自覚があるから誤解させても仕方ないとは思うしな。とりあえずは、手持ちの素材を全部試す!」

『はい!』

 先ほどまでは少し不安そうだったソルテもナギの言葉を受けて元気を取り戻し、今度こそ気を取り直して地獄のような量の作業へと挑むのだった。
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