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大六章 死神戦

第二百七十二話 新素材で試作《後編》

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「さて、時間を掛けるだけ無駄だし速く済ませるか」『鑑定』

 やることが決まれば考えるだけ時間の無駄なので素早く鑑定スキルを使用した。

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 黒の投羽 品質 良 ランク 4
 
 耐久値 25/25 攻撃力 30

 効果:《限定:隠蔽》

 備考:特殊な加工の末に生み出された漆黒の投擲専用ナイフ。色の効果もあるが夜になると不自然なほどに周囲に馴染み見破られ難くなる。変わりに使用すると回収が非常に困難となる。
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 表示された鑑定結果を確認してナギはなんとも言い難い表情を浮かべて黙ってしまった。
 そして視界を共有することで同じ結果を見ることのできたソルテも少し困ったように苦笑いを浮かべていた。

『う~ん…これは少し使い難い感じですかね?』

「そうだな。夜間や洞窟なんかの暗い場所なら強い武器となるのは間違いないんだが、明るい場所だと驚くほどはっきりと見える攻撃になるからな」

『黒いと明るいところだと逆に目立ちますからねぇ』

 効果のせいで使用できる状況が限定されてしまっていて使い難い物になっていた。
 ただ夜や洞窟などの暗い状況では『隠蔽』の効果もあってより発見し辛いこともあって使用するメリットは高いので一概に使えないと判断することはできないが、それでも使い辛い物は使い辛いのだ。

「でも、状況さえ整えば使えるな。問題は量産が可能かどうかと言ったところか…」

『特殊な加工って書いてありますけど』

「全く心当たりがない!」

『ですよね。私も欠片も思い当たりません』

 今回の事の一番ナギとソルテを悩ませていたのはまさにこの問題だった。
 なにせ使える武器であろうと使い捨てに近い投擲ナイフである以上は量産できないと意味がない。
 もちろん切り札と言う意味で持っておくのも悪くはないが、どうせなら大量に作って持っておいた方が何事も便利という話だ。
 しかし説明の『特殊な加工』という事に2人は欠片も心当たりがなく、もう一度作れるかどうか判断ができなかった。

 だからと言って諦めるというような選択肢は存在するはずもなかった。

「さて、もう一度作って確認するのが一番早いか」

『早いとは思いますけど、少し慎重に工程を確認しながらやった方がいいとは思います』

「それもそうだな。次で失敗した時にどこを変更するかの決め手にもなるしな」

『はい!』

「なら、それも踏まえてもう一度試作してみるか!」

 軽く話し合ってどうするのかを決めるとナギは追加で烏の爪を準備して、先ほど使用したインゴットの残り半分を窯の中へと入れた。
 熱がちゃんと入ったのを確認して方取り出して何度も鍛錬を繰り返した。
 ここまでの工程は普段通りで特殊なことはなく、純分にできたと判断して取り出した半分のインゴットの烏の爪を加えて再度鍛錬を繰り返した。

 何度も繰り返していくうちに素材は混ざり合って変化していき、先ほどはこの段階で黒く染まったのだ。
 しかし今回は何度叩く角度を変えても黒く染まることはなかった。さすがに下手に駄作を作る気もなかったナギにもなかったので、適度なところで成形へと移って一気に刃作りまで済ませてしまった。
 そして完成した投擲ナイフは通常の物より少し硬い程度の物でしかなかった。

「う~ん…これはどういう事だろうな。やり方としては変わっていないはずなんだけれど…」

『そうですね。でも変化しないってことは何か違うんだと思いますよ』

「それはわかっているんだけどな。問題は何が、どう違う事で変化が起きていないのかという事なんだよ」

 根本的な問題としては最初の変化した投擲ナイフは偶然の産物以外の何物で『どうすれば成功で、こうしたら失敗』というような明確な答えがわからないことにあった。そこがわからないと工夫のしようもないし今の工程の何を変えればいいのかが判断しようがないからだ。
 だからと言って何もしないで時間を掛けるのは無駄でしかないのは理解しているなのでナギもじっとはしていなかった。

「まずは素材の品質、後は作業中に込める鎚の魔力量を変えてみようか」

『他に変えられるようなものはないですしね』

「だから思いつく方法を端から順に試していくぞ!」

『大変そうですけど…今回は仕方ないですね。気合入れて頑張りますよ‼』

 考えて答えが出る問題ではないと判断したナギは思いつく限りの変化を試すことに決めて、その言葉にソルテも否定することなく受け入れて気合を入れた。
 もはや無策だろうが試行錯誤しか今回の問題の解決法は見つからないと確信していたからだ。
 それから数時間を掛けて窯の温度・鎚で打つ回数・材料の品質etc.考え着く限りの変化を試しながら無数の施策を続けた。

 中にはゴミにのような使えない物もできたが気にする時間がもったいなくて作業を続け、おかげで作った物の中には品質が希少まで言った一級品もあった。
 しかし最初のような変化は10回に1回しか発生せず、その時と同じ製法を試しても成功しないことでナギは一つの結論に至った。

「これは職業の特性からくる効果か」

『それ以外考えられないですね~』

「つまりは…」

『数こなさないとだめってことですね!』

「クソめんどい…けど、いい物が作れるならやるしかないか」

 正直実力で作れないことに残念に感じはしたが今のナギには早急に使える武器を準備する必要があるので、プレイ度やこだわりは捨てて職業特性に頼ることにしたのだった。
 それから現実時間での三日近くもの間ナギとソルテは鍛冶場に籠って新素材での施策を続けたのだった。
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