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第二章

4.「戸惑い」*俊輔

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「来てもらって悪いな、後で先輩のバイトしてる店に顔出すことになっててさ。どこ行く?」
「どこでも良い」
「なんか話だろ? どっか個室の飲み屋でも行くか」
「ああ」
「あそこらへん行ってみる?」

 凌馬が指さしたのは、すぐ目の前の飲み屋が入ってるビル。
 個室があると書いてあった店に入り、飲み物を注文しおえると、凌馬が身を乗り出してきた。

「一昨日大丈夫だったのかよ? 真奈ちゃん、平気だった?」
「――――……」
「あん? 何?」
「……つーか、てめえは何でちゃん付けであいつを呼んでんだよ」

 嫌そうな表情の訳をその言葉で知った凌馬は、苦笑いを浮かべて、それに応える。

「呼び捨てもおかしいだろが。何て呼べっての?」
「……ねえけど……」

 凌馬は、はは、と笑って。それから探るようにオレを見つめてくる。

「で? 一昨日の今日で会いに来るなんてよ。……なんだ?」
「……それより、お前らこそ、あの後平気だったのかよ?」

「ん? あぁ。一昨日はうまく引き上げられたからな。誰も引っ張られずに済んだぜ?」
「は。良かったな」

 言ったオレに、凌馬は、そんなことはどうでもいいと言う。

「こっちの事より、お前だろ。……真奈ちゃんは割と平気そうだったよな。平気じゃ無かったのはお前だろ?」
「――――……」

「あの後ひでえ事したんじゃねえの?」
「……してねえよ……別に」

 応えたオレに、凌馬は唇の片端をあげて、皮肉っぽく笑って見せる。

「本当か? 鬼畜な事してそうで少し心配してたトコへ電話だろ。余計心配になったって、仕方ねえと思わねえ?」
「別に……ずっと薬使って抱いてたのを、使わなかっただけだ」
「あ? ……ずっと? ……今までずっと薬使ってたのか?」

 非難めいた視線がまっすぐ遠慮なく向けられてくる。思わず視線を逸らした。

「……仕方ねえだろ」
「……お前なあ…… 止めろよな、あの子が大事なら」

 ものすごいため息を付かれて、オレは眉を顰めながら、凌馬に視線を戻した。

「……弱い薬だ。常用性も後遺症も無い。……使わないで暴れられたらそっちのが傷つける」
「何かすげえ間違ってる気ぃすんだけど……。一応、お前なりには大事にしてるっつーの?」
「……別にそういうんじゃねえよ」

 嫌そうに応えたオレを、しばらく無言で見守った後。

「……ふうん……なあ、俊輔」

 口調を変えて、凌馬は腕を組み、まっすぐにオレを覗き込んだ。

「……何でお前、あの子、好きなの?」

 その質問には、何だか一気に不機嫌になるオレ。

「は? ……誰が好きなんて言ったよ」

 その言葉に、凌馬の方まで怪訝そうな顔。

「んだ? ……好きじゃねえっつーの?」
「……しらねえよ」
「はあ?知らない?」
「……好きかどうかなんて、わかんねえ」
「――――……」

 一瞬、凌馬は言葉を失ったようで、しばらく無言で見つめ合うような感じ。

「――――……ほんとにお前は……」

 しょうがねえなあ、と言いながら、呆れたように笑う凌馬。

「好かれたいなら、それなりに優しくしてやんな」
「……んなこと、言ってねえだろ」

 そう答えたというのに。

「まあ、女じゃないから喜ぶかはわかんねえけど……優しくしてやるとか、プレゼントやるとか……真奈ちゃんて、誕生日いつなんだ?」
「……しらねえな」

 勝手に話を進める凌馬に、一言答えると。

「しらねえの?」
「ああ。……聞いてねえし」
「はあ~?」

 凌馬は心底呆れたような顔をしてオレを見やる。

「もしかして全然話とか、しねえの?」
「……ああ。何話せっつーの、あいつと。楽しく世間話しろっての?」
「……っっっとに、どーしようもねえな……お前は」
「……るせ」

「大事なら、ちゃんと大事にしてやれよ。始まりはどうであれ―――……どっちにしてもお前のとこに住んでんだろ? 時間はたっぷりあんじゃねえか」
「……何の時間だよ」

「……決まってんだろうが。 好きになって貰う努力をする時間」
「……馬鹿言ってんじゃねえよ、何でオレが」

「絶対ぇ、そうした方が良いと思うぜ。 後になって後悔したって、遅ぇと思うけどな」
「……しねえよ、後悔なんか」

「……ならいいけどな。 後で泣きついたって知らねえぜ?」
「誰が」

 凌馬の言い方に、ムッとして、言い返そうとした瞬間。 凌馬はその手をオレの目の前でヒラヒラ振った。

「はいはい。分かった分かった。とりあえず、オレは思う事は言ったから。肯定も否定も、しなくていいぜ」

 ニヤニヤ笑う凌馬に、オレはなんだかムカつきながら椅子の背もたれに背中を預けた。

「こんなやつ助けようとして、ナイフの前に飛び出すとか。変わってんなぁ、あの子」
「――――……」

「そういうとこ、好きなの?」
「黙れ、馬鹿」
「ははっ」

 また可笑しそうに笑う凌馬。 

「そういやお前、何で電話してきたんだ? オレも連絡しようと思ってたからちょうど良かったけどよ」
「……何となく、だな」

 授業が頭に入らなくて、なんとなくお前の顔が浮かんだんだけど……。どっちの理由も言いたくない感じなので、そう言った。

「……あ、そ」

 凌馬は何か言いたげにしながらも言わず、クスッと笑って、オレを見つめる。

 ほんと。
 ……なんだかな。

 何が話したかったんだか。
 自分でもよく分からない。




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