561 / 856
◇同居までのetc
「洗う?」*優月
しおりを挟む位置をかわって、今度はオレが玲央の頭を洗い始める。
「ねー玲央、不思議なんだけどさ」
「ん?」
「どうして赤ちゃんの時さ、ふさふさの子と、産毛しかない子がいるのかなあ」
「不思議なの、そこ?」
玲央はクスクス笑ってる。
「それ、オレに聞かれてもな……」
「だって、産まれた毛って書くからには、やっぱり赤ちゃんの時は産毛が正しいんじゃないのかなあ? どう思う?」
「じゃあオレのふさふさは正しくないのか?」
玲央が、ふ、と吹き出してる。
「ううん、そういうんじゃない」
クスクス笑ってしまいながら。
「でも玲央のふさふさはさ、もう産毛じゃないかなあって。あれは確実にもう髪の毛だよねぇ?」
「……そう、だな。おなかン中で髪のびてたんだろうな……」
玲央が可笑しそうに笑ってるので、オレもまた笑ってしまう。
「玲央が可愛すぎたっていうのが、今日の一番の感想だけどね」
そう言うと、玲央は「オレは優月が優月だったことに感動したけど」と言って、笑う。
「感動したの?」
ふふ、と笑んで聞くと、「した」と返ってくる。
感動かあ……。
「オレは、玲央が可愛すぎて、あんなにちっちゃい頃から、バンドの皆が一緒だったってことに、感動したかも……」
「まあでも、ずっと同じクラスじゃなかったし、離れてた時だってあるけどな」
「それはそうだよね。クラス変わると、会わなかったりするもんね」
「あのメンバーで長く一緒に居ることが多くなったのは、バンド、ちゃんとやり始めてからって気がするよ」
「そうなんだね。……いいよね、あんな可愛い頃から一緒でさ、今もバンドで歌ったり、皆で出来て」
「……いいなとかは思ったこと無かったな。ていうか、あんなちっちゃい頃の写真も、居たんだなーって感じだし。まあ居たのは知ってるけど、実感してなかった」
「……玲央、ほんとに見てなかったんだね」
「見てなかったよ」
なんか玲央らしくて笑っちゃう。
「玲央、かゆいとこある?」
「無いよ」
いつも通り少し笑いを含む声で、玲央が笑う。
「ちょっと下向いててね~?」
「ん」
下を向いた玲央の髪を流していく。
泡が全部流れて、玲央が顔を起こすと前髪を掻き上げて、オレを見上げてくる。
あんなに可愛かった子が、今は、もう、こんなにこんなに、カッコいいんだもんな。
あ、でも玲央は、小さい頃から顔整ってたな……。さすがだなぁと、じーと、見つめていると。
「んー……優月?」
「うん?」
「選んで?」
「うん……?」
じっと見つめられる。ドキドキ、するのはいつもどおり。
「オレに洗ってほしい? 自分で洗いたい?」
「――――……」
理解した瞬間、顔、熱くなる。
そんなの、言えるのはもう決まってる。
「あの……自分で……」
「まあ。そういうと思って聞いてみたけど……やっぱり洗っていい?」
クスクス笑いながら、玲央が立ち上がる。
「背中流してあげるから。座って」
「……う。ん」
ボディスポンジを泡立てて、優しく背中、現れる。
ドキドキドキドキ……。
……ていうか。
背中洗われてるだけでも、なんか……下手すると、ゾクゾクしそうで。
「……せ、背中だけでいいよ?……」
「――――……」
玲央を少し振り返って、思わず言ってしまう。
「遠慮しなくていいよ」
クスクス笑いながら玲央が言って、オレの手を取って、腕をする、と洗い始める。
「…………っ」
不意打ち。
……ていうか、何で腕、洗われた位で、体、ゾクッとするんだろう。
気のせい気のせい。いつも自分で洗ってることを、ただ玲央がしてくれてるだけで。ぞくぞくするのは、気のせい。大丈夫と言い聞かせつつ。
……ていうか、オレ、遠慮してる訳ではないんだけど……。うう。
どうしようーと、思っていると、後ろで玲央が、ふ、と笑う気配。
「……っ……??」
何で笑われてるの、と思って、ちょっと泣きそうになって、振り返ると。
「肩がプルプルしてるのが、可愛すぎて……」
クッと笑いながら、玲央がオレの肩をなぞる。
「ひゃ」
ぞく、とするのはもう、気のせいじゃない。
……なんかもう玲央に触られるの、全部、ゾクゾクする。
「オレ、まだ変なことしてないんだけどなぁ……」
後ろから聞こえる玲央の声は、なんだかもうすでに甘く聞こえ来て。
うぅー……。 ぎゅ、と瞳をつむってしまう。
……まだって……。
…………まだって言っちゃってますけど……。
ドキドキで、また、心臓が痛い……。
381
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の第二王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる