570 / 856
◇同居までのetc
「潜り込んでくる」*玲央
しおりを挟むリビングに戻ってきて電気をつけてすぐに「優月、水飲みな」と言うと。
「うん。ていうか、オレばっかりじゃなくて玲央も飲もうよ」
クスクス笑いながら優月が言う。
バスルームで散々喘がせて、のぼせさせたから、優月は余計。
……と思ったんだけど、また真っ赤になりそうだから、とりあえずやめといた。
冷蔵庫から水を出して、優月に渡したところで、テーブルに置いていた優月のスマホが震えた。
「……あ。蒼くんだ」
画面で確認して、スマホを手に取ると、少しの間いじってから。
「あ、玲央も何か来てるよ」
「ん」
隣に並んでたオレのスマホをカウンターの前に居たオレの所に持ってきた。
二人で並んでしばらく見てから。
「蒼くんが明日ごはん行こうって」
「ん……こっちもあいつらが明日、向こうのマンションで曲仕上げようだって。で、明後日、練習場所取ったから演奏してみるかって言ってる」
二人で見つめあって、ん、と頷き合う。
「じゃあ、そうしよっか。蒼くんに返事しとくね」
「そうだな」
「玲央も来てもいいぞって言ってたけど……」
「また今度って言っといて?」
「うん」
少しの間、お互い返事を打ってから、優月がふ、と笑った。
「蒼くん、車で送るから心配すんなって玲央に言っとけ、だって」
「ああ。了解」
クスクス玲央も笑う。
「あっちのマンションに送ってもらってこいよ。明日はあっちに泊まるかもだから」
「あ、うん。分かった。じゃあ洋服持ってった方がいいよね。あ。学校の準備も?」
「いいよ。オレが学校終わったら服とかは車で運んどく。水曜は朝こっち戻ってから学校行こ」
「うん」
やり取りを終えたスマホをカウンターに置いて、水を口にしてると、優月がふとオレを見上げた。
「そしたら、明日と明後日は別々だね。明後日、オレ智也達とご飯行っちゃうし」
「……そうだな」
まあ……お互いやることもあるし、そんなのは仕方ないんだけど。
そう思いながらも、少し寂しいけど、これは言うべきじゃねーかなとか、諸々頭に浮かんでは消えていく。
すると、優月がふ、とオレの腰に触れたと思ったら、なんだか、すりすりと柔らかい感じで、腕の中に潜り込んでくる。
……猫か、うさぎか、丸い感じの子犬とか。
なんだかよく分からないけど、そんなイメージが浮かんでくる。
愛しくて、潜り込んできた優月を、抱き締めると。
「……んー。……ごめんね、ちょっと寂しいかもしれない、オレ……」
「――――……」
「って……行くのとかはもちろん楽しいんだけどね。玲央が居ないのが。寂しいかなって」
「……ほんと、お前って……」
「……?」
ぎゅうう、と抱き締めてしまう。
あー。可愛い。
なんなの。これ。
……これ、可愛くない奴とか、この世に居んの?
居ないよな。みんな、きっと、可愛いって思うよな。
……こういう寂しいとか、言われんのがもともとは絶対好きじゃなかったオレが、こんなに可愛いと思うんだから、絶対誰もがそう思うはず。
自分でもよく分からない納得の仕方をしてしまう。
「……優月、他の奴にそれ言うなよ」
「――――……」
しばらく無言の後。
「え?」
と、優月がオレを見上げてくる。
「……玲央にしか思わないから言わない、よ?」
「ん」
不思議そうな表情が、また可愛いので。
きゅ、とまた腕の中に閉じ込める。
「それなら良い」
「……ふふ。何それ」
クスクス笑いながら、優月が、すり、とすり寄ってくる。
「……可愛いから、他の奴に言うなよってこと」
「…………ますます何それ」
優月が笑ってるのが、ほんと、可愛い。
382
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の第二王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる