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◇希生さんちへ
「可愛いもの」*優月
しおりを挟む軽くキスされてから、そっと離される。
もう一枚のドアを開けて中に入ると。
「うわ……ウサギ!」
「好き?」
「好き好き。嫌いな人いるのかな?」
「どうだろ?」
玲央はオレを見て、ぷ、と笑う。
「そう思うくらい、好き。可愛い」
「そっか」
小屋の中は、三メートル四方くらいかな。
自由にウサギが動いてる。
「何、この空間……可愛すぎる」
ゆっくり、近づいてみる。
慣れてるみたいで、逃げることはないみたい。
「撫でてもいい?」
「いいよ」
そーっと手を伸ばして、ナデナデしてみると、めちゃくちゃフワフワ。
なんて可愛いんだろう。
「優月」
「ん?」
はい、と四角く切られた人参を手渡される。
「食べるかな」
ほれ、と口の前に差し出してみると。
しゃくしゃく食べる。
「…………っ」
ナニコレ。可愛すぎる。
……胸がきゅんきゅんする。
「はー……かわいー……なにこれー……」
言いながら玲央を見上げると、ふ、と笑った玲央がオレの隣にしゃがんだ。
「オレはそう言ってる優月が可愛い」
「え」
まっすぐにそんなセリフを言われて、またこっちでも、きゅんとする。
……忙しいな、心臓。
内心うろたえながらも、ウサギがしゃりしゃりするのを見つめる。
玲央が不意に、クスクス笑い出した。
「オレお前に、ハムスターに似てるっていってるけど……ウサギも似てる。同類な感じするな?」
「……まあ。ふわふわのまぁるい感じ、だよね」
「そっくり」
「……オレ、こんなに可愛くないと思うんだけど」
不思議に思いながら、可愛いウサギを見つめていると、ちょうどニンジンを食べ終わると、緩いぴょんぴょんをしながら、ウサギが動いていってしまった。
「ていうか、動き方まで、めちゃくちゃ可愛い……」
「似てるよ」
「えっ似てないでしょ??」
「ふわふわな感じ」
オレは、はて、と玲央を見上げる。
「玲央の目には、オレは、ふわふわのフィルターがかかってるのかなあ」
「そうかも」
「オレの目には、なんか、きらきらってしたのが掛かってるけど」
ぷぷ、と笑いながら、そう言うと、玲央はちょっと首を傾げて、そうなの? と笑う。
「うん。そう。いつもキラキラして見える」
「……良く分かんないけど」
「オレもふわふわ良く分かんないけど」
「それは皆が分かってくれると思うけどな」
「ええ……そう??」
ふふ、と笑い合いながら、もこもこぴょこぴょこ動いてるウサギたちを見ながら歩く。
「なんでこんなにウサギ居るの?」
「……じいちゃんが好きだから」
「そうなの? なんかイメージが……」
どっちかというと、久先生の方がウサギ、似合う。
希生さんに似合う動物は……うーんと……。
「希生さんは、ドーベルマンとかなんか、カッコいい動物って気がする」
そう言うと、玲央は、ああ、と笑う。
「分からなくはない。雰囲気だよな」
「玲央も、カッコいい犬、似合う」
あれ、でも。なんかそういえば。
「あれ。ポメラニアン飼ってたって、言ってたっけ?」
「ああ、覚えてた? ん、そう。じーちゃん、ポメ飼ってた」
ポメかぁ……。
「希生さん、可愛いもの、好きなんだね」
なんかシュッとしてて、見た感じではそんな雰囲気はないけど。
ふわふわしたものが好きなんだ。
ちょっと意外だけど、なんか、好みが可愛い。
「ああ、そうだな」
玲央がクスクス笑いながら、ぷに、とオレのほっぺをつまんでくる。
「だから優月のことも気に入るよな」
「だからっていうのは、変な気が……」
ふ、と苦笑してしまうけど。
玲央も面白そうに笑いながら、だからって気がするんだよなーと、しみじみ言う。
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