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第二章
10.
しおりを挟む「……ただいまー」
悠斗が心春と母親に会った後、二人でしばらく過ごしてから、帰って来た。
「あ、伊織、お帰りー」
父さんが顔を出してくる。
「今朝すごく頑張って掃除したんだって?」
「……まあ」
「由紀さん達が褒めてたよ。あ、じいちゃんもね」
「ん……」
頷きながら。なんだか、ため息が零れる。玄関に腰を下ろしたまま、やる気無く、スニーカーの紐を解く。
動かないし、返事も適当なオレが気になるのか、父さんが歩いて近づいてきた。
「なんか元気ない?」
「――――……んー。まあ、色々考える事があって」
「悩み事?」
「んー……」
悩み事って言っても。何だかな。
何とも言えない、この気持ち。何の解決策も無いのも分かっているし。父さんに言う気もしない。
「なあ――――……父さん」
「うん?」
「地縛霊みたいなのを……移動させることって、出来んの?」
「うーん……霊によるかな。霊と能力者の波長みたいなのもあるし。昔、地縛霊みたいにそこにしか居られない霊が、父さんの側に居る時だけ、別の場所に移動できた事があったけど」
「可能なんだ」
「……でもやっぱりそれは特殊かな……。ある場所に居るって事は、その場所に強く思いがあるって事だから。普通は動けない事が多いし。父さんも別に、動かそうとした訳じゃなかったんだよ。勝手についてきた」
苦笑いの父さん。
「何の話だ?」
後ろからじいちゃんが現れた。
「大した事じゃないよ。ありがと、父さん。腹減った。昼は?」
オレは靴を抜いで立ち上がった。
「もうすぐ出来るよー」
「サンキュー」
そんな会話でじいちゃんの側を通り過ぎながら洗面所。手を洗いながら考える。
じいちゃんにこんな話聞かれたら、地縛霊みたいのを動かすとか、絶対止められるに決まってるし。
別に。……絶対、しようと思ってる訳じゃ、ねえし。ちらっと少し、考えただけだし。
台所に行くともう出来上がってて、配膳を頼まれる。
じいちゃんはもう座ってたから、目の前に並べていくと。
「伊織、明日は高校初日だろ」
「ん、そー」
「……また先輩に目をつけられて喧嘩なんかするなよ」
「オレからしてるんじゃねえし。しかも、オレが本気でやったら死んじまうから、もうほんと、避ける時に触る位しかしてねえよ」
「却下。お前は手を触れてはならん」
「黙って、殴られろっつーの?」
「わしから逃げる時の逃げ足の速さは何のためにあるんじゃ。逃げろ」
「はー?? んな恥ずかしい真似……」
「恥ずかしいのは、何度も学校に呼び出される、清士郎じゃ!」
オレに続けて皿を運んできた父さんは、ぷ、と笑ってる。
「伊織が悪いんじゃないし。先生方も分かってはいそうだったよ。伊織君は絡まれてるだけなんだけどってよく言ってたし」
「絡まれてだろうが、喧嘩して先輩に勝って、敵知らずなんて噂がついて、中学では、もはや番長のような扱いだったろうが。恥ずかしいから、高校では大人しくしとけ」
「つーか、この茶髪がいけないんじゃねえの。染めてもないのにさ。……いっそ真っ黒に染めるか……」
思っても無い事を言うと。
隣で父さんが、珍しくめちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。
「……それは母さんと同じ綺麗な髪だから。そのままでいて欲しいような……あ、でも伊織が黒くした方がいいって言うなら……」
最後の方は、父さんが寂しそうに言う。まあ、案の定だけど。
オレは、もう何度かしてるこのやり取りに、苦笑いが浮かんでしまう。
「……ていうか冗談。染める気ねえよ」
オレが言うと同時に、じいちゃんの声。
「お前は髪より、その耳飾りじゃ!! みっともないからやめんか!」
「耳飾りって……すげーカッコ悪いんだけど。ピアスって言えよ。あの高校、成績重視で、割と自由なんだよ。ピアス、OKなんだって。いーじゃん、似合うだろ」
「だからそういうのが目立つんだろうが!」
「いいよもう。目立とうがどうだろうが……人目なんか気にしてらんねえし」
「気にせんから、絡まれるんだと思わんのか」
「あーもう。 絡む奴らが悪くねえ? 大体中学ん時なんか、オレがモテるからって、男の先輩にやっかまれてたっつーか」
「まあ、そこはじいちゃんに似てるのかもしれんが」
うんうん、と笑ってるじいちゃんに、は?と父さんを見る。
「じいちゃんモテたの? うそだろ?」
さあ……?と笑った父さんと一緒に、その後、延々、ほんとか分からないモテ伝説を聞かされながらの昼食になった。
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※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
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