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第四話

俺、友。

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 彼女の覇気に呑まれたか、あたり一帯はシンっと静まり返る。
 流石は魔王、こういった状況はお手の物ってわけか。
 皆の視線と意識を集め、「クク」と笑うと、彼女は演説を始めた。

「我は二代目魔王、ツィオーネ・デモンズである。初めましてだな、人間よ」

 高圧的な声……だけど、殺気は感じられない。
 勇者を抑えながらだというのに、魔族の殺戮本能を見事に抑え込んでいる。
 俺が、人間がいるからじゃない。
 自分の国の民が、自分以上に気張っている姿を見て、彼女の中の『王』がそうさせているのだろう。

「我を捕まえ、処刑しようとするとはいい度胸だ、と褒めてやる。これは魔族に対する宣戦布告と判断し、ここにいる人間全員は消し炭になってもらう」

 人間達はその言葉に震えあがった。
 あ、ツィオーネの奴、にやにや笑ってやがる。悪い癖が出てるぞ、そんな気は微塵もないくせに。
 ほら「やっぱり俺たちは死んじまうんだ」「神様ぁ……」とか悲痛の叫びに溢れてるじゃねーか。
 殺戮衝動がなくても、性格悪いなコイツ……。

「クク……だ、が。我としても、前大戦で手を組んだ人間と争うのは、心苦しい」

 ……なるほど、そう繋げるわけか。ここで、真実を話す、と。

「何? 前大戦で手を組んだ……? どういうことだ?」
「人間と魔族が協力したことなんて、ない筈だけど」
「戦っていた相手は魔族なんだぞ? 協力なんて、するわけない。魔王を倒したのは、勇者さ」
「──それについては、私が説明いたしましょう!!!」

 民衆のざわめきを引き裂き、フードを取ったカタリナが立ち上がる。

「あ、あれは勇者パーティーの大聖女、カタリナ・カルロッテ様!」
「どうして魔族の下へ……まさか、洗脳されて」
「大聖女様が、勇者様と対峙するなんて、ありえない」

 魔界での様子を見ていると忘れてしまいそうになるが、カタリナは人間界一の聖職者。
 皆が憧れ、尊敬し、敬う存在なのだ。なのだよ。本当に。

「聞いてください。私は洗脳なんてされていません。今、世界の平和が壊されようとしているのです」
「まさか……大聖女様が魔王を倒して──」
「いいえ、違います。彼女達、ここにいる魔族のみなさんは我々勇者パーティーが、前魔王討伐の際、共に戦ってくれた仲間なのです! 今まで真実を伏せていたことを、ここに謝罪し真実を語らせていただきたいと思います」

 カタリナはゆっくり、俺たちの魔王討伐の真実を語り始めた。
 自分達だけでは魔王討伐は叶わず、もともと当時の魔王に反発していた革命派と手を組み、協力して倒したこと。
 そして、ツィオーネを魔王に、魔族は新たに国を結成し、人間との和平を目指すようになったと。
 今まで真実を隠していたのは、まだ魔族の中でも大戦のころの記憶を忘れられない反発派が存在し、魔族の内戦が収まるのを待っていたからだと。

「……わかりましたか、みなさん。彼ら、彼女らは敵ではありません。我々と共に、真の平和を目指す仲間なのです」

 民衆は、罵声を浴びせることもなく、彼女の話しを集中して聞いた。
 俺には絶対にできない芸当を、カタリナはやってのける。
 当然、「そんな……信じられない」「魔族が和平だなんて、嘘だ」という声は多い。
 けど「アイツら、攻撃してこないぞ」「魔族も一枚岩じゃないのか」「真の……平和」なんて声もちらほらと聞こえ始めた。

「ツィオーネ」
「うむ、我々にとっては大きな一歩、だな。よし──人間諸君よ、今回の件に関し、魔族から攻撃を仕掛けることは決してない。先ほどこの聖女が言っていた、反発派の者が人間界に来たとしても、我々が全力で食い止めることを約束する。真の平和、人間と魔族が共存できる未来をめざそうではないか!!」

 そして、ツィオーネは地上に降り、民衆に向かって、仲間の元へ向かって歩く。
 俺とカタリナは、彼女の後に続いた。
 まだ民衆は混乱している様子だが、誰も俺たちを攻撃してこようとはしていない。
 人間も、魔族も、少し文化や見た目、生態が違うだけで、平和を願う気持ちは変わらない。少しでもそう思ってもらえたみたいだ。
 ……けれど、未だに俺たちに憎悪を向ける者が一人だけいた。

「リベール……貴様ぁ、覚えていろ……ただでは、ただでは済まさんぞ!!」

 思惑を崩され、その場に膝を折る弟。戦いの中でしか生を実感できない孤独な勇者。
 いつか、もしかしたら、いや、確実に俺たちの前に立ちふさがるだろう。
 でも、しばらくの間は安心だ。
 勇者の力は人の為に。
 ルイは、民の、人々の信頼があってこそ力を発揮することができる。
 民が半信半疑になっている今、勇者の力も半分になっていることだろう。
 しかし──

「ツィオーネ、いいのか? ルイの奴を放っておいても」

 俺が決めれる事ではない。
 和平へ進むためには、間違いなく障害となる存在であり、脅威。
 情け、の言葉だけで済む問題ではないのだから。

「もし、お前が邪魔だというのなら、俺はここでアイツを……」

 そこまで口にしたところで、彼女の人差し指がそっと口元へ当てられた。

「あまり乱暴な言葉を使うなよ、リベール。いいか? 今回は王と王、二つの国の戦いだ。妾は民の意思に従うまで……この戦いで、誰が一番苦しんだか、わかるだろう?」
「……」
「お前と、そして友と、決めるがいい」
「……いいのか?」
「なぁに、あの程度の男、例え生かしておいても最早妾の敵ではないさ。信頼できる仲間と民がいれば、なんだって乗り越えれる」
「ツィオーネ……」
「さ、お迎えだぞ。応えてやれ」
『ツィオーネ様!! リベール様!!』

 ツィオーネがそういうと、俺たちは魔族の仲間達にもみくちゃにされた。
 皆、笑顔で俺たちを迎え入れ、共に無事を祝いあう。
 クルアーンは真っ先にツィオーネを抱きしめ、涙を流した。
 一方で、俺の帰還を誰よりも感極まった様子で迎え入れてくれたのは、魔族の友だった。

「リベール……生きているんだな。本当に、本当によかった」

 太い腕で抱きしめられ、背骨が折れるんじゃないかと思った。
 けど、この痛みが、俺を心配してくれていた証明のように感じ、嫌な感じはしない。

「ぅぐぐ……グレル、ありがとう。お前のお陰で助かった……本当に感謝している」
「へへ、友達なんだから当然だろ?」
「友達、か……けど、俺はお前の親父さんを瀕死にまで追い込み、卑怯な手段で魔王を誘拐した男の兄貴なんだ。それでも、友達と言ってくれるのか?」

 グレルは俺の肩を掴むと、少ししゃがみ視線を合わせる。
 涙を拭い、真剣な表情をすると、息を整えゆっくりと自らの気持ちを伝えてきた。

「正直、あのルイとか言う男を許すことはできない。けれど、奴とお前は別だ……例え、弟が何をしようと、兄を憎むなんてこと決してない。魔族一同、同じ気持ちだ」
「……なら、ルイはこの場で──」
「殺したくない、と言えば嘘になる。だけどな……もしここで、恨みに身を任せ、奴を倒すと俺の夢も、皆の夢も壊しちまうんだ。それは、もっと、もっと嫌だ」
「グレル……」
「まだ、この気持ちに答えを見つけることはできない。なら、親父も生きてる、魔王様もリベールも無事に帰ってきた。今は、それじゃあ……ダメ、か?」

 戦いから生まれる戦い。その輪廻を断ち切ろうと、グレルは葛藤していた。
 だったら俺は、こいつの気持ちを尊重したいと思う。

「わかった。なら俺は、二度と同じ惨劇が起きないよう今まで以上に頑張る。絶対に、皆を不幸な目に合わせないよう、死力を尽くす。一緒に終わらせよう、憎しみの連鎖を」
「あぁ、これからもよろしく頼む、リベール」

 俺とグレルは硬く握手をし、そしてまた再開を喜びあった。
 その様子を横目にしていたツィオーネは「うむ」と小さく頷くと、声高らかに宣言した。

「これからも道は険しい。幾多もの苦難を乗り越える必要があるだろう。だが、決して妾は諦めぬ。真の平和を、人間との和平を目指す。皆、ついてきてくれるか?」
『おぉー!!』
「うむ、では魔界へ帰り修復作業の続きといこう。面倒事は山ほどのこっておるぞ! 我々の戦いは、これからだ!」

 ──こうして、長い戦いを終えた俺たちは魔界へと帰っていった。
 まだ、和平と呼ぶには程遠い。けど、確実に一歩すすんだ。
 ツィオーネの言うとおり、まだまだ問題はあって、苦しいことも、つらいこともあるだろう。
 けど、皆となら乗り越えられる。その確信が、俺にはあった。

『チンポで寝盗る勇者パーティ~素行の悪さで追放された俺は、魔族と協力し叛逆する~』完。





 ──じゃなくて!!

 俺にはまだ、いッッッち番大事な、絶対に答えなくてはならない事が残っていた。

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