記憶喪失から始まる青春 〜目が覚めたらクセが強い女の子たちに絡まれ始めた件〜

Taike

文字の大きさ
11 / 22
1年生編

アイツと私

しおりを挟む
-side  仁科唯-

 11月8日、私には嬉しいことと悲しいことが同時に起こった。

 嬉しいこととは田島がついに学校に来たこと。記憶喪失になったと聞いた時は正直かなり落ち込んだけど今日会ってみると人格は全然変わっていないみたいで嬉しかったし安心した。

 悲しいこととは田島が駅伝部を辞めてしまうこと。私と田島亮と新島翔は天明高校に駅伝の特待生として入学した。そして3人とも勉強が全然できない。そんな私たちは『特待生おバカ3人組』として入学当初から仲良くしていた。3人で苦しい部活の練習を励ましあって乗り越えたり、試合後に帰り道の途中で買い食いしながらバカな話をしたりしていた。

 そんな、取るに足らないけどかけがえのなかった日常を3人で過ごすことができなくなるのがとても悲しかった。

 それに田島とは同じクラスではあるけど部活で会えなくなってしまったら話す時間が確実に減ってしまう。それは嫌だ。

 実は私は新島に対しては仲のいい友達として接しているけど田島のことは異性として少しだけ意識している。入学当初は2人ともただの友達だと思っていたんだけどね。

 私が田島のことを友達ではなく男の子だと思い始めたのは夏休み最終日に起きたとある出来事がきっかけだ。


------ーーー-----------------

 夏休み最終日の8月31日、私はいつも通り駅伝の練習をしていた。そしていつも通り女子の先輩たちの声が聞こえてくる。

「1年のくせにちょっと足が速いからって調子にのっちゃって」
 
「走ってる私かわいいとか思ってるんじゃないの?」

「1年のくせにレギュラー入るとか監督に媚売ったんじゃないの?」

 そう、この日はいつも通り先輩たちにコソコソと悪口を言われていた。女子ってやっぱり周りに気づかれないようにイジメをするものなのよ。 

 そして練習を終えると私はいつも通り誰も居ない体育館裏に行く。

「うっ...ぐすっ...あんなこと言わなくてもいいじゃないっ!」

 私は練習が終わると、いつも誰にも見られない体育館裏で1人で体育座りをして泣いていた。周りの人は気づいてくれないけれど私は結構傷つきやすい性格なの。

 でも傷ついて泣いているこんな私の姿を誰にも見せたくなかった。その理由は私は昔から『明るい性格で人気者の仁科唯』という仮面を被ってきたから。私は仮面を外すのが怖い。きっとこの仮面を外して素顔の私を見せたら皆離れていってしまう。だって皆は人気者の私を好いていてくれるのだから。

 そういうわけで私は臆病で泣き虫という本性を人に見せるわけにはいかなかった。

 
 でもその日、私は初めて他人に本性を見せることになる。

「あー、漏れる漏れる。ここなら立ちションしていいだろ。ってうわ!人居た!」

「え? 田島? なんでこんなとこに...」

「なんだ、仁科か。...お前泣いてるのか?」

「あ! いや! これはその...」
 
 うわ、田島に見つかっちゃった! どうしよう...

 私が動揺していると田島が隣に座ってきた。

「まあ何があったか話してみろよ。力になれるかは分からないけど話くらいなら聞いてやれる」
 
 田島は私から目線をそらしてそう言った。もしかして私の泣き顔を見ないようにしてくれてるのかな。

「わかった。話すよ。でも今から話すこと誰にも言わないでよね?」

見られてしまったものはしょうがない。正直に話そう。

「オーケー、約束は守るよ」

 そして私は女子の先輩たちから入学以来四ヶ月に渡って陰湿なイジメを受けていることを打ち明けた。

「ひでえ話だな...」

「で、でももう慣れたから」

「嘘つくなよ。泣いてたじゃんか」

「それは...」

「でも今までよく耐えたな。1人で4ヶ月も抱え込んで辛かったな。お前はよくがんばったよ。気づいてやれなくてごめんな」

「うっ...田島ぁ...ぐすっ」

「え? 俺なんかお前泣かせちゃうようなこと言った!?」

 私は今までずっと誰かに慰めてほしかった。頑張ってる私を褒めてもらいたかった。でも4ヶ月間そんなことなんて無かった。だから田島の優しい言葉が嬉しくて泣いてしまった。

「じ、じゃあ泣かせた責任とって一つアドバイスをしてやる」

「アドバイス...?」

「そんな先輩たちのことなんて気にするな。あの人達はお前の才能に嫉妬しているだけだ。練習を真面目に頑張っているお前だからこそ才能を発揮できているということに気づきもせずにな。お前より練習を頑張ってない人達がお前の才能を妬む資格なんて無いはずなんだけどな」

 田島は珍しく怒ったような口調で話している。

「だからまあお前は先輩たちにこう言ってやればいい」

 そう言うと田島は私と目線を合わせた。

「私の才能に嫉妬している暇があったらもっと練習したらどうですか? ってな!」
 
「ふふ、面白いわね。言ってやろうじゃない」

「おう、言ってやれ」 

 そして私たちはなんだかおかしくなって一緒に笑った。田島のおかげでとても心が軽くなったような感じがする。

 笑いあった後田島はさらに言葉を続けた。

「まあお前はもっと堂々としていいよ。少なくとも俺はお前が頑張ってること知ってるからな」

 思わずドキッとしてしまった。田島、そういうのって一般的な女子からすると殺し文句なのよ? 軽い気持ちで言っちゃダメよ?

 この出来事を通して私の中で田島が『仲の良い友達』から『少し気になる異性』に変わった。普段はバカやって皆を笑わせているコイツがこんなに真剣に私と向き合ってくれるなんて思いもしなかったからだ。

「じゃあまた明日学校で」

「うん、また明日」

 そして私たちは明日9月1日、つまり始業式の日に会えるということを疑わずにそれぞれ帰路へと着いた。



 
 しかし翌日田島が事故にあって記憶喪失になり、私たちはそれから二ヶ月間会うことはなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー-----


 私は記憶を失った田島に1つ嘘をついた。記憶喪失以前の田島の役目は私の愚痴を聞くことだったと入院中にアイツに吹き込んだのだ。

 こんなの完全に嘘だ。アイツに愚痴、というか弱音を吐いたのなんて夏休み最終日のあの日だけだ。

 私が嘘をついた理由。それは田島が心の拠り所になってしまったから。仮面の裏の素顔を知っているのは田島だけだ。アイツは記憶を失ってあの日のことを忘れてしまったのかもしれない。それでも私が素顔を見せた相手は田島だけという事実は変わらない。




ーああ、そうか。やっと気づいた。私が本当の私を見せていいと思える相手は田島しかいないんだ。
 

 田島のことは異性として意識するようにはなったけどこんなのものは好意じゃないでしょうね。私はただアイツに依存してるだけだもの。

 一方的に相手にすがりたいという感情は好意じゃないと思う。相手のことを想い、相手に想われたいという気持ちになって初めてそれを好意と呼ぶんだと思う。今の私は田島に想われたいわけじゃない。ただアイツに仮面を外した私の話を聞いてほしいだけなんだ。

 でも困ったな。アイツが駅伝部に来なくなったら2人きりで話す機会なんて無いじゃない。

 あ、そうだ。良いことを思いついた。これなら2人きりになれるわ。うふふ。

 
 ある考えを思いついた私は明日を楽しみにして眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...