俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

文字の大きさ
315 / 328

第313話 こんな商売の因果

しおりを挟む
 脇腹にナイフがめり込んでいき、掌で鉤爪を作って男に目潰しを放つ。
 男はあっさりとバックステップで躱し、その間で銃を引き抜き三連射を放つ。
 夜の街に銃声が轟き、男の体がコマのようにくるくる回って地面倒れる。
 止めと頭部に狙いを定めた銃でさっと頭部をガードすれば、金属を弾く堅い音が響く。
 弾かれたナイフが石畳の歩道に落ちて跳ねていく。
 危なかった。
 一瞬の攻防。刹那の判断ミスで俺は地面に転がる肉袋になっていただろう。
「二手を費やして仕留められなかった獲物は久しぶりだ」
 男はゆっくりとそれでいて隙無く地面から起き上がってくる。その体には銃弾が当たった様子は無い。
 銃口から射線を読んで躱しきる恐るべき体術。
 魔とは違う。磨き抜かれた技から放たれる殺意に体が震えてくる。
「平時に鎖帷子を着込み、銃を常に携帯し、躊躇うこと無く引き金を引ける。
 お前普通の刑事じゃ無いな。寧ろ俺達側に近い」
 鉄より固い特殊炭素鋼の鎖帷子が突き破られナイフの先端が腹にめり込んだ。生半端な腕の持ち主じゃ無いな。反撃が後半秒遅かったらそのままナイフを内臓までめり込まされていた。
 ナイフの先端に毒が塗ってあったら早めの処置をする必要があるが、今のところじわじわとシャツを赤く染めズキズキと痛むのみで毒による倦怠や目眩は無い。
 止血をしたいがそんな隙は与えてくれないだろうな。
 街灯の下暗闇に慣れてきた目で男を見れば、男は総髪、少し頬が瘦けた顔をした細身の男。あの動きから推察するに体は鍛え抜かれ無駄を削ぎ落としたボクサーのよう体をしての細身なのだろう。
 幾ら夜道とはいえ、こんな男を前にして俺は警戒をしなかったのか。スーツを纏い一般人に紛れ込む能力も一級の暗殺者。
 なぜ俺の命を狙う?
 こんな仕事をしている報いが来たのと言われれば、まさしくその通りとしか言いようがないが、それで受け入れられるほど達観もしていない。
「組織の者か。俺を殺ったところで頭が代わるだけだぞ。それとも警察組織そのものを潰せるつもりか?」
 取り敢えずの釜賭で、直近で思い当たることを言ってみる。当たれば儲けものだ。
「見せしめは効果的だ。
 誰もが強いわけじゃ無い。
 誰もが正義感があるわけじゃ無い。
 2~3人も無残に晒せば組織は自然とアンタッチャブルになる」
 思いの外男は饒舌に答えてくれた。
 まあ見せしめと言っていたから、隠す気はあまりなかったのだろうが発想がもう外国のマフィアと同じだな。
 嘘から出た誠じゃ無いが、適当にでっち上げた誘拐組織が本当にあったというのか。そして見事に虎の尾を踏んでしまったわけだが。
 だが具体的に追っていたわけで無く極秘捜査だ、普通に露見したとは思えない。
 まあ確かにマスコミにリークするなとは念を押したが、組織に情報をリークするとは予想しなかった。
 どうやら鼠狩りもしないといけないようだな。
「なら逆に俺に牙を剥いた奴を2~3人晒してやれば俺がアンタッチャブルに成れるな」
 正直俺は退魔官で人間の悪党と戦うのは業務外だ。
「抜かせ。このナイフがお前の心臓にめり込んでも囀れるか楽しみだ」
 男はナイフを言葉を吐くのと同じように自然とその手に握り締めていた。
「イキがるのもいいが、せめて名乗れ。身元不明人の献体で処理されたくないだろ」
 悪党も最後くらいは魔の解明のために役に立って貰う。
「ほざけ。
 だが二手凌いだことに敬意は称しよう。
 俺は樹吊 那波」
「そうか。タグにはそう記してやるよ」
 左手でナイフを引き抜く。ナイフの腕は劣るが、特殊コーティングされたナイフなら樹吊のナイフなど刃を合わせればそのまま切断できる。
 腕の差は武器で補う。実に人間らしい。
 だがこの手は樹吊ほどのプロ相手なら一度しか通用しないビックリ技。使いどころは慎重に選ぶ必要があり、その為にもあくまで主攻は右手の銃と思わせる。
 じりじりと銃口を樹吊に突きつけ引き金を引くタイミングを探る俺。
「警部っ」
 警察署の近くで銃声がしたんだ。夜勤で詰めていた警察官達が警棒を片手に応援に駆けつけてきたようだ。
 一瞬樹吊の視線が俺の背後に向けられ、俺は引き金を引いた。
「くっ」
 流石プロ俺から視線を外しても気は外さない。俺の気を読んだのかの如く引き金を引くタイミングで樹吊は大きく横に飛んだ。そして飛来するナイフを俺はナイフで弾き返した。
 これで追跡する間が一歩遅れ、樹吊は横に飛んだそのまま闇に混じれるように全速力で逃走を始めた。
 流石プロ、撤退の判断が早い。
「警部無事ですか?」
 警官達が俺の元に来たときには樹吊は闇に紛れ消え去っていた。
「ああっ」
 よく見れば杉本だ。てっきりもう帰ったと思っていたが、署にいたのか。
「警部は一旦署に避難をして下さい。俺達は追いかけるぞ」
「辞めておけ」
 追跡しても捕まえられるとは思えないし、下手に追い付けば警察官に無駄な犠牲が出る。
「しかし・・・」
 杉本は納得してないようである。
 こんな夜中に残っていた杉本、これは怪しまれないための演技なのだろうか?
「今はいい。今日のこと後日思い知らせる。その為にもマスコミにも嗅ぎ付けられたくない。悪いが俺の血を清掃しておいてくれ」
 銃声は知らぬ存ぜぬで誤魔化せても、血痕があってもそれも通用しない。
「えっ。警部ちっ血が」
 杉本は初めて俺の脇腹滴る血に気付いたようだ。
「ああ、悪いが俺は先に帰らせて貰う」
 幸い鎖帷子のおかげでナイフの刃は皮膚を切り裂いただけだ。これなら素人の俺でもドラッグストアによって薬と包帯を買えば治療できる。
「何を言ってるんですか、パトカーで病院に送りますよ。お前達は警部の命令通り清掃をやっておけ」
「はっ」
「警部はここで待っていて下さい。パトカーが目立つというなら自分の車を持ってきますので」
「汚れるぞ」
「何を馬鹿なことを言っているのですかっ!!!
 本気で怒りますよ」
 警部の俺が怒鳴ら怒られてしまった。
 こうして俺は杉本の車で帝都警察病院に運ばれて行くのであった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

都市街下奇譚

ホラー
とある都市。 人の溢れる街の下で起こる不可思議で、時に忌まわしい時に幸いな出来事の数々。 多くの人間が無意識に避けて通る筈の出来事に、間違って足を踏み入れてしまった時、その人間はどうするのだろうか? 多くの人間が気がつかずに過ぎる出来事に、気がついた時人間はどうするのだろうか?それが、どうしても避けられない時何が起こったのか。 忌憚は忌み嫌い避けて通る事。 奇譚は奇妙な出来事を綴ると言う事。 そんな話がとある喫茶店のマスターの元に集まるという。客足がフッと途絶えた時に居合わせると、彼は思い出したように口を開く。それは忌憚を語る奇譚の始まりだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...