俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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第二十五話 怪異との縁 時雨との縁

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 学食で一人Bランチを食べていると、対面の席に座られた。折角空いている時間に来ているのに台無しだ。席は幾らでも開いているだろと顔を上げると西村がいた。
「よっ」
 西村は片手を上げて気楽に挨拶してくる。そういえば病室で気が付いた後前埜さんの事がショックで他のメンバーについてどうなったか尋ねてなかったな。ここで相も変わらず気楽そうにしているって事は、彼女も無事だったんだろうな。後は思い出せば俺が助けた少女とかその他のカップルとかも気になるが、まあどうでもいいか。
「どちらさんで?」
「そういうボケはいらないんだよ」
 面白くなさそうな顔をしてくるが、別に俺はお前に楽しんで欲しいわけじゃ無いんだがな。別に俺にお礼を言いに来たわけじゃないだろうな、やっかいな頼み事を持ってきた臭いがする。
「何のようですか? 西山さん」
 直ぐさま追い返したいが、ここは学食他人の目もあることだし、いい人の仮面を被って物腰柔らかに対応しておく。
「西村だ。お前に頼みがあって来た」
 苦虫を潰した顔で訂正する西村、顔に直ぐでるタイプのようだな。交渉が楽だ。
「頼みですか?」
「ああ、この間お前と一緒にいた彼女。紹介してくれないか」
 イケメンがいい顔で爽やかに言ってくれるが、内容は酷いぞ。どういう神経をしていれば彼女持ちが人の彼女を紹介してくれと爽やかに頼める。
「お前彼女いるだろ。あんまり節操が無いと刺されるぞ」
 軽い奴だとは思っていたが、想像以上に軽い奴だったか。まあ時雨さんに惚れてしまうのは仕方が無い。仕方が無いが、わざわざライバルに塩を送る上杉謙信じゃない、このことは是非此奴の彼女や女友達に言いふらしてやろう。
「まっ待て誤解だっ違う。言い方が悪かった。
 実はその彼女、令美の友達にさ、困っている子がいるんだよ」
「困っている? ストーカーとかなら警察に行った方がいいぞとアドバイスしておく」
「ちげえよ。ストーカーも怖いが、その子が恐怖を感じているのは別のもんだ」
「別のもの?」
「怪異だよ」
 西村は言いにくそうにその言葉を吐き出したのであった。

 午後2時のファミレス内はピークを過ぎたとあって閑散としていて、あっさりと一番奥のテーブル席を確保できた。
 俺の対面には西村と少し頬の痩けた女が座っている。
「彼女が大友さん。一応俺達と同じ大学の文学部なんだ見かけたことくらいあるかもな」
 そう言われて見るが、セミロングに垂れ目がちな彼女の顔に見覚えは無かった。
「大友 雅美と言います。急な話で時間を取って頂いてありがとうございます。失礼なのは承知してますが、私怖くてしょうが無いんです。どうか助けて下さい」
「落ち着いて下さい。まずはお話を」
 俺は落ち着いてゆっくりと語りかける。
「すっすいません。そうですね、まずは説明ですよね」
「そうです。ではあなたが出会った怪異について話して下さい」
 これが恋のもつれやらストーカーやらだったら、俺はここにはいない。
 怪異、その言葉に導かれ俺はここにいる。かといって俺は別に怪異に興味があるわけでもないし、怪異退治が仕事でも無い。トラブルお断り、出来れば関わりたくない。ならなぜこの席にいるかと言えば、忌々しいが怪異は俺と時雨さんを繋ぐ縁だからだ。その縁を切ることは時雨さんとの縁を切ることになる。
「あの夜、私は友達の由井とコインランドリーで一緒に洗濯をする為に、洗濯物をまとめてコインランドリーに向かったんです。そしてコインランドリーの前まで来たとき、私は見てしまったんです」
 大友は急に呼吸が荒くなって黙ってしまった。
怪異、思い出すのも辛く、口にするだけで呪われそうな悪夢。口を開くには勇気と勢いがいるだろう。俺はここで彼女が話し出すのを静かに待つ。まあ、あまりに待たせるようなら酒でも無理矢理呑まそうかと思っていたが、幸運にもそれを実行する必要は無く、待つこと数秒で彼女は意を決した顔で口を再度開く。
「大男です。灰色のコートを纏って身の丈二メートルはありそうな大男が、紙袋を持ってコインランドリーから立ち去っていくのを見てしまったんです。
 ええ、口に出してしまえばそれだけなんですが、私はその男を見ただけで全身の鳥肌が立って呼吸すら忘れてしまいました。
 怖かったんです。とてつもなく怖かったんです。あれは、あれは悪意そのもの」
 大友は両手で頭を抱えて机にうっ伏してしまった。その頭を抱える手首には鳥肌が立っていた。
 思い出すだけでこれか。これじゃ、話が進まない。このファミレス、ビールくらいは置いてあったような。俺が呼び出しブザーを押す前に西村が口を開いた。
「これで彼女がどれだけ恐怖しているか分かっただろ。後は俺が話すよ」
 さらっと彼女でも無い大友を庇う行動が取れるところが、此奴の育ちが想像できる。
「お前は大友さんから聞いたのか?」
「ああ、令美と二人で聞き出すのに丸一日かかった」
 忍耐力のあるいい人だ。
「じゃあ、頼む」
「その後彼女がコインランドリーに逃げるように入ると待っているはずの友達は無く、無人状態だったそうだ」
「すっぽかされたのか?」
「それなら笑い話で済むんだがな。彼女の友達、それ以来行方不明らしい」
「警察には?」
「ああ彼女の良心が捜索依頼を出したらしい。だが、手掛かりは無しだ」
「あの男よ。あの男が由井を連れ去ってしまったんだわ」
 急に顔を上げて騒ぐなよ、驚くだろ。
「だが、別にお前が見た大男はその友達を抱えてなかったんだろ」
 話じゃ紙袋を持っていただけだ、紙袋の中に二十歳近い女の体は入らないだろ。小学生でも無理だ。
「そっそれはそうですけど」
「一から十までお前の思い過ごしだ。俺に相談するより病院に行った方がいい」
「でっでも」
「全部お前の妄想。証拠は何も無い。その大男も紙袋を持っていたんだろ、だったらコインランドリーで洗濯しただけじゃ無いのか?」
 むしろ手ぶらで出来た方が怪しいとも言える。
「でっでも、あれ以来眠ると魘されるんです。悪夢を見るんです。大男に畳まれた由井が紙袋に入っている夢を見るんです。お願いです助けて下さい」
「今の話じゃどうにもな~。なら現実的な話をするが、お前金は持っているか?」
「おっお金ですか」
「悪いが慈善事業じゃ無い。相談をするだけで料金を取られるがいいのか?
 弁護士なり探偵事務所のHP見て相場料金を調べてみろ。普通の女子大生が払えるような金額じゃ無いぞ」
「お前っ金を取るつもりかっ」
 西村が憤慨するが、此奴ただで人に動いて貰うつもりだったのか、そっちの方が憤慨だ。
「憤るなよ。医者だって弁理士だって、弁護士だって料金を払うだろ。お前医者に掛かるたびに金を取るのかと怒るのか?」
「それとこれとは、彼女はこま・・・」
「はっ払います」
 大友は西村の言葉を遮って力強く言った。
「この悪夢から解放されるなら幾らでも払います。今は無いけど、キャバクラだって風俗だって、何でもしてお金は作ります」
 怪異かどうかは話から分からなかったが、彼女の本気は分かった。
なら、仕方ない。
 俺はスマフォを取り出した。
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