俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

文字の大きさ
57 / 328

第五十七話 ルナティックダンス

しおりを挟む
「うえ~い、いえ~い」
 俺は適当に踊りつつ踊り狂う若者達の間に入り込んだ。これで黒服達からの目は誤魔化せるが安心するのはまだ早い。ある意味理性を失い共通認識から外れた此奴等の方が危険かも知れない。
 音楽に骨まで溶けて水たまりのように床に広がる肉。うっかりこの肉だまりに足を入れた奴はそのままドロドロに溶けながら飲まれていった。この肉だまりを避けて進めば、ワニより大きく開いた口が待っていた。口が閉められるより早く舌を踏みつける。噎せ返っている内に横から抜け出すと、ニッコリ笑う裸の美女と遭遇。「いい男、ねえパイズリしてあげるう~」っといきなり胸を掴んでにゅーと伸ばしていく。「あはんきもいいわよ~」俺の頭が伸ばしたおっぱいに夾まれる寸前に「俺にしてくれ~」俺は突き飛ばされ別の男がおっぱいに夾まれる。「あはんいっちゃいなさ~い」美女をおっぱいを使って男の頭をしごきだし、男は極楽の表情を浮かべた瞬間頭から脳がぴゅっぴゅと射出された。
 狂ってる。ここいら辺にいる奴らはもはや人間の殻を捨てている。音羽の奴はまだ人間としての理性を残しているのか? 残っていなかったら、回れ右して逃げないとな。ここにいる人達を見捨てるのかと非難されようが、俺では何も出来ない、踏み止まれは死ねとの同義、そんなのはご免だね。
俺がこうして狂気の海に揉まれながらも先に進むと、音羽は一心不乱に踊りを踊っていた。まだ人間としての形を残しリズムに乗った軽いステップに連動して上半身もリズムに揺らいでいる。
 踊りなんか知らないが、俺なんかと比べれば格好いいことは分かる。顔とかじゃ無い、動作が美しいのだ。プロのダンサーにでも成れってくらいに、羽ばたく鳥のように軽やかなダンスを楽しんでいる。その顔は険は取れていて、俺に絡んできた同一人物とは思えないほどに穏やかに爽やか。
 このユガミは人を音楽によって重圧から解放して纏った鎧を取り去っていく。そう聞くといいように思うが、取り去り過ぎれば最期人間という形すら脱ぎさり、己の我のみが露出する。
音羽に関しては、纏いすぎた鎧を脱ぎ去った程度といったところか。だとすれば、今見ているのが「音羽 翔」生来の顔という訳か。その顔を見てると、音羽も家に使命に宿命の重さに歪まされた犠牲者なのかもしれないと思えてしまう。
「それでも、お前は旋律士だろがっ」
 狂気の空気を砕いて俺の拳が音羽の顔を殴り飛ばした。
「っててめえ」
 殴られ何とか倒れまいと踏み止まった音羽が俺を睨み付けてくる。多少険が戻ったいい顔、やはり人間毒が無ければ味が無い。
「けっ正気に戻ったか」
「はっそう言えば俺は何をしていた。何か子供の時に戻ったような楽しさを感じていた」
 音羽は憑き物が落ちたかのような顔のまま。このユガミの効果は正気に戻っても持続するというか、一時的なものでなく本当に変えられてしまうようだな。つまり、肉体が変質してしまった人はもう元に戻れないと言うことか。
しかし、俺も心が壊れてなければ、この狂気に同調し心が壊れる前の世界を素直に楽しめた頃に戻れたかも知れない。



はっそしてまた人間に絶望するのはご免だぜ。
俺は子供に戻って浸りたい音羽には可哀想だが、現実を突きつける。
「周りを見ろよ、旋律士」
「なっ」
 音羽はやっと周りの惨状に気付いて目を見開く。そのマヌケ面に俺は白銀に輝く布を投げ付けた。
「っここれはっ」
「本当は返す気なんかなかったんだがな。あまりにもお前が情けないから俺の旋律具を貸してやるよ」
「なっ巫山戯るな。これは俺の・・・」
「少しは格好いいところを俺に見せてみろよ、旋律士」
 俺の最期の挑発という発破掛け、これを拒否してでも子供に戻りたいなら俺はもう何も言わない、其処まで他人に干渉しない。俺はさっさと一人で脱出させて貰う。
「言われなくても」
 音羽は背筋を伸ばして立つと同時に白銀に輝く羽織を纏った。
 大河ドラマなどで大将が着る陣羽織や新撰組が着ているような伊達が効いた羽織で白銀に輝き、背には翼の紋章が縫い込まれている。
 渡したはいいが、本当にこれが旋律具なのか? 旋律具とは旋律を奏でるもののはず。羽織は格好いいが、あれでどんな旋律を奏でるというのだ?
「はあああああああああああ」
 音羽は両手をゆっくりと旋回させて深く呼吸をする。
息吹か?
「破っ」
 静から一気に動に、それに伴い羽織がビシッと空気を叩く音を奏でる。
 素手でパンチを繰り出すのと空手胴着みたいなものを着て繰り出すのとでは、威力は同じでも気持ちよさは全然違う。袖が靡き何とも心地よい音を鳴らす。今音羽が鳴らした音はそういったもので、きびきびした動作に連動するサウンド。
それから次々に空手の型のように技を放っていく。
緩急織り交ぜ、ゆったりした時には靡くような音がなり次の瞬間には動作の正確さスピードを表現する音が響く。
音の連なりに鳥が翼を広げ大峡谷を飛んでいく姿が連想されていく。
「なるほど、性格は何だが技は本物だな。見直してやるよ。
 さてと、そういえばおまけがいたな」
 俺は一旦音羽から視線を切って周りを見れば何やら殴り合いを始めている皇が見えた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

都市街下奇譚

ホラー
とある都市。 人の溢れる街の下で起こる不可思議で、時に忌まわしい時に幸いな出来事の数々。 多くの人間が無意識に避けて通る筈の出来事に、間違って足を踏み入れてしまった時、その人間はどうするのだろうか? 多くの人間が気がつかずに過ぎる出来事に、気がついた時人間はどうするのだろうか?それが、どうしても避けられない時何が起こったのか。 忌憚は忌み嫌い避けて通る事。 奇譚は奇妙な出来事を綴ると言う事。 そんな話がとある喫茶店のマスターの元に集まるという。客足がフッと途絶えた時に居合わせると、彼は思い出したように口を開く。それは忌憚を語る奇譚の始まりだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...