俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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第五十八 揉み揉み

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「犯らせろー」
「殺らせろー」
 性欲を解放した男が襲い掛かり闘争心を解放した女が返り討ちにする。
 思っていた以上におっかねー女だな。
「ごふぅ」
 不用意に腕を振り上げて襲い掛かったばかりに、ガラ空きになった喉笛に手刀を突き込まれ男は蹲るように倒れる。やばくないかあれ?
 ハッキリ言って近寄りたくないが、このまま己を解放し続ければ行き着く先は殺人鬼だ。それが本人の望みだとして、それは幸せなことなのだろうか?
 道徳的には解放しては成らない望み。
解放しなければ、美人だし世間一般的な幸せの評価を得られて一生を終えるだろう。蠢く想いを抱えたままの真の幸せを知ること無く。
 解放してしまえば、世間には美人殺人鬼と囃し立てられ社会的には不幸の烙印を押される。だが本人は真の幸せを掴めるだろう、それが例えそれが刹那の輝きであったとしてもだ。
 俺にはどっちがいいか何て分からない。だが俺は思う、折角極めた技、ただ人を殺してどうする。どうせ殺すなら、何かを活かす為に何かを為す為にこそ振るうべきだ。それでこそ、真に殺人術が輝き、心が解放されると思う。
 余計なお世話かも知れないが、悩みを聞いてしまった縁だ一度だけ他人の生き様に介入する。
 としてどうする?
 音羽は殴られた痛みで正気に戻ってくれた、ある意味定番。
 しかし皇はおそらく違う、殴られれば更に闘争心を燃やしてくる。別の刺激が必要だ。っとなると一つだけ思い当たる。それで駄目なら見捨てるしか無いというか手が無い。それこそ、俺と皇で命懸けの殺し合いをするしか無い。
「犯やらせろっ」
 さっきとは別の男が皇に掴み掛かるが皇は見事なカウンターパンチで男を撃退する。解放された望みが性欲の奴が多いが、生物としてある意味健全だな。
「うごっ」
 顎に喰らい白目を剥いて倒れ伏していく男に残心する皇の背後から俺は忍び寄っていく。
 皆が熱狂する波に乗れない代わりに飲まれないのが俺、熱狂する皆の注目から自然と外れていく。
「手応え無いわね~。次はいないの次」
「じゃ、遠慮無く」
「!」
 皇が振り向くより早く背後から抱きついた。
 ふわっと香る女の匂いと今まで感じたことの無い肉の柔らかさ。俺は更に柔らかい部分に手を伸ばす。
「はにゃ!?」
 女の胸なんて揉んだこと無い、どうすれば感じるのか見当も付かない。取り敢えず胸を鷲掴みして、優しく揉み解してみた。
 皇の処女との自己申告を信じての行動。本当に処女なら俺の拙いテクニックでも十分刺激を感じだろ、気持ちいいかキモッと吐き気がするかは知らないが。それが狂気を吹き飛ばすほどの衝撃であることを祈るばかりだ。
「はっはなせ」
「うおっ」 
 ちっ長年武道をやってきた奴とは積み上げたものが違う、どんな技を使ったのか俺は簡単に振り解かれてしまった。
「きっきさま何のつもりだ」
 顔を真っ赤にして俺を睨み付けるが、理性が戻っていた。理性があるからこそ恥ずかしがる。
「ああなるのを助けてやったんだ、感謝して欲しいくらいだ」
 俺は人としての殻を捨ててしまった化け物達を指差した。
「なっなんだあれは」
 映画じゃ無いリアルで見る人成らざる化け物に皇は顔が一気に凍り付く。
「己の願望を解放した結果だ。
 ある意味、幸せなのかも知れない。お前もそうなりたいなら俺は次は止めないぜ」
「冗談はよしてくれ」
 皇は吐き捨てるように言った。
 やはり殺すなら理性を持っていたいのか?
「なんだなんだノリが悪いと思ったら、旋律士どもが紛れ込んでいたか」
 突然割り込む第三者の声に振り向けば黒服がいた。
 嗅ぎ付けられたか。チャラ男らしくなく仕事熱心な奴だ。
「俺は旋律士じゃ無いぜ。旋律士はあっちだ」
 俺は正直に言い音羽を指差した。
「遊んでいる暇は無いか。
 ※〒●▽っ」
 黒服は音羽の旋律をチラッと見ると俺には理解できない寒気がするガラスを引っ掻くような音を発した。
 いきなり黒服は破れ中から一回り肥大化した筋肉に包まれた肉体が湧き出てくる。顔付きも欲望に歪み額から角が一本生えてくる。
「鬼!?」
 絵本に描かれる可愛い鬼じゃ無い、寺や神社などの古代の絵に描かれる恐ろしくも醜悪な鬼そのものだった。
なんだ彼奴はユガミなのか魔人なのか、分からないが考えるより行動、驚く動作で七段警棒を取り出し振り払う。遠心力に従いカシャカシャといい音を出して七段警棒が伸びていく。伸びきり構えようとしたところで手に痺れが走り七段警棒が奪われた。
「!?」
 驚き手元を見るより早く俺から七段警棒を奪った皇が鬼に向かっていく背中が見えた。
「皇流 奥伝 首落とし」
 本当に首を切り飛ばせそうな綺麗な軌跡を描いて七段警棒が鬼の首元に伸びていく。
 躊躇いが無い。刃が無いとは言えあんなのを喰らえば首の骨が折れる。殺す気で放った技、皇も音羽同様ルナティックダンスの影響が残っているのか。
「残念だったな。護衛」
 皇の放った技は鬼の手でガードされた。人間なら骨が砕ける一撃も鬼の筋肉の前には、めり込みすらしない。逆に技を放った反作用で手首を痛めたのか皇が顔を顰める。それでも七段警棒を手放さないのは流石だが。
「これが剣だったら肉くらいは絶てたかもしれないな」
 やばい。鬼が笑い、俺の背筋に悪寒が走る。脊髄反射で俺は背後から皇を抱えて横に飛び、皇がいた空間を手刀が貫く。
「ぐほっ」
 二人で床に倒れ込み、二人揃って振り上がる鬼の拳を見上げる。
 この体勢からじゃ避けられない、皇を盾にするか一か八かの射出式スタンガンを放つか。悪いが自分を犠牲にして皇を守は無い。時雨さん以外の女の為に死ぬ気はない。
 どうする?
 バサッ。
 生死を分ける決断を迫られる俺に、大空を舞う鷹の羽ばたきが聞こえた。視線を振り上がる鬼の拳の先に移せば、両手を広げ天を舞う鷹 音羽が見えた。
獲物を狙う鷹のごとく音羽が急降下、バッと音羽が着地すれば、鬼はスライサーにセットされた卵の如く輪切りになっていた。
 鷹の羽は風を友として羽ばたき、羽ばたきは真空刃を生み出す。生み出された真空刃は魔を切り裂く。
「ん? 現象が収まらないな」
 音羽は不思議そうに呟く。
「そいつは単なる下っ端だろ。本体を倒せよっ」
「そうか。それでそいつはどこにいる?」
「あそこだろっ」
 どう考えたって、このノリノリのラップでみんな狂気を解放していっている。ならこの音楽、音源こそがユガミ。
なら帰結どおり、俺はDJ室を指差した。
「なるほど」
 納得したような音羽はDJ室に一直線に向かっていく。途中立ち塞がる欲望を解放した人間を容赦なく輪切りにしながら。
 矢牛もそうだったが、音羽も怪異と見なせば一切の容赦が無い。
「この狂乱の中一人理性を保つ。君生きづらくない」
 問いかける先には鬼を従えた少年がいた。
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