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第七十五話 葛藤
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そこからは早かった。
前埜は俺が思っていたより仕事が早く、俺が思っていた以上に政治力があるらしい。
パトカーに乗せられN市警察署に着く頃には、俺は退魔官という初めて聞く官職に就いていることになっていた。
しゃしゃり出てきた若造に対する面白くない感情と前埜に貸しを作っておきたい政治的打算が入り交じったN市署長によって現場の指揮を一任されることになった。
N市警察署で動員できる警察官が一堂に集められた大会議室、整然と立つ彼等の前に本当はこの人達に命令する何の権利も資格も無い俺が立つ。
本来なら外国人とはいえエクソシストという魔を追う資格のあるジャンヌこそここに立つべきだと思うが、彼女は会議室に入る前に激励に俺の背を叩くとまるで俺の副官のように俺から一歩下がって立っている。
お前そんな男を立てるとか言う性格じゃ無いだろ。
会議室に集められた警官達を見る。ズラリと立ち並ぶ彼等は、皆なんだこの若造はという疑心と敵意が入り交じった視線を俺に向けてくる。
俺にあるのは前埜に与えられた仮初めの欺瞞に満ちた役職のみ。
そんな俺が死ぬ可能性すらある任務を行えと命令していいのだろうか?
この人達には、ついこの間まで人間が嫌いだとか言っていた俺なんかとは、重みが違う、誇りが違う、責任が違う。
一歩下がりたくなる。俺なんかは横で小細工している事こそ似合う。
一歩下がれば、ジャンヌが一歩前に出てくれるだろう。
それはつまりこの戦い、ジャンヌとセクデスの戦いと思っている。
これはジャンヌの戦いか?
これは俺の戦いか?
俺はなぜ戦う?
ジャンヌの戦いをサポートするためか?
俺が俺の敵を叩き潰すため戦うのか?
歯を食いしばり。
拳小握りしめ。
目を瞑る。
心に答えが灯る。
俺の戦いだ。俺が俺の敵を潰す。
それでもだ。その戦いにこの人達を巻き込んでいいのだろうか?
この人達の人生、俺は背負えるのか?
無責任な上になれれば楽なのに。
どうせ人間が嫌いなんだろ。だったら気にするな。
死のうが、重傷を負うが気にするな。
普通の俺ならそれが出来る。
だがそれはあくまで俺に責任が無い場合。
今回は俺が死地に放り込む。
考えを一転させて、俺がこの人達を放り投げた場合どうなる。
セクデスが危険な存在なのは変わらない。
その存在を警察は認識してしまった。認識してしまって放置することは警察には出来ない。出来たらそれは警察という存在意義を自ら放棄することだ。
どっちにしろこの人達はセクデスと戦う。
なのにこの人達は、理の外を知らない、ユガミを知らない、魔人を知らない。
無能な上官の下で無駄に犠牲を出す。
だが俺は、理の外を知り、ユガミを知り、魔人を知っている。
俺だけが適切に指示が出来る。
俺だけが犠牲を最小限に出来る。
俺が力を借りるんじゃ無い、俺が力を貸してやるんだ。
その確信を持って俺は口を開く。
「第一級テロリスト、セクデスを生死を問わず捕まえる。
死にたくない者はこの場で辞表を書いて去れ。
残るならば遺書を書いて任務に就け」
俺は退魔官という役職を演じた。俺はもう学生じゃ無い退魔官だ。
役職を演じれば警察という上意下達の組織、若造だろうが頼りなさそうだろうが胡散臭そうだろうが命令に従う義務が生じる。
それでも人間、反発心は出るだろう。下手すれば瓦解してしまう。
一瞬の間。
「この場で辞表を書くような奴はいませんよ。
退魔官、貴方は信用できる。町田の仇取らせて貰います」
張り詰めた緊張を破るように声を上げたのは、河原で一緒に戦った年配の警官だった。
「そう言えば名前を聞いている暇がありませんでしたね」
「自分は五津巡査長です」
「私は第二等退魔官 果無 迫。
セクデスは今まで何万と犠牲者を出し、放っておけばまた何万人と犠牲者が出る。ここで終わらせるぞ」
「共に戦いましょう」
自分の父ほどの人に偉そうな口調だが、上官が部下にへりくだってどうする。
俺は第二等退魔官、それは警部補に匹敵する。上であることを示さなければならない。
五津さんが先陣を切ってくれたからか辞表を書いて去る者も異議を唱える者もいなかった。居並ぶ警官達はその後俺の細かい指示を聞くと猟犬として街に解き放たれていった。
広い会議室には俺とジャンヌが残される。
「流石私が見込んだ男だな。立派だったぞ」
「悪いが俺には恋人がいる」
「それは残念だ」
俺とジャンヌ、拳を合わせ共に出撃するのであった。
前埜は俺が思っていたより仕事が早く、俺が思っていた以上に政治力があるらしい。
パトカーに乗せられN市警察署に着く頃には、俺は退魔官という初めて聞く官職に就いていることになっていた。
しゃしゃり出てきた若造に対する面白くない感情と前埜に貸しを作っておきたい政治的打算が入り交じったN市署長によって現場の指揮を一任されることになった。
N市警察署で動員できる警察官が一堂に集められた大会議室、整然と立つ彼等の前に本当はこの人達に命令する何の権利も資格も無い俺が立つ。
本来なら外国人とはいえエクソシストという魔を追う資格のあるジャンヌこそここに立つべきだと思うが、彼女は会議室に入る前に激励に俺の背を叩くとまるで俺の副官のように俺から一歩下がって立っている。
お前そんな男を立てるとか言う性格じゃ無いだろ。
会議室に集められた警官達を見る。ズラリと立ち並ぶ彼等は、皆なんだこの若造はという疑心と敵意が入り交じった視線を俺に向けてくる。
俺にあるのは前埜に与えられた仮初めの欺瞞に満ちた役職のみ。
そんな俺が死ぬ可能性すらある任務を行えと命令していいのだろうか?
この人達には、ついこの間まで人間が嫌いだとか言っていた俺なんかとは、重みが違う、誇りが違う、責任が違う。
一歩下がりたくなる。俺なんかは横で小細工している事こそ似合う。
一歩下がれば、ジャンヌが一歩前に出てくれるだろう。
それはつまりこの戦い、ジャンヌとセクデスの戦いと思っている。
これはジャンヌの戦いか?
これは俺の戦いか?
俺はなぜ戦う?
ジャンヌの戦いをサポートするためか?
俺が俺の敵を叩き潰すため戦うのか?
歯を食いしばり。
拳小握りしめ。
目を瞑る。
心に答えが灯る。
俺の戦いだ。俺が俺の敵を潰す。
それでもだ。その戦いにこの人達を巻き込んでいいのだろうか?
この人達の人生、俺は背負えるのか?
無責任な上になれれば楽なのに。
どうせ人間が嫌いなんだろ。だったら気にするな。
死のうが、重傷を負うが気にするな。
普通の俺ならそれが出来る。
だがそれはあくまで俺に責任が無い場合。
今回は俺が死地に放り込む。
考えを一転させて、俺がこの人達を放り投げた場合どうなる。
セクデスが危険な存在なのは変わらない。
その存在を警察は認識してしまった。認識してしまって放置することは警察には出来ない。出来たらそれは警察という存在意義を自ら放棄することだ。
どっちにしろこの人達はセクデスと戦う。
なのにこの人達は、理の外を知らない、ユガミを知らない、魔人を知らない。
無能な上官の下で無駄に犠牲を出す。
だが俺は、理の外を知り、ユガミを知り、魔人を知っている。
俺だけが適切に指示が出来る。
俺だけが犠牲を最小限に出来る。
俺が力を借りるんじゃ無い、俺が力を貸してやるんだ。
その確信を持って俺は口を開く。
「第一級テロリスト、セクデスを生死を問わず捕まえる。
死にたくない者はこの場で辞表を書いて去れ。
残るならば遺書を書いて任務に就け」
俺は退魔官という役職を演じた。俺はもう学生じゃ無い退魔官だ。
役職を演じれば警察という上意下達の組織、若造だろうが頼りなさそうだろうが胡散臭そうだろうが命令に従う義務が生じる。
それでも人間、反発心は出るだろう。下手すれば瓦解してしまう。
一瞬の間。
「この場で辞表を書くような奴はいませんよ。
退魔官、貴方は信用できる。町田の仇取らせて貰います」
張り詰めた緊張を破るように声を上げたのは、河原で一緒に戦った年配の警官だった。
「そう言えば名前を聞いている暇がありませんでしたね」
「自分は五津巡査長です」
「私は第二等退魔官 果無 迫。
セクデスは今まで何万と犠牲者を出し、放っておけばまた何万人と犠牲者が出る。ここで終わらせるぞ」
「共に戦いましょう」
自分の父ほどの人に偉そうな口調だが、上官が部下にへりくだってどうする。
俺は第二等退魔官、それは警部補に匹敵する。上であることを示さなければならない。
五津さんが先陣を切ってくれたからか辞表を書いて去る者も異議を唱える者もいなかった。居並ぶ警官達はその後俺の細かい指示を聞くと猟犬として街に解き放たれていった。
広い会議室には俺とジャンヌが残される。
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「悪いが俺には恋人がいる」
「それは残念だ」
俺とジャンヌ、拳を合わせ共に出撃するのであった。
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