俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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第七十六話 捜査

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 ビル影からオープンテラスに成っているカフェを覗き込む。
 カフェは遊歩道を挟んで対角上、休日とあってオープンカフェだけで無く遊歩道にも多くの人々道を行き交っている。衆目に晒されセクデスはコソコソするわけでも無く堂々とテラス席でスマフォ片手に珈琲を楽しんでいる。
 捜査を開始して乗り捨てられたパトカーの発見から30分間ほど姿を見失っていたが、つい先程発見の連絡があり飛んで来てみれば、ゆっらりと余暇を堪能する紳士を気取るセクデスを見る羽目になった。コソコソビル影からのぞき見している俺達こそ犯罪者のような気分になる。というかこのままなら間違いなく通報されるな。
「どうします? 突撃しますか」
 俺達の連絡員として随伴している五津が聞いてくる。捜査員達は全員私服に着替えさせ、発見しても絶対に手を出すなと命令してある。五津もまたよれたセーターを着込み、どっからみても疲れたおっさんにしか見えない。見事な変装だ、決してこれが彼の素の姿で無いと思いたい。他の捜査員達も一見市民にしか見えない格好でカフェを包囲する形で待機している。
 何だかんだで先走ること無く命令に忠実なのはありがたいが、俺は期待に応えることが出来るだろうか。
 流石セクデス、俺が予想した手の内下から2番目の嫌な手を使ってくる。普通の犯罪者なら警察や旋律士の追撃を避けるため人の気の無い場所に潜む。それなら話は早かった、警官達に包囲させ俺とジャンヌで突撃すれば済む話だった。
 だが、セクデスは違う。人が多い居場所に潜む。いや待ち構えているだろうな。
 セクデスが殺人に躊躇いが無いことを俺達は知っている。
 故にセクデスにとって周りにいる一般人は全て人質となる。
 あそこで珈琲を飲みながらノートパソコンを叩いているサラリーマン、息抜きでおしゃべりしている主婦達、友達と何やらスマフォを覗き込んでいる女子高生、彼等彼女らの幸せを踏みにじれるほどに俺はまだ強い覚悟も深い絶望も無い。
「いや包囲を固めつつ待機だ。下手に手を出してみろ周りの市民が死ぬぞ」
 今このビル影には俺、ジャンヌ、大津、セクデスを見付け連絡してきた警官達の5人がいるが、この5人ではセクゼスの死の鎌が一般市民に振り下ろされる前に仕留めることは出来ないだろう。
「爆弾、ガスでも使うというのですか?」
 死と認識したら死んでしまう幻覚、その発動範囲発動までに掛かる時間等不明だが、市民の命を使って実証実験をするわけにはいかない。その上はこれは俺が知るセクゼスの魔の力の一端の可能性が高い。死と生を見極めるべく聖者から悪魔まで成る男、その目覚めた魔の力がこの程度であるとは俺には思えない。
 もっと、もっとおぞましい力を秘めている気がして成らない。
「まあ、そんなものだ。やるなら狙撃しかない」
 認識される前に認識外から命を絶つ。どんなに恐ろしい魔だろうが、認識されなければどうということもあるまい。
「要請した狙撃部隊はこちらに向かっているそうです。あと30分もあれば配置に付けます」
 署と連絡を取り合っていた別の警官が言う。N市署長に嫌みを言われながらも要請しておいたのが無駄にならなかった。
「よし。それまでに気付かれないように200メートル離れて包囲網を敷け。いいか絶対に悟られるなよ」
「はっ」
 あと30分が勝負だな。セクデスがただ人前に出てきたとは思えない、何か仕掛けの算段が立ったから出てきたのだろう。狙撃が先かセクデスが動くのが先か、待つこと以外自分で何か出来ないのが焦れったい。

 時間の流れは均一でない無いことを嫌と言うほど認識される長い時が流れ珈琲を飲み終わったセクデスが立ち上がる。
 まずいここから離れるのか?
 時を見れば、俺の体感で一時間は経っていたが10分と経っていない。
 立ち上がったセクデスは真っ直ぐにこちらを指差すと、掌を返してちょいちょいと人差し指を曲げた。
 ばれていたか。
「どうしますか?」
 大津も戸惑うように俺に指示を仰ぐ。俺に頼らずいい年なんだから自分で考えろと素の俺なら言ってしまいそうだが、今の俺は自ら求められる者、上に立つ者になったんだ。ぐっと怒声を呑み込む。
 ばれたのは、俺か? ジャンヌか? 警官か?
 ここで敵の過小評価は命取りか。
「ジャンヌと俺の二人で出る。
 お前達は遊撃としてここで待機。他の警官には連絡して市民をここから遠ざけろ」
「分かりました」
 大津達は無線で他の警官達に指示を伝える。
 もはや犠牲は避けられない。避けられないのなら、数で判断しろ。下手な情で判断すれば更に多くの人が死ぬ。
 人の生き死のゼロサムゲーム。
 これは優しい時雨さんにも気高いジャンヌにも出来ない、心が壊れた嫌な奴だけが堪能できるゲームだ。
 これが愛する時雨さんだったら。
 俺はきっと手を尽くし口を弄してこの場に置いていっただろう。
 だが仲間と言ったジャンヌなら責任は取っても貰うしかないな。
「地獄への一本道、一緒に歩んで貰えるかな」
 俺はジャンヌにダンスに誘うが如く手を差し出す。
「喜んで」
 ジャンヌは俺の手を取って軽く頭を下げる。
 そして俺とジャンヌ目と目を一瞬合わせ、手を離すと同時二人一緒にビルの影から飛び出した。

 俺とジャンヌは堂々と姿を晒しセクデスの方にゆっくりと歩いて行く。下手な刺激で何が起こるか分からない、カフェ周りの市民は諦めたがせめてそのほかの市民が退避する時間は稼ぐ。
「こんなところで一服とはいいご身分だな」
 声が届く距離で俺がまず牽制をする。
「一仕事終えた後のティータイムは紳士の嗜みだよ」
 気障ったらしくも似合う、セクデスはティーカップを指で弾いていい音色を響かせた。
 その一仕事が気に掛かる。一体何をしたセクデス。
「命かながら逃げておいて紳士とは笑わせる。紳士なら潔く捕まったらどうだ」
「日本の武士道など悲劇に浸ったオナニーだな。己の持てる力を尽くして天運を掴むことこそ紳士」
「それについては同意したくもあるが、お前に天運は残されてない。有っても俺が潰す」
「はっは、その意気や良し。さあ共に生と死の境を見極めよう。
 教授しよう、MyStudent」
 セクデスはいつの間にか手に持っていたスマフォの画面をクリックし、その姿に腰が抜けるほどの悪意を感じた。
「やばい、伏せろジャンヌ」
 俺がジャンヌに抱きつき地面に伏せた瞬間、カフェが大爆発した。
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