88 / 328
クイオトコ
第八十七話 クイ男
しおりを挟む
大人になっても冒険心を忘れない。
そんな風に思って輝いて社会人の一歩を踏み出したの今は昔。
今ではすっかりくたびれてしまった中年。
今日も休日だというのに呼び出されてみれば、身に覚えの無いクレームで上司にネチネチと叱られつつ処理をする。
帰路につけばもう当たりは真っ赤に染まりかけて、休日の終わりを感じさせる。
せめてもの楽しみと帰路途中にあるコンビニに寄っておでんとビールを買う。
俺は一体何の為に生きているんだろう。この歳になっても独身、誰にでも出来るくだらない仕事で人生をすり減らせていく。
はあ~と深い溜息と共に、何の気まぐれか、ふと横を見ると塀と塀に挟まれた僅か70cmにも満たない脇道が伸びているのが目に入った。
何年も通った道だがこんな道があることを今初めて気付いた。
この道を抜けると何処にいけるんだ?
目を凝らしても夕暮れ時だからか先が曲がっているのか、抜けた先は見えなかった。この道の先は未知。
「未知」
この歳になってまさかこんな言葉を呟くとは。
「よし」
どうせアパートに帰っても誰かが待っているわけで無い。何もするのも自由。今から明日会社に出勤するまでの俺の許された自由なる時間。家に帰ってテレビを見ながらビールと思ったが、なら未知に挑むのもいい。
いやきっと、いい。
俺は狭い道に入り込んだ。
「はっはっ」
心が躍ってくるのが分かる。心がむくむくと若返っていくのを感じる。
体を僅かに傾かせ、一張羅を壁に擦らないように気をつけて若干横歩きに近い。幼少期よくこういった道を走り抜けては服をどこかに引っ掻いては母に叱られたっけ。
人は猫。猫と同じく人は通れる道、それが狭ければ狭いほど惹かれてしまう。
壁と壁に挟まれた細い路地。どれほど歩いたのか、一時間のようにも数分のようにも時間の間隔が溶けていく感覚が心地よい、絶対に時計は見ないぞ。
「ふっふ~ん、ぎょっ」
俺はまだまだやれるそんな心が湧き上がり顔を見上げて歩けば、視線の先、口からぶっといクイの先端を出す裸の男と目が合った。
腰が抜けそうになる。
裸の男はヤモリのような格好で両手両足を押しつけて壁と壁の間に張り付いている。そこまではまだいい、合った目が腐った魚の目のように濁っているのもまだいい。ここまでなら、変態に遭遇したでまだ済ませられる。
何で引き裂かれるほど開かれた口から先が鋭利に削られ、腕ほどのぶっといクイが飛び出ている?
そのクイは一方は口から出ているが、その後端は尻から出ている。
つまり尻から内臓を通って口からクイが出ている、この男は櫛を刺された焼き魚のようになっているのに、なんで生きている?
いやそれとも死んでいるのか?
あのぬめっとした白蝋のような肌の白さ、もう死んでいるのか? 死んで壁と壁の間に張り付いているのか? それなら警察に連絡を・・・。
「うぎゃーーーっ」
クイ男のめがぎょろっと動いて、俺を睨み付ける。そして俺目掛けて、かさかさと手足を動かして向かって来る。
一目散という言葉通り。俺はもう逃げ出した。走って逃げ出した。
走って、走って、走って、走って行く。
とっくに入り込んだ分は走り込んだはずなのに、出口が見えてこない。
「へあ!?」
なんでなんでなんで、出口が見えてこない。壁と壁に挟まれた細い道は、ぐっと地平線の彼方まで続いているように消失点の向こうまで続いている。
何で何で俺はこんな道に入ってしまったんだ?
冒険心なんて出すんじゃなかった。
童心になんか戻るんじゃ無かった。
アパートで愚痴をグチグチ言ってビールを飲んでいれば良かった。
悔いが次々と浮かび上がって後悔する。
「うわっ」
普段から運動不足が祟ってこんな命が掛かった駆けっこなのに、もう足が上がらなくなり躓いた。
そこからは早い。躓いた勢いを殺せないままに俺は地面に倒れ込んだ。
腕すら着くことが出来ずに、全身で地面にダイブしてしまう衝撃に呼吸が止まる。それでも生きたいという意思、さっきまで死んだような気力の無かった男のどこにというほどの死にたくないという意思が、がばっと上半身を起き上がらせる。
そしてまた目が合った。
俺の前の前にクイ男の目があった。
いつの間にか回り込んでいたクイ男は俺の頭をぐっと掴むと、俺は強引に自分が引き寄せられるのを感じた。
口と口を合わせられた。
相手が男だというのも嫌だが、今はそんな生理的嫌悪感を言っている場合じゃ無い。
口からクイが飛び出ている口とキスをしたんだ、当然俺の口に歯を砕きクイが入り込んでくる。
「がぼがばああ」
歯を折られ砕かれ気絶しそうな痛みが襲い掛かって来るが、気絶しない。死にたくない一心でクイ男の頭を掴み引き離そうとするが、そのゴンッとクイが打ち込まれるのを感じた。
歯を磨り潰し顎が外れクイが喉まで入り込んでくる。
後はもう、ガンガンガンと杭が打ち込まれるたびに食道に入り込み、胃を突き破りクイは俺の体を貫いていく。
あれほど死にたくないと思っていたのに、今は自分が押されるよな精神的苦痛、歯の治療の数十倍の痛み。一刻も早く死にたいと願ってしまう。
「今日のニュースです。
本日夕方頃、いきなり路上で裸の男の遺体が発見されました。一部目撃者の話では男はの口から何か杭のようなもので貫かれたような感じがする・・・・」
ニュースを見ていた俺のスマフォが鳴る。
そんな風に思って輝いて社会人の一歩を踏み出したの今は昔。
今ではすっかりくたびれてしまった中年。
今日も休日だというのに呼び出されてみれば、身に覚えの無いクレームで上司にネチネチと叱られつつ処理をする。
帰路につけばもう当たりは真っ赤に染まりかけて、休日の終わりを感じさせる。
せめてもの楽しみと帰路途中にあるコンビニに寄っておでんとビールを買う。
俺は一体何の為に生きているんだろう。この歳になっても独身、誰にでも出来るくだらない仕事で人生をすり減らせていく。
はあ~と深い溜息と共に、何の気まぐれか、ふと横を見ると塀と塀に挟まれた僅か70cmにも満たない脇道が伸びているのが目に入った。
何年も通った道だがこんな道があることを今初めて気付いた。
この道を抜けると何処にいけるんだ?
目を凝らしても夕暮れ時だからか先が曲がっているのか、抜けた先は見えなかった。この道の先は未知。
「未知」
この歳になってまさかこんな言葉を呟くとは。
「よし」
どうせアパートに帰っても誰かが待っているわけで無い。何もするのも自由。今から明日会社に出勤するまでの俺の許された自由なる時間。家に帰ってテレビを見ながらビールと思ったが、なら未知に挑むのもいい。
いやきっと、いい。
俺は狭い道に入り込んだ。
「はっはっ」
心が躍ってくるのが分かる。心がむくむくと若返っていくのを感じる。
体を僅かに傾かせ、一張羅を壁に擦らないように気をつけて若干横歩きに近い。幼少期よくこういった道を走り抜けては服をどこかに引っ掻いては母に叱られたっけ。
人は猫。猫と同じく人は通れる道、それが狭ければ狭いほど惹かれてしまう。
壁と壁に挟まれた細い路地。どれほど歩いたのか、一時間のようにも数分のようにも時間の間隔が溶けていく感覚が心地よい、絶対に時計は見ないぞ。
「ふっふ~ん、ぎょっ」
俺はまだまだやれるそんな心が湧き上がり顔を見上げて歩けば、視線の先、口からぶっといクイの先端を出す裸の男と目が合った。
腰が抜けそうになる。
裸の男はヤモリのような格好で両手両足を押しつけて壁と壁の間に張り付いている。そこまではまだいい、合った目が腐った魚の目のように濁っているのもまだいい。ここまでなら、変態に遭遇したでまだ済ませられる。
何で引き裂かれるほど開かれた口から先が鋭利に削られ、腕ほどのぶっといクイが飛び出ている?
そのクイは一方は口から出ているが、その後端は尻から出ている。
つまり尻から内臓を通って口からクイが出ている、この男は櫛を刺された焼き魚のようになっているのに、なんで生きている?
いやそれとも死んでいるのか?
あのぬめっとした白蝋のような肌の白さ、もう死んでいるのか? 死んで壁と壁の間に張り付いているのか? それなら警察に連絡を・・・。
「うぎゃーーーっ」
クイ男のめがぎょろっと動いて、俺を睨み付ける。そして俺目掛けて、かさかさと手足を動かして向かって来る。
一目散という言葉通り。俺はもう逃げ出した。走って逃げ出した。
走って、走って、走って、走って行く。
とっくに入り込んだ分は走り込んだはずなのに、出口が見えてこない。
「へあ!?」
なんでなんでなんで、出口が見えてこない。壁と壁に挟まれた細い道は、ぐっと地平線の彼方まで続いているように消失点の向こうまで続いている。
何で何で俺はこんな道に入ってしまったんだ?
冒険心なんて出すんじゃなかった。
童心になんか戻るんじゃ無かった。
アパートで愚痴をグチグチ言ってビールを飲んでいれば良かった。
悔いが次々と浮かび上がって後悔する。
「うわっ」
普段から運動不足が祟ってこんな命が掛かった駆けっこなのに、もう足が上がらなくなり躓いた。
そこからは早い。躓いた勢いを殺せないままに俺は地面に倒れ込んだ。
腕すら着くことが出来ずに、全身で地面にダイブしてしまう衝撃に呼吸が止まる。それでも生きたいという意思、さっきまで死んだような気力の無かった男のどこにというほどの死にたくないという意思が、がばっと上半身を起き上がらせる。
そしてまた目が合った。
俺の前の前にクイ男の目があった。
いつの間にか回り込んでいたクイ男は俺の頭をぐっと掴むと、俺は強引に自分が引き寄せられるのを感じた。
口と口を合わせられた。
相手が男だというのも嫌だが、今はそんな生理的嫌悪感を言っている場合じゃ無い。
口からクイが飛び出ている口とキスをしたんだ、当然俺の口に歯を砕きクイが入り込んでくる。
「がぼがばああ」
歯を折られ砕かれ気絶しそうな痛みが襲い掛かって来るが、気絶しない。死にたくない一心でクイ男の頭を掴み引き離そうとするが、そのゴンッとクイが打ち込まれるのを感じた。
歯を磨り潰し顎が外れクイが喉まで入り込んでくる。
後はもう、ガンガンガンと杭が打ち込まれるたびに食道に入り込み、胃を突き破りクイは俺の体を貫いていく。
あれほど死にたくないと思っていたのに、今は自分が押されるよな精神的苦痛、歯の治療の数十倍の痛み。一刻も早く死にたいと願ってしまう。
「今日のニュースです。
本日夕方頃、いきなり路上で裸の男の遺体が発見されました。一部目撃者の話では男はの口から何か杭のようなもので貫かれたような感じがする・・・・」
ニュースを見ていた俺のスマフォが鳴る。
0
あなたにおすすめの小説
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
都市街下奇譚
碧
ホラー
とある都市。
人の溢れる街の下で起こる不可思議で、時に忌まわしい時に幸いな出来事の数々。
多くの人間が無意識に避けて通る筈の出来事に、間違って足を踏み入れてしまった時、その人間はどうするのだろうか?
多くの人間が気がつかずに過ぎる出来事に、気がついた時人間はどうするのだろうか?それが、どうしても避けられない時何が起こったのか。
忌憚は忌み嫌い避けて通る事。
奇譚は奇妙な出来事を綴ると言う事。
そんな話がとある喫茶店のマスターの元に集まるという。客足がフッと途絶えた時に居合わせると、彼は思い出したように口を開く。それは忌憚を語る奇譚の始まりだった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる