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クイオトコ
第九十六話 ケツよりチチ
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相変わらず肩を狭めなければ歩けないような道幅が目を凝らしても先を見通せないほどに伸びている。
俺は左足を引いて武道で言う半身となって愛銃となったコンバットマグナムを抜く。いると分かっているんなら抜いておく、早撃ちガンマンを気取るつもりはない。
腰を落とし右手を伸ばすと送り足で前に進み出す。
少々歩みは遅いがしょうがない、前回は結構奥まで歩かされたことから時間が掛かるかと思われたが、杞憂だった。
「案外ユガミにも感情はあるのかもな」
暗い闇のカーテンが捲り上げら晒されてくる。
全裸で晒される体毛が全て抜けきり爬虫類のようにぬめぬめの青白い肌。
ケツから突き出た全ての希望を呑み込む漆黒のクイ。
首がねじ切れた男が無言、ただ無言で突っ立っている。
顔すらなく表情が読めないはずなのに、ただ立つその姿に恨めしさが溢れ出る。
冷気のように足下から忍び寄り体をよじ登ってくる怨念に、全身の筋肉がガタガタと蠢動する。
この震え、冷気の所為か恐怖の所為か。
これではユガミというより怨霊だな。
このままでは体力を奪われていくだけだ、自分から行くしかない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
体に染みこむ怨念を吐き出す気合いと共に、俺はワイヤーを一回つんと引くと同時に引き金を引いた。
空気を震わす轟音にかじかんだ心も体も熱せられ、体の震えも止まる。
クイ男は飛び上がって銃弾を躱すと同時に両手両足を広げて壁に張り付くとゴキブリの如く急上昇する。そして放物線を描くように登り切ると同時にこちらに向かって落下の如く突進してくる。
「はっ」
狭い空間が仇になったな。いくら高速で動こうが、いくら俺が銃の素人だろうが。上下の狙いを定めるくらいは出来る。
撃つ。
クイ男の右肩が剔れ腐った肉片が飛び散る。それでも止まらない。
撃つ。
クイ男の右肩の肉が無くなり肩胛骨が砕け腕が垂れ下がる。それでも止まらない。
撃つ。
クイ男の肩が無くなり、腕が吹き飛び、肉片が降り注ぐ。それでも止められない。
撃つ撃つ。
マグナムがクイ男の腐った青白い肉をミンチにして吹き飛ばしていくが止まらない。いやむしろ吹き飛ぶ肉片がマグナムの衝撃を逃がしている。そうで無ければ倒せないまでも、吹き飛ばすくらいは出来たはず。
今更の失策に気付いた時には、直上に迫るクイ男は体をくるっと反転、汚いケツ、ケツから突き出るクイの先端を俺に向けると飛んだ。
俺を串刺しにすべく迫り来るクイ、迎撃する弾は切れた。
リロードする暇は無し。
飛び退いて躱そうとすれば何かに足が躓いた。
スローモーションの如く自分が倒れていくのを認識する中で足下を見れば吹き飛ばした腕が俺の足首に絡みついていた。
そこからは、無我夢中で思考する間もなく反射だけで動いていたと言っていい。だから記憶にも無く気付いた時には俺はクイ男に押し倒されていた。
クイ男の足は俺の両肩を押さえ、俺目掛けて屈もうとするのを俺は両手で押し返す。
「くそっきたねえケツを向けるなっ」
眼前にケツを向けられ、ケツから飛び出るクイが俺を貫こうと迫り来る。
じりじりとクイの先端が俺の目に近付いてくる。
力の差は明かで押し返せない、肩も押さえられ、寝転がって外そうにも両側を壁に抑えられている。
ぬめりとする気持ち悪い男の尻の感触に耐えつつの抵抗などじり貧なのは明確。
詰み。
やはり、俺ではユガミと正面から戦って勝てない。
時雨さんと替わって貰うべきだったのを男の意地などとくだらないことで断り、この始末。
後悔が俺の心にじわじわと染みこんでくる。
クイ男が一瞬喜悦したように感じた。
「男の尻なんぞ触らなくては成らないなんて後悔するぜ。
だが、それ以外はこうも作戦通りだと怖いくらいだぜ」
この構図こそ俺が望むべく最高の布石。
俺は尻を押さえる片手を離すとワイヤーを二回クイックイッと引いた。
両手でやっとこのところを片手に成り、ぐっとクイが迫り来る。
もはや後悔に貫かれる寸前だが、それより早く寒く暗い路地裏に、顔面が焼けるかと思う熱風が湧き上がり、紅の流星が眼前にまばたく。
「あちあちっ」
俺の体を押さえていたクイ男はいなくなり俺は慌てて起き上がる。そして起き上がった視線の先、背中を向けるキョウとその先に炭化したクイ男が転がっていた。
「うっさいわね、男なら我慢しなさい」
スラッと立って振り返るその姿、女にしておくには勿体ないほどに格好良く決まっている。
「ばーろ、いい男が台無しになる所だったじゃないか」
実際あと数ミリ、軌道が下側にぶれたら俺の顔面は大やけどだったな。
珍しく俺の運が良いのか、キョウが気遣ってくれたのか。
「そう? 箔が付いて男前が上がるんじゃない」
残心を残していたキョウは警戒を解き俺の方に体ごと向いてくる。
「なら、デートでもしてくれるか」
「ばっばかじゃないの、この浮気者時雨に言いつけてやるから」
「軽い冗談だろ、何ムキになってるんだよ。
それよりクイ男は片付いたか」
「私の一撃を食らったんだぞ。決着が付いたに決まってるじゃないか」
「そうなのか、!」
キョウ越しに見える墨と化したクイ男から最後の断末魔の如くクイが射出された。
燃え上がる激情は可哀想な男の体を炎で包み墨と化したが、後悔の念の深さは激情の嵐が吹き荒れようと深く根を張りしぶとくやり過ごし生き残る。
このままじゃキョウの背中にクイが刺さる。あの挫折した男達の後悔の念を蠱毒のように競わせ高めた悔の結晶、あんなものを注ぎ込まれてキョウは大丈夫なのか?
命は助かるかも知れないが、今俺の前で見せる屈託の無い笑顔は消える。
きっと俺が鏡で見るような笑顔になってしまう。
そいつはご免だな。こんなしけた面、他には見たくない。
なら。
俺は得意気の顔で油断しきっているキョウの胸倉をぐにゅっと掴む。不謹慎だが暖かく柔らかい、やっぱり掴むなら男のケツより女の胸の方が良いもんだ。
「はにゃろんっ」
胸を掴まれ真っ赤に染まるキョウから力が抜けたタイミングで胸をグッと掴んで下に引き倒した。
「いたいっ」
すまないと謝りつつ、キョウが倒れ無防備に晒された俺の胸にクイが刺さった。
「せっセリ!!!」
驚愕に目を見開いたキョウの顔を最後に、俺の意識は黒く染まった。
俺は左足を引いて武道で言う半身となって愛銃となったコンバットマグナムを抜く。いると分かっているんなら抜いておく、早撃ちガンマンを気取るつもりはない。
腰を落とし右手を伸ばすと送り足で前に進み出す。
少々歩みは遅いがしょうがない、前回は結構奥まで歩かされたことから時間が掛かるかと思われたが、杞憂だった。
「案外ユガミにも感情はあるのかもな」
暗い闇のカーテンが捲り上げら晒されてくる。
全裸で晒される体毛が全て抜けきり爬虫類のようにぬめぬめの青白い肌。
ケツから突き出た全ての希望を呑み込む漆黒のクイ。
首がねじ切れた男が無言、ただ無言で突っ立っている。
顔すらなく表情が読めないはずなのに、ただ立つその姿に恨めしさが溢れ出る。
冷気のように足下から忍び寄り体をよじ登ってくる怨念に、全身の筋肉がガタガタと蠢動する。
この震え、冷気の所為か恐怖の所為か。
これではユガミというより怨霊だな。
このままでは体力を奪われていくだけだ、自分から行くしかない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
体に染みこむ怨念を吐き出す気合いと共に、俺はワイヤーを一回つんと引くと同時に引き金を引いた。
空気を震わす轟音にかじかんだ心も体も熱せられ、体の震えも止まる。
クイ男は飛び上がって銃弾を躱すと同時に両手両足を広げて壁に張り付くとゴキブリの如く急上昇する。そして放物線を描くように登り切ると同時にこちらに向かって落下の如く突進してくる。
「はっ」
狭い空間が仇になったな。いくら高速で動こうが、いくら俺が銃の素人だろうが。上下の狙いを定めるくらいは出来る。
撃つ。
クイ男の右肩が剔れ腐った肉片が飛び散る。それでも止まらない。
撃つ。
クイ男の右肩の肉が無くなり肩胛骨が砕け腕が垂れ下がる。それでも止まらない。
撃つ。
クイ男の肩が無くなり、腕が吹き飛び、肉片が降り注ぐ。それでも止められない。
撃つ撃つ。
マグナムがクイ男の腐った青白い肉をミンチにして吹き飛ばしていくが止まらない。いやむしろ吹き飛ぶ肉片がマグナムの衝撃を逃がしている。そうで無ければ倒せないまでも、吹き飛ばすくらいは出来たはず。
今更の失策に気付いた時には、直上に迫るクイ男は体をくるっと反転、汚いケツ、ケツから突き出るクイの先端を俺に向けると飛んだ。
俺を串刺しにすべく迫り来るクイ、迎撃する弾は切れた。
リロードする暇は無し。
飛び退いて躱そうとすれば何かに足が躓いた。
スローモーションの如く自分が倒れていくのを認識する中で足下を見れば吹き飛ばした腕が俺の足首に絡みついていた。
そこからは、無我夢中で思考する間もなく反射だけで動いていたと言っていい。だから記憶にも無く気付いた時には俺はクイ男に押し倒されていた。
クイ男の足は俺の両肩を押さえ、俺目掛けて屈もうとするのを俺は両手で押し返す。
「くそっきたねえケツを向けるなっ」
眼前にケツを向けられ、ケツから飛び出るクイが俺を貫こうと迫り来る。
じりじりとクイの先端が俺の目に近付いてくる。
力の差は明かで押し返せない、肩も押さえられ、寝転がって外そうにも両側を壁に抑えられている。
ぬめりとする気持ち悪い男の尻の感触に耐えつつの抵抗などじり貧なのは明確。
詰み。
やはり、俺ではユガミと正面から戦って勝てない。
時雨さんと替わって貰うべきだったのを男の意地などとくだらないことで断り、この始末。
後悔が俺の心にじわじわと染みこんでくる。
クイ男が一瞬喜悦したように感じた。
「男の尻なんぞ触らなくては成らないなんて後悔するぜ。
だが、それ以外はこうも作戦通りだと怖いくらいだぜ」
この構図こそ俺が望むべく最高の布石。
俺は尻を押さえる片手を離すとワイヤーを二回クイックイッと引いた。
両手でやっとこのところを片手に成り、ぐっとクイが迫り来る。
もはや後悔に貫かれる寸前だが、それより早く寒く暗い路地裏に、顔面が焼けるかと思う熱風が湧き上がり、紅の流星が眼前にまばたく。
「あちあちっ」
俺の体を押さえていたクイ男はいなくなり俺は慌てて起き上がる。そして起き上がった視線の先、背中を向けるキョウとその先に炭化したクイ男が転がっていた。
「うっさいわね、男なら我慢しなさい」
スラッと立って振り返るその姿、女にしておくには勿体ないほどに格好良く決まっている。
「ばーろ、いい男が台無しになる所だったじゃないか」
実際あと数ミリ、軌道が下側にぶれたら俺の顔面は大やけどだったな。
珍しく俺の運が良いのか、キョウが気遣ってくれたのか。
「そう? 箔が付いて男前が上がるんじゃない」
残心を残していたキョウは警戒を解き俺の方に体ごと向いてくる。
「なら、デートでもしてくれるか」
「ばっばかじゃないの、この浮気者時雨に言いつけてやるから」
「軽い冗談だろ、何ムキになってるんだよ。
それよりクイ男は片付いたか」
「私の一撃を食らったんだぞ。決着が付いたに決まってるじゃないか」
「そうなのか、!」
キョウ越しに見える墨と化したクイ男から最後の断末魔の如くクイが射出された。
燃え上がる激情は可哀想な男の体を炎で包み墨と化したが、後悔の念の深さは激情の嵐が吹き荒れようと深く根を張りしぶとくやり過ごし生き残る。
このままじゃキョウの背中にクイが刺さる。あの挫折した男達の後悔の念を蠱毒のように競わせ高めた悔の結晶、あんなものを注ぎ込まれてキョウは大丈夫なのか?
命は助かるかも知れないが、今俺の前で見せる屈託の無い笑顔は消える。
きっと俺が鏡で見るような笑顔になってしまう。
そいつはご免だな。こんなしけた面、他には見たくない。
なら。
俺は得意気の顔で油断しきっているキョウの胸倉をぐにゅっと掴む。不謹慎だが暖かく柔らかい、やっぱり掴むなら男のケツより女の胸の方が良いもんだ。
「はにゃろんっ」
胸を掴まれ真っ赤に染まるキョウから力が抜けたタイミングで胸をグッと掴んで下に引き倒した。
「いたいっ」
すまないと謝りつつ、キョウが倒れ無防備に晒された俺の胸にクイが刺さった。
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