俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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クイオトコ

第九十七話 絶悔

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 巨大なる漏斗。ビルすら飲み込める。
 その漏斗に俺は投げ込まれた。
 液体に満たされし漏斗の上澄みには百何十人という人が浮かび天を仰ぐ。
 あの時失敗しなければ、出世していた。
 あの時怪我をしなければ、試合に出られた。
 あの時告白していれば、恋人になれていた。
 種々の理由はあるが根底は同じ、悔いて掴めなかった夢を夢見て天を仰ぐ。
 嘆きの深さだけ天は高くなり彩られる後悔に溢れている。
 水と油を混ぜて放置すれば比重の違いで分離していくように。
 天を仰ぐだけまだ軽い上澄みから天すら仰げない重い悔が沈んでいく。
 人の形は無くなっていき色が濃くなっていく。
沈めば沈むほど悔は重くなり理由が薄れていく。
 ただ振り返り、ただ嘆く。
 理由が無くなろうとも悔いる。
 理由などという不純が沈むほどに取り除かれ純度の高い悔になる。
 悔いる為の後悔。
 重く凝縮され最早浮かぶことなど叶わない心。
 絞りに絞り上げ純度極まる悔。
 それが今蛇口ほどにまで絞られた漏斗の先に滴っている、百人程度では未だ重さが足りない数万人分はいるだろう。
 恒星が爆破し超新星と成り、やがて光すら呑み込むブラックホールの核になる。
 希望が弾けて後悔と成り、やがて全ての感情を沈める絶悔となる。
 未だ臨界点を超えられず漏斗から絞り出されない純悔の一滴。
 こんなものがもし臨界を越え現世に滴り落ち絶悔が現界すれば、この街一帯の人間の喜怒哀楽愛憎は沈み込む。
 その時機械のようになった人間が生まれるのかも知れない。
 それともその先を越えた感情を持つ人間が生まれるかも知れない。
 未知の誕生。
 それが目的か、廻。 
 漏斗の底まで人の形のままに沈み込めたが、出口までは至らず止まってしまった。
遠からず俺の体から悔が分離して沈んでいくだろう。
 脱出口は手を伸ばせば届くほどの距離。
脱出するには重さが足りない。
 ならば手は一つ。
 ごっくん。
 俺は手を伸ばし漏斗の口に溜まる純悔を掬い上げ呑み込んだ。
 ずっしりと体が鉛になったかのように重くなり沈み込んでいくのを感じた。
 だがまだ足りない、まだ重さが足りない。
 恒星がブラックホールになるのを止められないように、もはや絶悔に成らねば出口は無い。
純悔を俺の意思有る悔で包み込み押し潰していく。
無理矢理螺旋に回して凝縮させていく。
ぐるんぐるんと回って純度を高め重くなって沈んでいく。
ぶるんぐるんと回って純度高め重くなり粒子並みに小さくなって沈んでいく。
最後に過剰にまでに螺旋を回して。
 絶悔に至る。
 全ての感情が消え去りコンピューターの如きクリアな思考になる。
感情など入る隙など皆無の完全なる合理性。
完全なる合理性の前に生きている意味など無い。
生きる為の努力をしなければならない、理由を見いだせない。
生きるとは、合理性の対極。
合理性が命のスイッチを切ろうとする前に過剰に回した余波で絶悔に至って突き抜ける。
 全てを呑み込むブラックホールの行き着く先は、無。そして無と成りし時全てを生み出すビックバンとなる。
 全ての感情を呑み込む絶悔の行き着く先は、無感情。そして無感情と成りし時喜怒哀楽愛憎を越えた先セブンフィールが生まれる。
 陰陽二元たるこの世界、表を極めた先は裏。
 俺は溢れる感情と新たなる感情に目覚め目を開いた。

「この天井もいい加減見慣れちまったな」
 見慣れてしまった警察病院の特別個室の天井。最近では俺専用の個室と化してきている。
 だが今回に限って言えば見慣れないものがある。
 俺が眠るベットの脇、俺を見守っていてくれたのか女神が二人いる。夜通し着いていてくれたのか疲れ果て、俺のベットに俯せになって寝ている。
「心配を掛けたかな」
 俺は静かに起き上がると、優しくキョウを抱き抱えベットに寝かす。
「もっと割り切った女だと思ってたんだが、あの程度のことで負い目なんか感じること無いのに」
 キョウの頭を撫でて、次に俺は時雨さんを抱き抱えベットに寝かす。
「この献身が恋人だからなら嬉しいだけどな。でも勘違いは互いの不幸。時雨さんは誰にでも優しいからな。
 でもこのくらい、契約でも恋人だし」
 俺は軽く時雨さんの頬にキスをして、キョウと時雨さん二人に掛け布団を掛ける。
 キョウと時雨さん二人は中のいい子犬のように互いに寄り添い眠る。この光景をずっと見ていたくもあるが、見ていられないのが男の辛いところ。
「さてと、後始末と行くか」
 この寝顔を守りたいなら、例え誰を巻き込もうと嫌な奴になりて突き進むしかない。
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