俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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クイオトコ

第九十九話 自覚あり

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 前埜の事務所を出た足でそのまま警察署に向かい、さてどうしたものかと署を前にして溜息一つ。
 このまま俺が指揮を執ったところで士気は上がらないだろう。昨日みたいな単純作業なら兎も角、今度は主体性が重要になる。
 俺は真偽は兎も角エリートキャリア官僚のレッテルを張られてしまったというか、張られるべくして張られた。小学生の餓鬼から大人まで人間の本質は変わらず勉強をまじめにやるような人間は情が無いとか実務が出来ないとか、会った瞬間からレッテルを貼られ嫌われる。時間があれば相互理解を深めていくことも出来るかもしれないが、そんな時間は無い。
 更に言えば、所轄の署員が捜査していた案件を横からかっ攫ったことにもなっていて更なるエリート憎しの大合唱。
 今更媚びを売ったところで見くびられるだけの逆効果。
 体育会系の如く付いてこいと言っても、そっぽを向かれる。
 世の中金、臨時ボーナスが出せれば解決出来るが、そんな権限は無い。
 結局、エリート権限でロボットの如く従わせるしかないのか。
 いや、手は有る。俺が最も得意とするところだが、博打が強い。
 結論が出ないままに、歩いて行く俺に声が掛かった。
「よっ若人よ、何かお悩みですか?」
「ん?」
 署の入口の脇に斜に構えた面構えの年の頃20代半くらいの青年がいた。
「誰だ?」
「これは失礼しました。
 特命を受け、警部殿をサポートする為に公安より来ました、甲斐 茂です。
 以後お見知りおきを」
 甲斐はニヒルに笑って手を出してくる。
 もっと歳のいったベテランを監視役に派遣するかと思ったが、若い、そしてとびきりクセがありそうな男を寄越してくれたようだ。
 まあ友達が欲しいわけじゃ無い、能力があればいいかと思いつつ俺が甲斐の手を握ろうと手を出していくと。
「おっとカワイコちゃん発見」
 甲斐はさっと手を引いて額に手を当て婦警を見る。
 俺の差し出した手は虚しく空を握る。
「おやどうしました警部、右手が寂しそうですね」
 ふっふ、所轄の刑事達より更に上の子供のような反抗心を持った男か。此奴だって公安のエリートだろうに。それともエリート故に年若く自分より出世している男を妬むのかも知れないな。
「そういった態度を取るだけの実力は見せて貰えるんでしょうね、甲斐さん」
 まだ五津府を信じよう、嫌がらせでは無く能力のある男を派遣してきたと。
「なきゃどうなるっての?」
「実戦なんだ、その身で無能を思い知ることになるだけですよ」
「そいつはおっかない。じゃあ、実力を見せてやるからさっさと行こうぜ」
 軽く肩を竦め甲斐は俺に先を促す。
「言われるまでもなく」
 何処を向いても敵ばかり、俺はある意味甲斐のおかげで自分に自信が持て方針が決まった。

 大会議室に入ると廊下まで聞こえていた雑談はピタリと止み集められた警察官達の刺すような視線が一斉に俺に向けられる。
 自軍の大将を見る目じゃない、敵軍の大将を見る目だな。
 針のような視線を弾き返しつつ俺は会議室の壇上まで行く。
「お待ちしていました。全員集まっています」
 壇上の横に設置された席でパソコンをいじくっていた工藤が立ち上がって俺に報告してくる。ここにはクイ男の事件の捜査をするため集められていた刑事だけで無く、手の空いている他の課の警官も出席して貰うように工藤に頼んでおいた。総動員を掛けなかったのはリークするのを防ぐため。
「ご苦労。時間が無い早速はじめさせて貰う」
「分かりました」
 工藤は席に着き、俺は集められた三~四十名の警察官達の方を向く。前の方の席に大人しく座っている田口が俺を見て驚いたような顔をしているのが見えた。
「手柄を立てさせてやる。チャンスと思い各員奮闘せよ」
 俺は居並ぶ警官達の目を睨み付け、挑発的に言い切った。
「おいおい、エリートのお坊ちゃんよ~俺達は朝からここに集められた理由を聞きたいんだがな」
 ざわめく波に乗り中年の刑事が発言許可を求めること無くやじってくる。
「そうかならば言い方を変えよう
 汚名返上するチャンスをくれてやるから、全力で励め」
「おいおい、そりゃどういう意味だ。エリートだからって調子に乗るなよ」
「調子に乗るな? 俺は優しいぞ。
お前達は自分達の所轄において凶悪な犯罪が行われているのに関わらず、ケツに火が付くまでのほほんとしているようなマヌケだ。
そのマヌケにチャンスをやろうと言っているんだぞ」
「若造何を言っているか分かっているんだろうな」
 中年の刑事がいや会議室にいる警官全員が俺に今にも飛び掛からんばかりの殺気を放ってくる。流石俺嫌われることに関しては外れが無い。
「果無警部、それは貴方の後ろにいる人物とも関係あるのですか?」
 工藤警部補が場に水を差す為か質問をしてくる。
 いい質問をいいタイミングでしてくれる、ここで甲斐を敢えて紹介しなかったことが生きてくる。
「彼は甲斐 茂、公安刑事だ。この意味分かるな?」
「こっ公安だって」
「君達が差し出した慈悲のラストチャンスを不意にするというなら、今回の案件丸ごと公安に渡そうと思っている」
 同じ組織の中でありながら公安は何かとその他警察から敵視されている。エリート官僚に公安、人は敵が二つに増えた時どちらかと手を結んでもう一方を排除しようとする。よほどの馬鹿なら二つ同時に敵対するが、そこまで馬鹿じゃ無いと信じたい。
 はてさて、エリート官僚と公安、どっちと手を結ぶ?
 気に入らない俺の犬と成り、手柄を立てるか。
 気に入らない俺の犬に成るのを拒否して、汚名を被るか。
「まっ待てよ。俺達は内容を何も教えて貰ってないんだぞ」
「本件は万が一にも漏洩されるわけにはいかない。よって内容は直前まで教えられない。
 ただ俺に従え、ただ励め。
 その代わり、今後数年は誇れる手柄を立てさせてやる。
 強制はしない、厳罰も無しだ。
 命を賭けて手柄を立てないなら、銃を携帯の上防弾チョッキを装備して10分後に下に集合しろっ。
 解散」
 俺のこれ以上の質問を受け付けないとの毅然とした態度を読み取り警官達は無言で立ち上がり会議室を出ていく。
 普通ここまで煽れば、嫌いな俺を見返してやろうと奮起して参加するよな? それとも嫌われすぎて俺に従うくらいなら公安に手柄をくれてやると逆効果になんか成ってないよな?
 悩んだところで十分後には分かること、気持ちを切り替え俺は工藤に確認する。
「工藤警部補、頼んでおいた足の準備は出来てるか?」
「一応全員分の足は用意しておきましたが、あんな言い方で何人来ますかね」
 同調圧力日本だ。全員来るか全員来ないかのどっちかだろ。
「拠り所は俺への反抗心だけだからな。死ねと命令できない俺はまだまだ甘いな」
「ははっ私でも言えませんよ」
 工藤が乾いた声で言い、言外にめんどくさい事しないで普通に命令しろと訴えてきている。
「おいおい、俺を勝手に憎まれキャラにするなよ」
 甲斐が横から割り込んで俺に抗議してくるが、誰もいなくなるまで待つだけの配慮はあるようだ。
「うまくいけば、手柄は公安の独り占めだ。悪い話じゃ無いだろ」
「だいたい公安を動かすなんて話し俺は聞いてないぞ」
「だから言葉通りの意味だろ。手柄は公安の甲斐の独り占めだ。出世できるぞ」
「二階級特進かよ」
「実力を見せてくれるんだろ」
 ある意味甲斐で良かった、心を痛めることなく死ねと命令できる。
「お前嫌な奴だな」
 自覚しているよ。
「さて、結果を見に行くか」
俺は工藤甲斐と共に会議室を出て一階に向かうのであった。
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