椿の花の咲くころにーずっと尽くしてきたけど彼の選んだのは別の女性でした。だから私自身を大切にしたら幸せになりましたー

梅雨の人

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尽くされた男は大事な女を失った(田中雄太視点)

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(田中雄太視点2/2) 

『さようなら』 

 

浮気したおかげと言っては何だが、椿の良さも再認識して、これから椿をますます大事にしていこうと思っていたところでのこのメッセージに、頭の中が真っ白になって椿のアパートに急いで向かったけど、会ってさえくれなかった。 

『女二人で一人の男を共有する気持ち悪い性癖はない』と言われて頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。 

――いつから浮気がばれていたんだろう……やばいやばいやばいやばい… 

まさか、長瀬とのことが椿にばれていたなんて思ってもみなかった。 

椿と俺が別れたという噂が社内を巡りだすと、再び長瀬が俺に近づいてきた。 

俺はもう興味もないし何なら長瀬と浮気したせいで椿に振られたんだから、もう本当にこいつとは関わりたくないと心から思って、徹底的に無関心を貫いた。 

こんなどうしようもないことで俺は椿を失ってしまった。

************** 

『尽くして尽くして、感謝をされることもなければ大事にされることもない女だったんです。ーーー尽くし過ぎる私が元カレを駄目にしたのかもしれません。尽くし尽くして、でも結局彼の選んだのは自分ではない女性だったのですけれども―――』 

あれから、椿の言葉を何度も反芻しながらふらふらと何とか自宅にたどり着いた俺は、椿があの男に語っていたことに混乱していた。

違う、椿のせいで俺が駄目になったんじゃない。むしろ俺が椿の献身に胡坐をかいていただけだったんだ。それに、椿を振って長瀬を選ぼうなんて考えたこともなかった。声に出して伝えたかったけど出来なかった。---なぜなら椿の視線は一切俺を捕らえることはなかったからだ。 

椿が尽くしてくれたおかげで俺は毎日仕事に趣味に集中できていた。旨い食事に、綺麗な部屋、クリーニング済みのワイシャツとスーツ、それから最高にかわいい愛する彼女の居る毎日。全てが順調だった。それはすべて椿自身の金も時間も労力も俺に差し出してくれていたおかげで成り立っていたものだ。分かり切っていたことなのに、俺はそれが当たり前だと感じるようになっていた。 

それが今はどうだろう。部屋の掃除も料理もしばらくしてこなかった俺は、いくら頑張ったつもりでも、椿のようにうまくやることはできない。そうこうしているうちに、掃除をすることも料理をすることもあきらめてしまった。

料理するにも食材に金がかかるし、かといって外食しても適当に出来合いを買ってきても金がかさみ、酒やクリーニング、その他もろもろ必要なものを買うと結構な金額になった。
おかげでこれまでのように趣味のゴルフに考えなしに金をかけることも時折、躊躇するようになった。 

―――俺はずっと自分が都合がいいように椿を使っていたんだと気が付いた。椿が金を出してくれた分の浮いた金で高い趣味を続けて、友人たちと飲みに行って、椿には特別に何かしてあげようという気持ちがいつからかなくなっていたような気がする。それなのに椿が俺の知らないところで何かをするのは許せなかった。 

俺が何をしても椿は俺を許してくれて、俺のために尽くしてくれて、俺の家でずっと待ってくれてるものだとばかり信じ込んでしまっていた。そんなわけないのに…。 

 
俺の目の前で、男は椿に交際を申し込んだ。そして椿はそれを嬉しそうに快諾した。椿を抱きかかえるようにして立ち去っていった男も椿も、もう俺の存在なんて忘れてしまっていたのだろう。--二人は幸せに満ちていた。 

男は椿に結婚前提での交際を申して込んでいたけど、会話の内容からして出会ったばかりなのだろうと思った。つまり、椿は短期間であの男を魅了してやまない存在になったということだ。椿は本当に魅力的で俺の最高の彼女...だったんだ…絶対に手放したくなかった…それなのに、二人の世界に浸ったまま椿は去っていった。 

俺の椿が…俺の椿が俺を振り返らずに、あの男と去ってしまった―――――。 
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